町長になりました
エルーカーを追加で狩って、白毛虫の毛を手に入れた。
ただの服を作ったときの状況からして、逆説的にこれが高級な素材である可能性が高い。
どのみち素材はあればあるほどいい、いざって時にすぐものを作れるから、追加で見つけて、倒して集めてきた。
ちなみにエルーカーは、新しい剣・エターナルスレイブで楽に倒せた。
鉄の剣でペチペチ叩いていたのが、一振りで真っ二つにした。
やっぱりものすごい武器だった。
さらに小技も見つけた。
ただの服の魔法陣を出しておくと、それがレーダーみたいにエルーカーの居場所をさしてくれる。まあこっちはおまけみたいなもんだ。
ともかく、おれは大量の毛を抱えて、町を作る予定地に戻ってきた。
「なっ――」
目の前の光景に驚いた。
家がほとんど壊れていた。
崩れたり、プスプスと黒い煙を上げたりしている。
「どうしたんだ!」
ヨシフにかけよって聞いた。
「あっ、アキトさん。実はモンスターに襲われて」
「モンスター?」
「はい、すごく強いモンスターで……抵抗したんですけど、この有様で……」
苦虫をかみつぶした表情のヨシフ。
よく見ると家が壊されただけじゃない、他の人達もケガをしてる。
まさしく襲撃されたあと、って感じだ。
「すまない、せっかく作ってもらったのに」
「それはいい。それより薬を作るから手伝って」
DORECAを持ってメニューを開いた――瞬間。
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アキト
種別:ノーマルカード
魔力値:20873
アイテム作成数:18
奴隷数:1
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おれは驚いた。
魔力値が何故かものすごく中途半端な数字になってた。
本当なら22000あるはずだ。残った分と、エターナルスレイブ作成でチャージされた20000をあわせてそれくらいはあるはず。
なのにちょっと減っていた。
なんなんだ? これ。
「アキトさん?」
ヨシフが不思議そうにおれをみた。
「いや、なんでもない」
とりあえずこれはほっとこうと、おれは万能薬の魔法陣を十個作った。
今使う分と、ストックとして置いておく分だ。
それをヨシフに任せて、今度は壊された家の前に立った。
更にメニューを開く。作れるもののリストに「修復」というのがあった。
昨日までなかったけど、今見たらあった。
作ったものが壊れたときに出てくるものなんだろうな。
「修復」を全部の家にかけた。
魔力は一つにつき1250、一から作る時の半分だ。
素材もやっぱり半分で、倉庫から出して魔法陣に入れたら家が修復された。
とりあえずこれで後始末は一段落。次はこれからの話だ。
「モンスターが襲ってくるとなると、何か武器を作っとくか」
「イリヤの泉があればいいんだが」
「イリヤの泉?」
話しかけてきたヨシフを見つめ返す。イリヤってどっかで聞いた気がする。
ああ、女神か。
「町を作る時にかならず必要となるものだ。それがある街には並大抵のモンスターは近づけなくなる」
「なるほど、結界みたいなもんか」
「それがあればなあ」
「ちょっと待って。メニューオープン」
作成可能リストを確認する、イリヤの泉……イリヤの泉。
「あった」
「作れるのか!?」
「ああ」
15000ポイントを払って、イリヤの泉の魔法陣を地面に作る。
矢印は五本、四本が倉庫で、一本が遠く離れた所をさしていた。
☆
一人で素材を取りに行った。
素材の名前は「聖なる雫」必要な数は1。
「なんかすごそうな素材っぽいよな」
独りごちながら荒野を歩く。
何事もなくゲットできればいいんだが。
「そういえば」
魔力が中途半端に消費された現象を思い出した。
急にあんな事になって、なる前となった後変わった事を分類していくと、エターナルスレイブを手に入れた位しかなかった。
DORECAを左手に持ってメニューを開き、エターナルスレイブを右手で持って近くに転がってる岩を斬った。
まるでバターを斬るかのような手応えで岩を斬った。
すると、2873残っていた魔力が7減って2866になった。
やっぱりそうだった。この武器は使う度に魔力が減る武器だ。
チャージされた魔力と引き替えにかなりの切れ味を出す。
おれは納得した。
納得して、更に歩き続けた。
「うん? あれなのか?」
目の前にエルーカーが現われた。何回倒した、白毛虫の毛をゲットした相手だ。
そいつの体が光っていた。
なんでこいつが光ってるんだ? 魔法陣はいま――イリヤの泉しか作ってないぞ。
こいつが素材なのか?
「うわ!」
そんな事を考えてる内にエルーカーが突進してきた。相変わらず突進は殺人級だ。
「まあいい、倒してから考えよう!」
エターナルスレイブを構えて、横っ飛びしてエルーカーを一撃で真っ二つにした。
前と同じ、エルーカーの体が溶けて、白い毛だけが残った。
光も消えた、そして白い毛は光らなかった。
「……外れ、ってことか?」
もそもそした音が聞こえた。またエルーカーが現われた。
そのエルーカーも体が光っていた。
……まさか、レアアイテムってことか?
そんな事を考えながら、おれは二匹目のエルーカーに斬りかかっていった。
☆
「ご主人様!」
みんなのところに帰ってくると、リーシャが駆け寄ってきておれを出迎えた。
「ご主人様、大丈夫でしたか」
「大丈夫だ。魔力が残り二桁だけどな」
「え?」
「いやこっちの話だ」
おれはそう言って、ポケットの中から光ってる素材を取り出す。
素材の光を放つ、雫型の宝石みたいな石だ。
魔法陣から出た矢印はこいつをさしている。
「これが素材なんですね」
「ああ……ドロップ率が5%くらいだったぞ」
「え?」「ああいやなんでもない。そうだ、後で一仕事頼むから一緒に来てくれ」
食い散らかした、外れだった白毛虫の毛も回収しないとな。
話してる間に、マドウェイとヨシフ、そして他の人達も集まってきた。
彼らが見守る中、聖なる雫を魔法陣の中に入れる。
いつもの光がして、それから噴水ができた。
公園のような噴水。
それができた直後、噴水を中心に違う光が広がった。
温かくて、安心する光。
「おおお」
「これだ……」
「モンスターを拒み、町を守る光」
「これで町が作れる」
みんなが感動した様子でいった。
はじめて体験した光だけど、どうやらこれで良いみたいだ。
「アキトさん」
ヨシフがおれに話しかけた。ものすごく真剣な顔だ。
まだ何か作り足りないものがあるのか?」
「アキトさんにお願いしたい事が」
「なんだ、言ってみろ」
「ここの……これから作る町の町長になってくれませんか?」
ヨシフが言うと、他の全員が一斉におれを見た。
全員が「お願いします」と言ってるような目だ。
頼み事ってそういうことか、まあ元からそのつもりだ。
「わかった、町長になる」
おれが引き受けた瞬間、男達が盛大に沸き、リーシャは目を輝かせて尊敬する表情になった。
こうしておれは町長になった。