召喚
リーシャをベッドの上に寝かせた。
べろんべろんに酔っ払って、自力じゃ歩けない様になったから、だっこしてベッドまで連れてきた。
「ご主人様……」
起きたのかと思ったらそんなことはなかった。
にへらと笑う、寝言のようだ。
「もっとぉ」
もっと?
「もっと……お仕事くらさい……」
「仕事かよ!」
思わず突っ込んでしまった。
色気もへったくれもない寝言だな。
こういう時ってもっとこう、いろっぽい何かがあるだろ。
「だめですよお……」
おっ。
「三十時間働くのは……矛盾してまふ……」
結局働くのか!
「うへへ……」
そして嬉しいのか!
呆れた。呆れたけど、なんか楽しい。
結局エターナルスレイブはエターナルスレイブだって事だ。
ご主人様のために働きたがる、奴隷として尽くしたがる。
そういう健気でかわいい連中なのだ、こいつらは。
それをしってるつもりでいたけど、寝言で再確認した。
言葉よりも行動、行動と同じくらいの寝言。
それで、リーシャの健気を再確認できた。
起きたら可愛がってやろう。
そう思って部屋をでた。
建物を出て、浜辺にやってきた。
今日の事を思い出す。
色々あって楽しかった。リーシャも奴隷だからと遠慮したけど、それなりに楽しめたはずだ。
ミラ、ユーリア、リリヤの三人の姿を思い出す。
三人の奴隷達にもここを楽しませてやりたくなった。
リーシャと同じように。
そう思って、おれはDORECAを取り出した。
ブラックカードで追加された新機能で、このリゾート地に作ったものをまとめてセーブした。
次もここ使ってもいいし、別の海にここをコピーしてから微調整してもいい。
とにかく、次は他の三人も連れてこよう、おれはそう思った。
DORECAをしまって、建物に戻ろうとする。
「……?」
足を止めた。
妙な気配を感じる。
風というか、空気が妙にざわついてる。
何かいる……しかもかなり大勢。
敵かモンスターか、どっちにしろ殺ってしまおう、とおもったが、腰の間に剣がないことを思い出した。
部屋に置いてきたのだ。
今のおれは前をはだけたシャツに海パン姿、エターナルスレイブは持ってきてない。
取りに戻ろうか、と思ったが。
「でたか」
それよりもさきに、そいつらがおれの前に現われた。
巨大な蜘蛛。体は人間と同じくらいのサイズだが、広げた足で十倍近く巨大に見える。
体と足にびっしり毛が生えてる、見た目のグロさと相まってかなりのプレッシャーだ。
それが何匹もいた。
目の前に一匹、背後に一匹。ビーチを取り囲むようにわんさかいた。
思考を巡らす。
何をどうすれば一番いいのかという思考が脳内を駆け巡った。
「――」
文字では表現できない奇声を上げて、目の前の蜘蛛が襲いかかってきた。
巨体に似つかわしくない猛スピード、おれは横っ飛びでかわした。
かわした後全速力で駆け出した。
部屋に向かって。
建物にも蜘蛛が群がってる。
「メニューオープン!」
新機能で十本の剣をまとめて作った。最初に試したときにセーブしたものだ。
一瞬でできた剣をまとめて投げつけた。
ドドドドドド――ッ!
剣が蜘蛛に突き刺さる。
一瞬ひるんだ隙に、横をすり抜けて建物に入る。
階段を駆け上る。
「リーシャ!」
「ご主人様!」
窓から入ってきた蜘蛛にリーシャは部屋の角に追い詰められた。
「メニューオープン!」
十本の剣をまとめて投げつけ、ひるんだ隙に解体でそこの床を崩した。
ぽっかり空いた穴に蜘蛛が吸い込まれて、下の階に落ちていく。
「大丈夫だったか」
「はい!」
「よし……上に行くぞ」
「上ですか? でも上だと逃げられなくなります」
「逃げる必要はない」
リーシャの手を取る。
「エターナルスレイブが上にあるんだよ」
「――はい!」
リーシャが笑顔になって、大きく頷いた。
リーシャを連れて部屋から出た。
入り口の蜘蛛が追いついてきた。
「解体!」
階段をぶっ壊して、蜘蛛を下の階に落とした。
ガタン! 建物が大きく揺れた。
「きゃあ!」
「無理矢理ぶっ壊しすぎたか」
「大丈夫なんですかご主人様」
「問題ない!」
リーシャを連れて上に上がる。
一気に駆け上がる最上階、おれの部屋。
壁際においてある真・エターナルスレイブ――の前に蜘蛛がいた。
おれ達と剣の間にいる、邪魔な蜘蛛。
「ご主人様……」
「そんな目をするな」
おれは蜘蛛に向かっていった。
「――」
奇声を上げて威嚇してくる蜘蛛。
前足の二本を振り上げて、殴りつけてきた。
「ご主人様!」
悲鳴のような声を耳にしながら、おれは突進して蜘蛛の懐に潜り込んだ。
足がからぶった。
蜘蛛の腹に手を当てた。
「メニューオープン――ロード!」
瞬間、蜘蛛の腹の中から剣が「生えた」。
まるで植物の発芽のように、十本の剣が体の中で生成された。
ハリネズミのような蜘蛛、もがいて、崩れ落ちる。
「すごい……こんなこともできるんだ」
「あれこれ試したからな」
「さすがご主人様です!」
リーシャの全面的な信頼が心地よかった。
蜘蛛の横をすり抜けて、壁際に置いた真・エターナルスレイブを手に取った。
赤い宝石に触れてリーシャを取り込む。
燃え盛る炎の刀身。
窓から外を見る、夜の砂浜に蜘蛛がわらわらいた。
ざっと数えても数十はいるというレベル。
が、それだけだ。
おれの手元に奴隷剣が戻った。
「さて、いくか」
(はい!)
窓縁に足をかけて、剣になった奴隷と共に戦場に飛び降りていく。
群がる蜘蛛たちを瞬く間に倒した。




