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奴隷の贈り物

 ガキーン!


 目の前のモンスターに鉄の剣をたたきつけたが、手応えはまったくなかった。


 というより不思議な手応えだ。


 干した布団を叩いたときのような柔らかいものを叩いた感触なのに、発した音が金属のぶつかり合う音だ。


 モンスターの体を蹴って、後ろに飛び退いた。


「鉄の剣じゃダメか!」


 斬れそうだけど、斬れる気がしない。


 おれは忌々しげにつぶやき、モンスターを改めて観察する。


 そいつは一言で言えば、巨大で、びっしりと白い毛に覆われた芋虫だ。


 大きさは自動車くらい、毛は真っ白でモフモフしていそうなイメージ、そしてフォルムはまるっきり芋虫。


 エルーカーという名前のモンスターだ。


 そいつの体がぼんやり光っている、つまりおれがいま作ろうとしてるものの素材だって事だ。


 エルーカーはゆっくりとおれの方を向く。大きく開けた口の中でどう猛な牙が光を反射する。


 ――来る!


 次の瞬間、それまでのっそりしていたのが嘘みたいに突っ込んできた。


 引き裂いた空気が音を立てるほどの猛進。


 とっさに横っ飛びでかわした。エルーカーは突っ込んでいった先にある岩にかみついた。


 バリッ、ゴリッ。


 巨大な岩が粉々にかみ砕かれた。ものすごく鋭い牙に、ものすごいあごの力だ。


 噛まれるとまずい、人間の体なんて簡単に持ってかれる。


 実際いまかすっただけで腕から血が噴き出してる。


 やばいモンスターだ――と思っていたけど、すぐに弱点がわかった。


 横に飛び退いたおれを追ってゆっくり旋回する。


 ビックリする位ゆっくりだった。360度の一回転をするのに10秒くらいかかりそうな速度だ。


 突進は早いけど、旋回は弱い。


 そう判断したおれは速度をあげてエルーカーのまわりをくるくる回って、隙を見つけては剣で斬りつけた。


 くるくる回って、斬りつける。


 パターンに入った。


 しかし手応えがない。


 斬りつけた時実際になってるのはガキーンという金属音だけど、手応えに変換されてペチペチっていう効果音に聞こえてしまう。


 まるでダメージ1の攻撃をしつこく当てている、ペチペチ。


 ペチペチ、ペチペチ。


 ペチペチペチペチペチペチ――。


 それを繰り返して、約一時間。


 ザシュッ!


 ようやく攻撃が通った。たたきつけ過ぎて刃こぼれしてきた鉄の剣がエルーカーの毛を貫通した。


「うおおおおお!」


 そこに一気に体重をかけて、エルーカーの体を貫く。


 外は硬いけど、中は柔らかかった。刃こぼれした鉄の剣でもバターをきるかのように一気にいけた。


 両断したエルーカー、そいつはうねうねしてもがいて、動かなくなると、体がしぼんでいった。


 体の中が溶けてなくなるかのようにしぼんだ。


 やがて、そこに山ほどの毛が残った。


「……しんどかった」


 疲れ果てて、おれはどさっと地面に座り込んだ。


     ☆


 毛を持って、町(予定地)に戻ってきた。


「アキトさん――それどうしたんですか?」


 おれを出迎えたヨシフが腕のケガを見て驚いた。


「たいしたことはない。それよりもこれを魔法陣に」


「わかりました。持ちます」


 ヨシフがエルーカーの毛――白毛虫の毛を半分以上持っていった。


 家の前に張った四つの魔法陣に持っていく。素材が一種類だけの魔法陣だ。


 魔法陣の中に毛を振り分けていく。


 光が白毛虫の毛を包み込み、素材を完成品に変えていく。


 完成したのは服。ただの服だ。


 ただの服、特に何かあるわけではない、魔力50で作れるただの服。


 実はこのただの服、他にも作り方があった。その中で一つだけ必要魔力が低くて、素材の数も少なかった。


 だからそれを選んだんだけど……罠だった。


 魔力が少なく必要材料も少ないけど、素材そのものの難易度が鬼のようだった。


 油断したら即死する相手(しなければどうという事はないけど)からとってきたものがただの服になった。


 これから、魔力消費が低いものは罠として見た方がいいと思う。 

 それはともかく、服ができあがった。モンスターから人間に戻した、ヨシフ達四人の分だ。


 ヨシフは服を受け取って、みんなのところにいった。


 そこに残ったおれはメニューを開く。


 苦戦はもういやだし、鉄の剣が刃こぼれしてきたから、新しい武器を作ろうと思った。


 メニューを見て武器を探すと、一つメチャクチャ目を惹くものがあった。


 ――エターナルスレイブ。


 リーシャ達の種族そのままの名前の武器があった。


 そして、消費魔力はなんと驚きのゼロ!


 素材は鉄の剣×2に、奴隷の贈り物×1だ。


「罠臭い……メチャクチャ罠臭いぞこれ」


 さっきの事もあっておれは警戒した。


「……とりあえず消費はゼロだし、魔法陣を張っても作らなきゃいいだけだ」


 いいわけをして、魔法陣をはった。どういうものなのか確認しようと思ったのだ。


 魔法陣からいつものように矢印が出た。


 矢印は二本、一本はおれが持ってる鉄の剣をさしてて、もう一本は――。


「ご主人様、なんかわたしの髪が光ってます――あっ」


 リーシャが慌てて走ってきたけど、状況を見てすぐに理解した。


 矢印のもう一本はリーシャをさしてて、そしてリーシャの綺麗な金髪は光ってる。


 彼女の髪が素材らしい。


「さすがにこれはないわな」


 髪を切って素材にする話だろうけど、さすがに気が引ける。


 奴隷とは言え見た目は長い金髪の綺麗なエルフだ。その髪を切るというのは――。


「はい、ご主人様」


 リーシャは迷う事なく、スパッと自分の髪を切りおとした。


 束になってるそれを掴んで、おれに差し出す。


「ちょ! なにしてるんだ」


「なにって、ご主人様はわたしの髪が必要なんですよね」


「必要は……必要だけど」


「じゃあ、どうぞ」


 平然としたまま髪をおれに渡そうとする。


 ため息を吐いた、切りおとしたものは仕方ない。


「リーシャ、その鉄の剣もくれ。剣は二振り必要なんだ」


「わかりました!」


 髪と剣を受け取って、自分の剣と一緒に魔法陣の中に投入する。


 新しい剣ができた。


 きらびやかな装飾を施した、なんだかものすごい見た目の剣。


「これがエターナルスレイブか」


 剣をヒュンヒュン振ってみた。なんだろう、メチャクチャ手になじむ感じだ。


 必要魔力ゼロ、人間(奴隷)の体の一部。


 多分これってものすごい武器だとおれは思った。


 一方、リーシャは。


「わたしの髪が……ご主人様の武器に」


 そんな風に目をキラキラさせて、感動したようにいう。そして――。


 ――魔力が20000チャージされました。

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