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難民の中に

 執務室の中、ユーリアが手元の紙を頼りに、チョークを使って黒板に書き込んでいる。


 黒板は二種類の木材、チョークはレイム石という名前の素材で作られた。


 レイム石でできたのは白い普通のチョークだが、ニーナの実験でカルスミという鉱物を混ぜたら赤いチョークになる事が確認された。


 そうして用意した黒板と二色のチョークで、ユーリアはグラフを書いてる。


 書き終わって、チョークを置いて、おれを見る。


「これが、今の衣食住の需要」


「ご苦労」


 ユーリアをねぎらって、グラフを見た。


 おれの基本方針は衣食住の基本を確保すること。今までそれでやってきて、これからもそれで行くつもりだ。


 方針は変わらないけど、規模が大きくなったからそれをわかりやすくまとめてくれってユーリアにいうと、彼女はこうして、グラフにしてくれた。


 このあたりはさすがユーリアだ。


--------------------------


衣 ■■■□□

食 ■■■■□

住 ■■□□□


--------------------------


 黒板に書かれたグラフはものすごくわかりやすく、一目で大体把握できた。


「五段階でわけたんだな」


「そう」


「衣と住はいいけど、食の需要がやけに高いな。そんなに足りないのか? プシニーの残量は?」


「それは足りてる。これは、ちょっといいものを食べたい、という需要も入れたもの」


「ちょっといいもの? 美味いものとか、食後のデザートとかそういうのか?」


「うん。そう言う声がある」


「それは考慮しなくていい、純粋に生きるために食べるってのだけ考えろ」


 嗜好品は作らないのがおれの方針だ。


「それなら、こうなる」


 ユーリアはグラフを書き直した。


--------------------------


衣 ■■■□□

食 □□□□□

住 ■■□□□


--------------------------


 食が一気に減って、ゼロになった。


 うん、最初からこっちなら納得だ。


 プシニーは作りやすいから大量に生産してあって、足りないことはないはずだ。


 むしろあまり気味のはずだ、そのように作ってるから。


「って事は需要のある服と住居を作ればいいのか。うん、わかりやすい。そうだ、町ごとの需要も出せるか?」


「ちょっと待って」


 ユーリアはそう言って、いつも持ってるメモらしき物をものすごい勢いでめくった。


 ちらっとのぞき込む。書かれてるものとか数字とか、見ててちんぷんかんぷんだ。


 おれは諦めて、ユーリアを待った。


 ちょっとして、黒板に新しいグラフを書き始めた。


 リベックからカザン、ビースクと、領内の町の名前を書いていき、それの下に同じように衣食住のグラフをかいた。


 全部の町を書き切って、チョークを置くユーリア。


「できた」


 おれは新しいグラフを見た。


 町によって需要が違ってるのがわかる、カザンは食がちょっと必要で、ビースクは住がほとんど必要ない。


 それを見てるとどこに何をすればいいのかがわかる。


「よくやった。いい子だ、一枚やる」


 頭を撫でてやって、折り紙のメダルをあげた。


 ちょっと満足げな顔をしたが、魔力のチャージはなかった。


 ユーリアならいつもの事で、気にしなかった。


「これを常に最新状況に保つようにしとけ」


「わかった」


 頷くユーリア、おれは改めてグラフを見た。


 気になる町を見つけた。


--------------------------

ベルミ


衣 ■■■■■

食 ■■■■■

住 ■■■■■


--------------------------


 マクシムから開放した民の町は、何故か全項目が振り切っていた。


     ☆


 列車に乗って、ライサと一緒にベルミに向かって移動する。


 DORECAでステータスを確認した、そこに記されてる領民の数が8888人になっていた。


 ぞろ目すげえ……ってならなかった。


「一気に増えたな。このふえた分、全部ベルミの分ってわけか。そりゃ需要も爆発的に増えるわな」


「それをどうするの?」


 ライサが聞く。


「ついたらまずはプシニーの生産。作り方はわかってるな?」


「これで土を掘って入れる、よね」


「そうだ。魔力消費が高いけど、千個単位の魔法陣を二つ張る。それで当面は凌げるはずだ。ライサはそれをとにかく作る、作った後は配る。ユーリアの話だと新しい奴らはほとんど難民化してるから、どこに配るのかわかりやすくなってるはずだ」


