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奴隷を越えろ!

 強い風が吹く。ぐっと踏みとどまって、切っ先がピタッと止る程剣を握り締める。


 光の玉が目の前をビュンビュン飛ぶ。


 じっと見つめて、眼球だけで動きを追う。


「……ふッ!」


 研ぎ澄ました一撃。


 黒い光が鋭い軌跡を描く。


 甲高い金属音が草原に響く。


(おにーちゃんすごいですの、一撃で落とせましたの)


 リリヤが褒め称える声を聞きながら、輝きを失った黒い玉を拾い上げる。


「これで十個、と」


(後どれくらい必要なんですの?)


「あればある程いいな。レールの上を走る列車のための素材だ。その列車はもちろん一台じゃ話にならない。全部の町とつなぐ路線に最低一台ずつ、欲を言えば上下線に二台、バックアップに一台の三台はほしい」


(なるほどですの。それじゃあもっともっと狩らないといけませんの)


「そうだな」


(リリヤも頑張りますの。もっともっといくですの)


「ああ」


 頷き、魔法陣レーダーを頼りに光の玉を探す。


 草の中に止ってるときはひからないが、矢印がダイレクトに指し示すから、発見は難しくない。


 次に発見したやつは一撃目を空振って、二撃目で落とした。


 更にその次は一撃で落とした。


 そうやって一発で落としたり、はずして二発目で落としたりしていた。


 一撃目をはずすと反撃を喰らうが、リリヤの黒い鎧でダメージはない。


(すごく順調ですの)


「……」


(どうしましたの?)


 おれが黙ってる事に不思議がるリリヤ。


 そんな彼女を真・エターナルスレイブから出した。


 黒い光を失い、見た目は普通の剣に戻る。


 リリヤも剣の中から解放され、草色のドレス姿のただの奴隷に戻った。


「おにーちゃん?」


「少し離れてろ」


「で、でも」


「これを持って離れてろ」


 今まで集めた玉をまとめてリリヤに渡す。


 怒ってるわけでもヤケになってるわけでもない。


 目があったリリヤは何となく理解してくれたのか、言われた通りおれの後ろに下がった。


「どうするんですの?」


「試したいことがあってな」


「試したいこと、ですの?」


「ああ。なんかつかめそうなんだ」


「はあ……ですの」


 リリヤは狐につままれたような表情をした。


 次のターゲットを見つける。


 草の中から浮かび上がって、ビュンビュンとびまわる。


 背中に汗が伝う。


 当ればどうなるのか、って想像が一瞬頭をよぎる。


 それを追い出す。集中する。


 奴隷剣を――振るう!

 手応えあり。光の玉が輝きを失って地面に落ちる。


「ふう……」


 手の甲で額の汗を拭って、玉を拾い上げる。


 気のせいかもしれないけど、リリヤをはずしたら集中力が上がった気がする。


 はずせばやばいことになるって思いがおれの集中力を高い次元に引き上げてくれた。


 玉をリリヤにポイッと放り投げる。


 ターゲットを探す。


 さっきまでと同じように探して、集中して、狙い澄まして攻撃する。


 それで10体。


 リリヤをはずしてから、10体連続で一撃で沈めた。


 段々と楽になっていった気がする。


 自転車を乗れるようになったときと似てる。


 最初は補助輪とプロテクター付きでやっててものすごく転んだけど、補助輪をはずして、プロテクターもはずして。


 こつをつかんだ後は、一気にできるようになっていった。


 リリヤをはずして以来、一度も反撃を喰らってない。


 自分でもレベルアップしたのを感じる。


 リリヤなしでも光の玉を狩れる様になった。


「おにーちゃんすごいですの。リリヤなんていらなかったんですの」


 その事を、おれよりもリリヤの方が喜んでいた。


 レベルアップは奴隷にいいところをみせたいという気持ちに後押しされたものだ。


 それはあまりかっこいいものじゃないから、言わない。


 だけど原因になったリリヤを褒めてやりたいという気持ちはある。


 奴隷をめでる理由ができた。それはストレートに出す。


「リリヤ」


「はいですの」


 おれはポケットから折り紙のメダルを取り出して、リリヤに渡した。


 常備するようになった、奴隷にご褒美を与えるためのアイテム。


「これは……噂のメダルですの!?」


 かなりオーバーに驚くリリヤ。


 そういえば彼女はもらえてなかったっけ。


「これをリリヤに下さるんですの?」


「ああ」


「うれしいですの……」


 ――魔力が50,000チャージされました。


 かなり喜んでくれたみたいだ。


「でも……どうしてですの? リリヤ、今日はあまりお役に立ててませんの」


 後半は剣から出されたし、そう思うのも当然か。


「……ご主人様が奴隷に物を与えるのに理由は必要か?」


「まったくありませんの」


 リリヤは即答した。


 この辺りのレスポンス、つくつく彼女はエターナルスレイブだなと思った。


 その健気が可愛らしい。


「さて、帰るか」


「ハイですの」


 リリヤに玉を持たせて、おれ達はリベックへの帰路についた。

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