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今までとこれから

 アキトの町の人々の笑顔に見送られて、列車に乗って町を後にした。


 リーシャ、ミラの二人が窓の外を見てて、リリヤが列車の運転をしてる。


 ユーリアを呼んで、彼女に質問する。


「あれを考えたのはだれだ?」


「みんなで」


「みんな?」


「町の人、みんな。レールを作ってたらマドウェイに見つかって、マドウェイが大はしゃぎした。ご主人様が大がかりな物を作った後、生活がすごく良くなるから。って」


「うん! その人よく分かってるよね!」


 ミラが興奮気味に言って、それからまた景色の方に戻る。


「それで、感謝したいって言ったから。わたし達がアイデアをだした」


 ユーリアが続けて言う。


 言い出しっぺはマドウェイ、あそこまで大がかりなのにしたのは奴隷達の提案、ってことか。


「ダメだった?」


「いいや」


 ダメって事はない。


 ないが、やっぱり奴隷達になにかしてやらないとな。


 あそこまで大がかりな歓迎セレモニーをしてくれたんだから、こっちもそれなりのお返しをしないと。


 こう、もう許して、っていうくらい喜ばせて、愛でてやれる何かを。


 おれはそれを考えた。


「ご主人様」


 リーシャが話しかけてきた。


「どうした」


「あれ」


 リーシャが窓の外を指す。


 彼女の指す先にサルの大軍がたむろってるのが見えた。


 鋭い爪、凶暴な見た目、しかし子供よりも弱いモンスター。


 ざっと数えて二十匹。


 住民を増やすチャンスだ。


「リリヤ、止めろ」


「はいですの」


 列車が止まる、エターナルスレイブを握って、サル退治に向かおうとする。


「ご主人様、わたし達に任せて下さいませんか」


 リーシャが言う、奴隷が全員おれを見つめた。


「わかった」


 剣から手を離して、頷く。


 ――魔力を10,000チャージしました。


 ――魔力を4,000チャージしました。


 ――魔力を12,000チャージしました。


 奴隷達が嬉し顔で列車から飛び降りて行き、サルの群れに突っ込んでいった。


 サル相手だから、四人は武器を使わなかった。


 戦う姿を眺めて、考えた。


 こういうパターンがよくある。


 四人がおれの命令で同時にうごくが、魔力のチャージは三人分だけ。


 ユーリアがないのだ。


 ユーリアはある意味一番手ごわい。


 嬉しがったりしてるのは多分間違いない。


 だけどその度合いが、嬉しさと正比例する魔力の量が百万くらい超えないとチャージされない。


 そのせいでいつも物足りない。


 ……よし、決めた。


 今度のお返しは四人が同時に魔力チャージするくらいの何かにしてやろう。


     ☆


 サルが倒され、次々と人間に戻る。


 気がついた者から奴隷達が話を聞いたり、状況の説明したりしてる。


 全員に話がすんだみたいだから、おれは近づいていった。


「終わったか」


「はいですの」


「そうか。じゃあとりあえず全員リベックに運ぶか。この人数なら運べるだろ」


 作ったばかりの列車を見た。


 座りきれないだろうが、加速とブレーキの慣性を無視する魔法の列車だから危険はないだろ。


「リーシャお姉様、裾が破けてるですの」


 リリヤの声が聞こえて、足を止める。


 振り向く。リリヤが言ったとおり、リーシャのドレスの裾が破けてた。


 裂き方からして、サルの鋭い爪にやられたんだろう。


 リーシャはシュンとした、申し訳なさそうな目でおれをみた。


「気にするな」


 そう言って、ドレスを直してやろうとDORECAを取り出した。


 修復をかけて、大事な奴隷だし魔力のみでサッと直して――。


 ドサッ。


 物音が聞こえた。音に振り向く、サルから戻ったうちの一人、長い髪の少女が尻餅をついた。


 顔色が良くない、おれを見てものすごく怯えてる。


 なんでいきなり?


「ご主人様、それ」


 ユーリアがおれのDORECAをさす。


「これって、これが原因が怯えてるのか?」


 疑問に思うおれ、だが聞くまでもなかった。


 DORECAをちらつかせた直後、少女はこっちの胸が痛むほどの悲鳴を上げたのだった。


     ☆


「ご主人様」


 少女から改めて事情聴取したリーシャが、報告のためにおれのところにやってきた。


「どうだ?」


「その……あの子、セイヤさんのところにいたみたいなんです」


「……うん?」


 どういう事だ?


「シュレービジュから人間に戻ったのはこれで二回目で。以前はセイヤさんに助けられて、それでセイヤさんのところにいたみたいなんです」


「そういえばサルを倒したら人間に戻るって情報は教えてやってたっけ」


「はい。それで……セイヤさんのところでひどい目にあったみたいなんです」


「ああ」


 頷くおれ。それ以上は聞かなくてもわかった。


 聖夜は奴隷にしたことを、戻した人間、領民になるはずの人間にもしてたってことか。


「それで……セイヤさんに捨てられて、またモンスターに襲われて」


「またサルになったのか」


「セイヤさんは暴力を振るったりするときにカードを確認するから、それで」


「なるほど。全部わかった」


 おれは少女に近づいていった。


 少女はおれをみて怯えて逃げようとするが、寄り添っていたリリヤが捕まえて逃さなかった。


 おれはDORECAをだす。


「話は聞いた。これが怖かったんだな」


「ひぃ!」


「安心してくれ」


 おれは「メニューオープン」と唱えた。


 リストの中からケーキを選んで魔法陣を作る。


 3,000を消費のケーキを、10倍を払って魔力だけで作る。


 見るからに美味しそうなケーキが一瞬でできあがった。


 それを少女に差し出した。


「甘い物は好きか?」


「……え、うん」


 おずおずと頷いたから、おれはケーキを少女に渡した。


「おれと聖夜のやり方は違う。あいつはこのカードに苦しみを集めたかったみたいだが、おれが欲しいのは笑顔だ」


「笑顔?」


「そう、笑顔。リーシャ」


「はい」


「ミラ」


「はい!」


「ユーリア」


「うん」


「リリヤ」


「ハイですの」


 四人の奴隷の名前を呼ぶ。


 四人が次々に進み出て、少女の前に立つ。


「エターナルスレイブが」


 少女はそれをしっていた。うん、よく知ってるはずだ。


 聖夜のところにいたんなら、聖夜の奴隷の事を知ってるはずだ。


 そして、聖夜が自分の奴隷に何をしてきたのかもよく知っているはず。


 少女は奴隷達を見た。


 徐々に表情が和らいでいく。


「奴隷が笑顔」


「ああ」


「わたし達も笑顔?」


「信用しても構わない」


「……うん、信用する」


 少女はおずおずと頷く。


「奴隷さん、笑ってるし」


「そうか」


 微笑む、それはおれにとって嬉しいこと。


 奴隷の笑顔が信用する理由というのは嬉しいこと。


 少女ははにかんでうつむいた。


「い、いただきます」


 何かをごまかすかのようにケーキを口に運んだ。


「甘い、美味しい……」


 ケーキを食べた彼女は、みるみるうちに笑顔になっていった。

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