「うん」


「どうしてもわからなかったら聞きにこい」


「あな――ご主人様は?」


 言い換えたライサ、おれの奴隷としてまだ慣れてないみたいだ。


 それを無視して、質問に答える。


「他に必要なものつくってる。やることは多いぞ」


 おれは気合を入れた。


 全需要MAX。かなりの大仕事になりそうだ。


     ☆


「お待ちしておりました!」


 ベルミについた。列車から降りると、待ち構えてた男がおれ達を出迎えた。


「少し待て」


 そいつを待たせて、イリヤの泉の範囲ギリギリ、町の外周に魔法陣を張った。


 1000個のプシニーの魔法陣を、とりあえず二つ。


 ライサに目配せして、さっきの命令通り作らせた。


 そうして男に向き直って、聞く。


「お前はヴァルラムか」


「はい」


 男が頷く。


 ユーリアからあらかじめ聞いてる。彼の名前はヴァルラム、この街の町長だ。


 最初の頃はマイヤがベルミの長を兼任してたけど、一度復興がおわって、町が軌道に乗ったから、町の中から推薦してもらったこの男を町長にした。


「話は聞いた、人間が一気にふえたらしいな」


「はい。どこから聞きつけたのか、難民が一気にやってきて。我々もちょっと前まではそうだし、陛下の方針もあって受け入れたけど、それが増えに増えて、パンクするところだったのです」


「そうか。増えた分は?」


「約千人ってところです」


「元からいるのは?」


「500人くらいです」


「そうか」


 町の住民に対して倍近い難民か。


 ひさしを貸して母屋を取られるところか、母屋ごとつぶれるパターンだ。


 ……ま、普通ならな。


「とりあえずあれで今日の分の飯は確保できる」


 親指で背後のライサを指す。


「食わせたら働ける男を集めろ。いろいろ作るから、人手は必要だ」


 おれはそう言って、どこに作るのかを見るため、街の中に入っていった。


     ☆


 町の外れに木の家の魔法陣を100個出した。


 とりあえず100で止めた、人数分には届いてない。


 魔力は足りてる、問題は素材だ。


 ヴァルラムから聞いた話だと、ベルミに備蓄されてる素材はその100でつきてしまう。


 復興したばかりで備蓄が追いついてないって事だから、そこは仕方ない。


 おれは町の中心部に戻ってきた。


 そこにライサがいた。


 彼女は作ったばかりのプシニーを難民に配っている。


 目が合った、手招きして呼び寄せた。


「なんかありましたか」


「配りおえたのか?」


「はい」


「そうか、よくやった」


 ――魔力を1,000チャージしました。


「早速で悪いが、もう一仕事頼む。リベックにちょっと行ってこい」


「リベックに? どうして」


「素材が足りない。ユーリアに言って、あっちの備蓄をこっちに送るように伝えろ」


「えっと……」


「どうした、命令にわからないところがあったのか?」


「ううん、それは大丈夫。それ、多分もうすぐつく」


「うん?」


 どういうことだ?


「こっちの物資が足りないから、後から送るって、出発するときに教えてくれた」


「なるほど、流石ユーリアだ」


 どうやらベルミの台所事情も把握してるみたいだな。


 ってことはそれは待ってればいいんだな。


 おれは一息ついて、まわりの状況を観察した。


 町の中心部、そこに難民達が集まってきて、作りたてのプシニーを食ってる。


 既に一部の人間が食い終わって、暇そうにしてる。


「ライサ」


「はい」


「手が空いてるやつらを集めろ。まずは300人だ。町の外れに魔法陣を張ってある、そいつらをつれて家を完成させてこい」


「わかった」


 ライサが動ける男達を連れて行った。


 最初は文句いうやつもいたが、作った家は自分のもの、って説明したらあっという間に人数が集まった。


 そいつらを見送った。さて、次は服を作らないとな。


「――!」


 こんな広場じゃ作れないからと空いてる場所に移動しようとしたが、歩き出してすぐにとまった。


 息を飲んだ、パッと振り向いた。


 難民の中に、知ってる顔を見つけた気がした。


 かつては自信満々で印象的な顔。


 聖夜だ。


 難民達をじっと見つめた。聖夜の姿を探した。


「いない……」


 探したが、見つからなかった。


 おれは諦めて、服を作ろうと場所を移動した。


 それでも考えてしまう。聖夜の事を。


「見間違いだったのか……いや。メニューオープン」


 DORECAでメニューを開いて、ステータスを確認。


 領民の数――8887人。


 ぞろ目じゃなくなってた、一人減っていた。


「もう町を出たのか、それとも……」


 何となく、難民の中にいたのがそいつだって、確信を持ったのだった。

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