セーブ&ロード
夕方、食事タイム。
おれはリーシャを連れて、四階から下に降りていく。
おれは前をはだけたシャツに海パンで、リーシャもTシャツに水着という格好だ。
ちなみに水着は普通のビキニにした。シャツを羽織るとなるとスク水も貝殻ビキニも微妙になるから、普通のを作ってやった。
「すみませんご主人様、手伝えなくて」
「かまわん。料理の内容を知らないんじゃな」
「今日覚えていきますので、次回からは任せて下さい」
「ああ」
リーシャは意気込んでる。
「そう気負うな。バカンスだ、覚えるのもいいが楽しめ」
「わかりました!」
頷きが、やっぱりかなり意気込んでる。
まあいい。
おれはリーシャを連れて、二階の部屋に入った。
壁は改造して、一面の窓にして。それが開かれて、海に沈みゆく夕日が見える。
部屋の中はテーブルを並べて、その上に多数の料理を並べた。
「これが……ぶっふぇ、ですか?」
「ああブッフェ。バイキングとも言う」
つかつかと部屋の奥、窓の方にやってきた。
そこに置いたテーブルの横に座る。
向かいにも椅子を用意したから、そこを指した。
「説明するから、座れ」
「はい」
リーシャは恐縮そうに座った。
「リゾートのホテルによくあるバイキング方式にした。あそこに並んでる料理を適当に取って、好きなものを好きなだけ、好きなように食べろ」
「好きなように、ですか」
「ああ」
立ち上がって、ブッフェ台に行って、白い皿を取った。
皿にいろんな料理をちょっとずつ取って、コップにジュースもついだ。
それをもって戻ってくる。
「こんな感じだ。食べたいものを食べたい分量で勝手に取る」
「は、はい」
「おまえも適当に取ってこい」
「わかりました」
立ち上がったリーシャ、あるきだそうして、おれに振り向き、聞いてきた。
「ご主人様は何が食べたいですか」
「自分でとる、そういう方式だ。お前が食べたいものをとればいい」
「わかりました……」
リーシャはブッフェ台に行って、同じように皿をとって、あれこれ悩み出した。
おれは自分が取ってきた料理を摘まみながら、窓の外を見る。
いる場所も、景色も、服も食事も。
完璧にリゾートだ。全部自分がDORECAをつかって用意した事をのぞけば完全にリゾートだ。
結構楽しかった。
リーシャが戻ってきて、遠慮がちに食べ始めた。
「リーシャ」
「はい!」
食べるのをやめて、ビシッ、と背筋を伸ばす。
「かしこまるな、食っとけ。今日は楽しめたか」
「えっと……はい」
頷くリーシャ。なんか奥歯に物が挟まったかのような返事だ。
「楽しくなかったのか?」
「い、いいえ! 楽しかったです」
「そうか?」
「はい! ご主人様から水着もいただけましたし、楽しかったです、はい!」
力説するリーシャ。そう思ってるんなら別にいい。
おれは立ち上がって、新しい皿で新たしく料理を取った。
料理を取って、食べる。
食べ終えると、また料理を取りに行く。
取って、食べて、リーシャと世間話をする。
至って普通のバカンスだ。
「あっ」
料理を取りに行ったリーシャが声を上げた。
「どうした」
「いえ、この料理がなくなっただけです」
「うん? ああちょっと待ってろ」
DORECAを取り出し、メニューを開く。
「今から作るのですか?」
「ああ。ついでに見せてやる、ブラックカードになって追加した新機能を」
「――はい!」
リーシャはわくわくし出した。
ブラックカードになって、二つの機能が追加された。
セーブとロードだ。
その二つの内、セーブは既に使ってたから、今度はロードを使った。
魔法のひかりがブッフェ台を包み込んだ。
料理が補充された。
と言うより戻った、おれ達が部屋に入ったときの感じに、セーブした時の感じに戻った。
「こ、これは?」
「作ったものをDORECAが記憶して、呼び出して元に戻す機能だ。いろいろ試したが、差分を補充するのと、一から同じものを作り直す二つの使い方ができる」
「えっと……つまり?」
「作ったものをセットでまとめて作れるってことだ。例えば宮殿、あれもセーブ&ロードで同じものをもう一個作れる。あの森もだ」
「すごいです……」
「まあ、便利だな」
セーブ・ロード機能だが、ぶっちゃけこの先コピペ的な使い方が多くなると思う。
「それはともかく、ほれ」
料理をリーシャの皿に乗せた。
とろうとして品切れになった料理だ。
「ありがとうございます」
「すきなもんをどんどん食っとけ」
おれは近くにある酒をコップにつぎながらそう言った。
☆
「ごじゅじんざまぁ……」
「……」
おれは絶句した。目の前にいる涙で顔がくしゃくしゃになってるリーシャに絶句した。
積み上げられた料理の皿の横にワイングラスがある。
せっかくだから一杯行っとけって勧めたんだが。
「一口でこれかよ……」
そう、一口、一口だけだ。
一口飲んだだけでリーシャはこんな有様になった。
「ぐす……ご主人様はほんろひろいでふ」
「ひどい? 何がだ」
「仕事させろ!」
今度はいきなり切れた。テーブルを叩いて力説した。
「仕事れふよ、し・ご・と。奴隷に仕事させないご主人様はご主人様失格れふ!」
「バカンスだぜ、いま」
「そではご主人様らけれふ!」
なるほど。まあ言いたいことはわかる。
「きゃはははははははは」
今度は笑い出した。
「ははは……はあ」
かと思えばため息をついてテーブルに突っ伏した。
忙しいやっちゃな。
「うわあああん」
また泣き出した。
泣いて、怒って。泣いて、笑って。泣いて、愚痴って。
泣くわりあいが多くて、その内容は何故働かせてくれないかって物ばかりだ。
「ごじゅじんざまぁ……」
「……リーシャ」
「何ですかもう!」
「……あそこにあるケーキを取ってきてくれ」
「――はい!」
――魔力を10,000チャージしました。
リーシャは満面の笑顔で立ち上がった。
千鳥足でブッフェ台に向かっていく。
「ひゃん!」
途中ですっころんだが、すぐに立ち上がって、ブッフェ台からケーキを取った。
それでまたふらふらと戻ってくる。
「ご主人様、どうぞ」
「ああ」
「どうですか、ご主人様」
「ああ、美味い」
「よかった……」
そう言って、ふらふらとまたテーブルに突っ伏した。
また落ち込んだのか? と思いきや。
「むにゃむにゃ……」
どうやら寝てるみたいだ。
やたらと満足げな笑顔だった。
命令して、仕事させてもらえて、それで満足したみたいだ。
とことん奴隷で、健気で愛おしい。
「バカンスが終わったらまた働いてもらうさ」
おれはそうつぶやき、酒をちびちびなめるように飲みながら、DORECAのメニューを眺めた。
たまに減る魔力――留守の奴隷の働きを数字で見守った。
バカンスの夜は静かにふけていった。




