奴隷のひらめき
最後の一匹の蜘蛛を倒した。
砂浜の至る所で両断された蜘蛛が炎上してる。
「もういませんか?」
剣から人間の姿に戻ったリーシャが聞く。
「近くにはな」
「よかった……」
リーシャは見るからにほっとした。
胸をなで下ろして、足元がちょっとふらついた。
「大丈夫か」
「はい、大丈夫です」
すぐに答えたが、言葉に覇気がない。
みた感じ体のどこも怪我はしてないみたいだが。
「ひぃ!」
いきなり悲鳴を上げた。
燃えてる蜘蛛の一体が、急に足をびくってさせたからだ。
それを見たリーシャが悲鳴を上げる。
「怖いか、こいつらが」
「は、はい」
なるほど。
まあ、体が人間とほぼ同じサイズで、そこから長い八本足が伸びてる巨大な蜘蛛だ。
リーシャの反応は当然と言えば当然だろう。
「あっ、でもご主人様がいるから大丈夫です!」
リーシャが慌てて言う。後付けのフォローだ。
「無理をしなくていい。今回はおれのミスだ」
「え?」
「イリヤの泉を設置してなかった。おれ達二人だし、町、って訳じゃなかったから作ってなかった」
「あっ……」
リーシャはきょろきょろと当たりを見回した。
建物に、ヤシの木に、ビーチ。
色々作ってるが、そこに魔物の侵入を防ぐイリヤの泉はない。
「まっ、そういうことだ。それよりもリーシャ、奴隷カードを出せ」
「はい、どうするんですか?」
「壊れてるところを片っ端から修復しろ。あと全体の真ん中――あの辺にイリヤの泉をつくっとけ。全部魔力でやれ」
「はい」
リーシャは頷き、すぐさま動き出した。
奴隷カードを持ってイリヤの泉を設置して、あっちこっちに修復をかけた。
おれは蜘蛛の後処理をした。
ばらして、きっちり燃やす。
しばらくして、手作りリゾートが全部修復された。
「終わりましたご主人様」
「ご苦労」
DORECAを取り出して、新機能でリゾート一式をセーブする。
「これでおわりだな」
「はい!」
はきはきと答えるリーシャ。
「どうした、テンションが高いな。酔いはもう覚めたんだろ」
「酔いですか?」
きょとんとするリーシャ。覚えてないのか、あれを。
いやまあ、それならそれでいいけど。
「なんか嬉しそうだな」
そこだけに絞って、もう一回聞いた。
「はい。ご主人様と一緒に物を作ったり、直したりするのが嬉しくて」
「バカンスよりも働きたいのか」
「エターナルスレイブですから」
リーシャは即答した。なるほどな。
いかにも彼女らしい、奴隷らしい発想。
そんな健気な奴隷にちょっと意地悪したくなった。
「そうか。それは困ったな」
「え?」
「バカンスが楽しめないんじゃな。ここをもっと楽しめるために何があればいいのかってリーシャの意見を聞こうとしたんだけど、楽しめない人に聞いてもなあ」
「あっ……」
「しょうがない、他の誰か――そうだなマルタかマイヤにあ――」
身を翻して歩きだそうとする。
「あ、あの!」
リーシャが大声を出しておれを呼び止めた。
笑いをこらえて、振り向く。
「なんだ?」
「す、砂場はどうでしょうか」
「砂場? あの公園みたいのか?」
「はい!」
「ここが既に砂場なのに?」
「あっ……」
まわりを見て、はっとするリーシャ。
「えと、ええと」
更に考える、うんうん唸る。
「そうだ! 湖――もダメですよね」
今度はおれが指摘する前に自分で気づいた。目の前が海だって事に。
例の森、リーシャと一緒に作った森のあの湖、今度はあそこの経験がでたようだ。
リーシャはうんうん唸った。必死に考えた。
おれは歩き出した、燃え盛る蜘蛛の山から離れて、ゆっくり散歩するペースで砂浜を歩く。
リーシャは必死に考えながらついてきた。
「た、食べ物の店はどうですか?」
「あそこに海の家用に作ってある」
リーシャは色々と案をだした。
今までおれと一緒に作ってきたものの中から出してる感じだ。
流石第一奴隷、付き合いが長いだけあって、何一つ使えないけどやったことは次から次へとでた。
散歩しながらそれを聞くのは悪い気分じゃなかった。今までの想い出を語ってるような、そんな気分になる。
実質国王即位のご褒美のバカンスとしては、これだけでも満足する感じ。
立ち止まる、リーシャを見る。
うんうん唸る彼女を褒めて、終わりにしようとした。
「お風呂……はダメですよね」
「うん?」
「海があるのに、わざわざ小さいお風呂に入る意味はないですよね……」
「いや待て」
またうなりだそうとするリーシャを止めた。
お風呂――町には必ず作ってる、衛生対策の銭湯の事だ。
まわりを見回す。でっかい岩があった。
そこに上る、人間よりも遙かに高いそれはちょっとした高台だ。
「ご主人様? どうしたんですか」
「見てろ」
真・エターナルスレイブを抜いて岩を真っ平らにならした。その後ロード機能を使って、そこに風呂を作った。
「うん、いい。いいぞこれ」
「え?」
「海と温泉、実は結構相性いいんだ」
温泉じゃないけど。
「温泉に浸かりながら海を見るのって実はかなりの贅沢なんだ」
夜だが、燃える蜘蛛の山で海が見えていた。
「リーシャ、でかしたぞ」
「えっ?」
きょとんとするリーシャ。
おれは紙を作って、例のメダルを折ってやった。
「よく思いついてくれた」
「……ありがとうございます」
――魔力を10,000チャージしました。
リーシャはメダルを大事そうに抱えた。
おれはDORECAを出して、上書きでリゾートをセーブした。
そして、改めて風呂を見る。
「……入っていくか」
せっかくだし、夜の海を見ながら入ろう思った。
「あの! ご主人様!」
「うん? なんだ」
「なにかわたしにできることはありませんか」
期待する様な瞳で、メダルを抱えながらおれを見る。
よっぽど何かしたいんだろう。
くつろがせるより、仕事させた方がいいのか。
「じゃあ酒を持ってこい。その後おれの背中を流してくれ」
「はい! ありがとうございます!!!」
リーシャは岩から飛び降りて、建物の方に向かって走って行った。
――魔力を100,000チャージしました。
嬉しさが、背中からにじみ出ていた。




