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ご主人様の矜恃

 表に出て、レールの魔法陣をはった。


 素材の矢印が全部宮殿横の倉庫を指してた。


「取ってくるね!」


 ミラがサッと走って行った。必要な素材を倉庫から運び出して、魔法陣に次々と入れる。


 鉄鉱石と木材の二種類だ。


 それを必要分入れると、光りが素材を包み込んで、完成品になった。


 三メートルくらいの長さのあるレールだ。


「これでいいの? ご主人様」


「ああ、これで良い。これをたくさんつないでいくことになる」


「なるほど! だったらもっと作ろう」


「待て待て、今これを山ほど作ってもしょうがない。レールを活かすためには上の物もないと」


「上のもの?」


「そう。メニューオープン」


 DORECAを出して、リストを確認。


 さっきまでになかったものがそこにあった。


「レールを作ったことで解禁されたんだな」


 今までの経験ですぐに理解できた。


 それを見て、サンプル動画の機能で見て。


 おれはにやりと笑った。


     ☆


 リリヤを連れて荒野を歩く。横に素材を指す矢印がある。


 リリヤは上機嫌だ。るんるんしてて、今にも鼻歌を歌い出しそうな雰囲気である。


「なんか嬉しそうだな」


「おにーちゃんのお役に立てるのが嬉しいんですの。リリヤは今日何をすれば良いんですの?」


「まだわからない。何もしなくていいかもしれない」


「そうなんですの?」


 一瞬でテンションが落ちた。見ていて申し訳ないくらいがた落ちだ。


 役に立てると意気込んでたのだから当たり前か。


 ちょっとフォローしてやろう。


「気を抜くな。町に帰るまでが仕事だ。いつでも働けるように気を張っとけ。


「――! ハイですの!」


 テンションがV字回復した。


 おれの命令一つでここまでテンションが上がる、その健気さがいつにもまして愛おしい。


 帰ったら何かしてご褒美の名目でしてやろう。


 二人で矢印に導かれて、先を進む。


 荒野を進み、毒々しい小川を何とか渡って、草原にやってくる。


 草原とは言ってもかなりまばらなものだ。


 おれが奴隷達と再生して、動物たちが次々とやってきたあの森とは比べものにならないくらい寂れたもの。


 その草から光の玉が浮かび上がってきた。


 玉はビー玉くらいのサイズで、ふらふら飛んでいる。


「ホタルか?」


 思わずつぶやいた。


 それは元の世界の田舎で見たホタルとかなり似ていた。


 そして、矢印はその光の玉を指していた。


「あれなんですの?」


「ああ」


「倒せばいいんですの?」


「わからないが……倒してみよう。行くぞリリヤ」


「はいですの!」


 意気込んで返事をするリリヤ。


 黒い宝石に触れて、彼女を真・エターナルスレイブの中に取り込む。


 黒い光がまるで鎧の様におれの全身を包み込む。


「いくぞ」


(はいですの! うふふ、おにーちゃんのかっこいいところが見られるですの)


 剣を握り締めて、光の玉に向かっている。


 三メートルくらいまで近づいても、それは光の玉だった。


 ホタルのように近づいたら「ああこれは虫だ」とはならなかった。


 純粋な光の玉。中心に粒大のひかってない部分があるけど、光の玉だ。


 とりあえず――斬ってみる!

 空気を裂いて唸る奴隷剣――空を切った。


「速い!?」


 光の玉は速かった。直前までゆらゆら動いてるだけだったのが、急に直線的な軌道になっておれの剣をかわした。


 その軌道を追ってくるりとターンする。


「くっ、なんだこれは。速すぎる!」


 振り向いた先にはもういなかった。


 同じ方向に更に半回転、今度はぎりぎり、視界の隅っこに光の残像を捕らえた。


 横薙ぎに振る、またしても空を切る。


(すごく速いですの!)


