国王の休日
朝からリベックの町を散歩して回っていた。
特に目的があるわけでもなく、適当にぶらついてるだけだ。
露店の一つの前に足を止める。
串に刺した肉を炭火で焼いてる、なんの肉かはわからないがかなりいいにおいだ。
「おう兄ちゃん、一本どうだい?」
露店の店主がフランクに話しかけてきた。
「ビースク名物、クラカディルの串焼きだ。身が引き締まってさっぱりしててうまいぜ」
「クラカディルか」
何の肉なのかはわからないが、表現は理解できる。
というか……さっきからずっといい香りがしてよだれが出そうだ。
「じゃあ、一本もらおうか」
「あいよ、500エンね」
「――っ」
「どうした兄ちゃん」
店主はキョトンとおれをみた。
そういえば……さっきからおれのことを「兄ちゃん」ってフランクに呼んでるな。
おれは自分が作った硬貨――500エン玉を出して、店主に渡して串焼きを一本もらう。
それを持って食べ歩きする。
今の事を改めて考える。あの男、おれの事を知らなかったのかな。
串焼きを食べながら市場を歩く。
よく見れば大半が知らない顔だ。
リベックをマラートから解放した直後にいた人たちの顔は全員覚えてる。
今ここにいるのは大半がそうじゃない、はじめて見る顔だ。
そういう人たちにガンガン売り込みをかけられた。
面白いから、片っ端から買った。
まるで縁日の屋台を回ってるような気分になった。
あまり客がいない屋台にとまった。
「これいくら?」
「一人前で1500エンだよ」
「ちょっと高いな」
だから客がいないのか?
「その分味は保証するよ」
「なるほど、じゃあ一人前をくれ」
金を払って、食べ物を手に入れる。
一口食べてみた、まずかった。
食べ物とは思えないくらいのまずさ、プシニーとどっこいどっこいだ。
高いからじゃない、高くてまずいから客がいないんだ。
離れたところに立って、その屋台をしばらく見た。
客が全然寄りつかない、閑古鳥が啼いてる。
「ありゃ……近いうちにつぶれるな」
そうつぶやき、おれは再び歩き出した。
市場をでて、街中を歩く。
「あれ?」
一軒の民家の前に足を止めた。
その民家はDORECAで作った木の家で、何故かドアが壊れてる。
それを住民らしき男が直してる。
「よう」
「あっ、王様」
今度はおれの事を知ってる男だった。
「それどうした」
「いや……その……」
男は頭を掻いて、苦笑いした。
「女房をちょっと怒らせちゃって、それで」
「なるほど、ケンカした結果か」
「はい」
「しかたないな」
おれはDORECAを取り出した。
男は慌てて手を振った。
「ああ、大丈夫です王様。これくらい自分でなんとかしますか」
「自分で?」
「はい。というかもうほとんど修理が済んでるし」
おれはドアを改めてみた。
たしかにほとんど修理が済んでる。
「いいの?」
「はい。これくらいの事、王様の手をわずらわせるまでもないです」
「……そうか。じゃあ頑張れよ」
男に手を振って、その場から立ち去った。
☆
日が暮れるまで、リベックを歩いて回った。
町は機能していた。
様々な店ができて、商売で活気ついてる。
おれや奴隷達じゃなくて、住民達も自分達で何かを作ったり、物を直したりしてる。
この日、おれははじめてなにもしなかった。
何も作らず、何も直さず、何も倒さなかった。
あえて何もしなかった。ひたすらお金を使って、わざと浪費した。
それでも人々は笑顔だった。
すごくすごく、笑顔だった。
丸一日なにもしなかった直後、DORECAが光って、その姿を変えた。
白金色から真っ黒に。DORECAはブラックカードに進化したのだった。




