現地調達
荒野をリーシャの二人と歩いていた。
おれがすいすいと前を歩いて、リーシャが後ろからついてくる。
腰の真・エターナルスレイブ以外、二人とも手ぶらで、まるでただの散歩って格好だ。
「本当に何も持ってこなくても良かったのですかご主人様」
「なんで?」
首だけ振り向き、リーシャに聞く。
「だって、バカンスなのに……まったく荷物がないんじゃ……」
「メニューオープン」
ブラックになったDORECAを取り出して、メニューからジュースを選んだ。
消費魔力は2,000、それを魔力のみで生産する。
素材なしでの生産、十倍かかる20,000。
手元に瓶入りのジュースができた。
それをリーシャに放り投げる。髪が伸びてきたエルフ奴隷が慌ててキャッチする。
「荷物なんて全部現地調達でいいだろ。わざわざ持ってくる必要はない」
「ですが、その……」
リーシャは瓶ジュースにものすごく恐縮する。
「これじゃ魔力が……」
「もったいないって言いたいのか?」
「はい……せめて最低限の素材は」
立ち止まり、リーシャの方を向く。
リーシャが立ち止まる、何事かと不思議がってる。
そんな彼女にデコピンした。
「ひゃん!」
おでこを押さえてちょっと涙目のリーシャ。
そんな彼女の頭をわっしゃわっしゃと強めになで回してやった。
「おれにバカンスを取れって言ったのはお前らだろうが。バカンスってのはそもそもが贅沢でもったいないのを楽しむものなんだろ?」
そう、おれは今バカンスに向かってる。
言い出したのはミラだ。
おれがはじめて何も仕事をしなかった日の夜、彼女はそれを知って、ご主人様はもっと休むべきだといった。
それに奴隷全員が乗っかった。早速事務能力の高いユーリアを中心に、おれがいなくても回る仕事の再分配がされた。
ちなみに内容は聞いてない。ただ一言ユーリアに「やれるか」とだけ聞いた。
ユーリアは「三人ならなんとか」といった。
それを信用した。おれの奴隷がおれをだます事はあり得ないからだ。
それでバカンスにでることにした。
奴隷の三人を残して、リーシャだけを従者にとして引き連れて出発した。
「それはそうですけど、というかご主人様ならそうですけど」
「ちなみに」
ものすごく恐縮して遠慮しそうなリーシャを無視して、宣言する。
「おれはこのバカンスで魔力を全部使い切るつもりだ」
そう、せっかくだから、おれは魔力を全部使い切ろうと思った。
☆
適当に歩いて、やってきた小丘の上。
そこから海が見えた。
まわりは何もない不毛の地、少し離れたところに見える海。
気温は寒くないのに、何もないから寒く見える海。
「ここにしよう」
「ここですか?」
「ああ」
「でも……ここは何もないですよ? ご主人様がバカンスを過ごすには……」
「メニューオープン」
DORECAを出してリストの中から選ぶ。
ブラックカードで追加された「四階建ての家」を魔力のみでたてる。
消費は100万、それでも作った。
中に入って、最上階にあがって、窓を開いて海を見る。
寒々しいのは変わらないけど、予想どおり、高いところからだと見晴らしが良くていい感じだ。
今度は室内に目を向ける。
ベッドを作って、風呂を作って、食堂を作る。
泊まってバカンスをするために必要なものを全部魔力のみで作る。
四階建ての家が快適に過ごせるまでにざっと150万の魔力はかかった。
「こんな感じでいいだろ。つぎ行くぞ」
「は、はい!」
戸惑うリーシャをつれて外に出た。
小丘を降りて、海辺にやってくる。
「寒々しいのはいやだから……これにしよう」
メニューの中からヤシの木っぽいのを選んで、それを数十本まとめて作った。
「リーシャ、これをまんべんなく海辺に並べとけ」
「はい!」
命令されたリーシャはさっと動き出した。
ああだこうだ言うけど、おれに命令されるとそういう悩みが吹っ飛ぶみたいだ。
そういうところがエターナルスレイブらしくて、健気で愛らしい。
「さて、次は……お、これいいな」
リストの中に船乗り場とボートを見つけた。
使うかどうかはわからないが、海辺にそれらを作っといた。
ちょっと引いて全体を見回す。
乗り場とヤシの木がふえたそこはだいぶ見栄えが良くなった。
寒々しさが消えて、それなりにリゾート地に見えてきた。
後は何があればリゾートっぽくなるんだろ?
四階建ての家のまわりは芝生で埋めとこう。緑なのがいい。
海の家っぽいのが欲しいな。木の家と部分解体でアレンジして作ろう。
そうだ、ニーナが教えてくれた柱の上に建物を乗っける高床式のヤツも作ろう。
あれがあれば一気にリゾートっぽくなるはずだ。
おれはあれこれつくった。
イメージの中にあるリゾート地、海水浴場とかプライベートビーチとか、そういうのを思い出しながら作った。
海辺に到着して半日。
「うわ……すごい……」
リーシャが感動する程のリゾート地ができあがった。
さあ、楽しむぞ。