「ああ!」


(ごしゅ――)


 脳内の声よりも速く、横合いから衝撃が伝わってきた。


 ガツン! と側頭部を思いっきり殴りつけられた感触だ。


「いた――くない?」


 驚く。


 衝撃の割にはほとんど痛みがなかった。


 首がもげそうな勢いだったはずなのに、痛みはまったくない。


 よく見ると黒い何かが飛び散ってる。


「これは――リリヤか?」


(ハイですの)


「……防御力アップの様なものか」


 黒い光が再び鎧の様におれの全身を覆った。


 光の玉が高速でまわりを飛び回る。


 今度は後ろから衝撃が来た。


 後頭部を思いっきり殴りつけられた程の衝撃。


 一歩前に踏み出さざるを得ない程の衝撃。


 が、痛みはない。


 やはり黒い何かが飛び散っただけ。


 確信する、リリヤのそれはおれの体を守っていると。


 リリヤをエターナルスレイブに取り込んだらどうなるのかをしっかり検証してなかったが、少なくとも防御力が上がることはこれで確認された。


「いいぞリリヤ。後でご褒美をやる」


(はいですの!)


 気を取り直して、光の玉を追った。


 ものすごく速い速度でおれのまわりを飛び回ってる。


 中にいちゃ追い切れない――なら。


 おれは地面を蹴って、後ろに大きくジャンプした。


 その場で光の玉がぐるぐる飛び回っている。


 離れるとある程度把握できた。


 おれがいた場所を中心に、数メートル半径の小さなエリアの中で飛び回ってる。


 まるでハエのような動きを、ハエの数十倍の早さでやっている。


 神経を研ぎ澄まして――それをしばらく見つめて。


「……ここ!」


 狙い澄ました一撃。


 奴隷剣の刃は今までにないほどの鋭さで空を切った。


 反撃が来て、リリヤの黒い鎧で受けた。


(外れたですの……)


 リリヤのしょんぼりした声が伝わってきた。


 おれも気落ちした。


 無理だ。これは当らない。


 バッティングセンターで200キロを当ててみろって言われるような感じ。


 それと同じ感じがして、当る気が全くしない。


「リリヤ、撤退するぞ」


(撤退ですの?)


「ああ、このままじゃ無理だ。いったん撤退してユーリアを連れてくる」


(ハイですの、ユーリアお姉様の方がここは適任ですの)


 リリヤは素直にそれを認めた。


 感じる力、先読みする力。


 エターナルスレイブに取り込んでそれを発揮するユーリアの方がこの場面にあってる。


 おれはそう思い、リリヤも認めた。


 いったん帰って、適任のユーリアを連れてこよう。


 そう思い、身を翻して撤退する。


「……」


 ……足が止った。


(おにーちゃん?)


 振り向き、光の玉を見た。


(どうしたんですの?)


 話しかけてくるリリヤの存在を感じる。


 このまま帰るのは――シャクだった。


「気が変わった」


(え?)


「このままやる」


(やるんですの?)


「ああ。行くぞ」


(わかりましたの)


 リリヤは素直に受け入れ、黒い鎧を維持した。


 おれは光の玉に飛び込んでいった。


 剣を振るう。一撃必殺の大ぶりじゃなく、手数で乱れ切りするように。


 それもやはり当らない。


 斬る、外れる、斬る、外れる。


 その度にガツンと体当たりを喰らう。


 それを十回繰り返したところで、なんとなくわかってきた。


 こいつの動きは速い、今いるところに向かって斬りつけてもあたらない。


 だから、先読みするしかない。


 神経を研ぎ澄まして――光の軌道をじっと見つめて。


 狙い住ましたところに。


「ふッ!」


 鋭い一撃を放つ。


(かすりましたの!)


 リリヤが快哉を上げる。


 奴隷剣の刃が光の玉をかすめたのだ。


 光の玉がふらふらする、追い打ちの斬撃を放つ。


(外れました……)


 ものすごく残念がった。


 いかんいかん、いけると思ってつい大ぶりしてしまった。


 深呼吸して気持ちを落ち着かせる。


 もう一度最初から――じっと軌道を見つめる。


 左……右……左……。


「ふッ!」


 最小限の動き、絞り込んだ剣の突き。


 ガキーン!


 金属音を立てて、ジャストミートした。


 玉はすっ飛んでいきながら、徐々に光を失い、やがて地面に落ちた。


 剣を構えたまま、気を引き締めたまま歩いて行く。


 地面に落ちた玉を拾い上げて、そこでやっと気を緩めた。


(すごいですの、あんなに速いのに完全に当ててましたの。やっぱりご主人様はかっこいいですの)


 頭の中で大はしゃぎするリリヤ。


 どうやら、彼女にかっこいいところをみせる事ができたようだ。

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