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はなぢの設計士

「あああ、美しい……」


 公園の中に変質者がいた。


 前に奴隷と一緒に作った公園。女が中で妖しい目をしていた。


 木を見つめてうっとりしたり、ベンチにほおずりしたり。


 傍目からはまるっきり危ない人にしかみえない。その証拠に、おそらくは公園で遊んでた子供達が隅っこで怯えていた。


 その変質者は一通りうっとりした後、砂場の前で首をかしげた。


「なんだろう、これ? こんなの王様が作れる物の中になかったはずよ」


 うん? 今おれの事をいったか?


 王様って……おれの事だよな。


「王様が作れる物がまたふえたのかな、チェックしなきゃ」


 そう言って砂場をじっと見つめたり、べたべた触ったり、挙げ句の果てには砂を一つまみしてべろっとなめたりした。


 ……うん、関わらない方がいいな。


 おれはそう思って、この場から立ち去ろうとする。


 振り向いた瞬間、リーシャがやってきた。


「探しましたご主人様」


「ご主人様!?」


 背後にいる女が食いついた。


 おそるおそる振り向く。その女……よく見ればまだまだ少女な彼女はおれを見つめて、ものすごく驚いてる。


 そして……ぷしゃー。


 いきなり鼻血をふきだして、そのまま気絶したのだった。


     ☆


 気絶した少女をベンチにひとまず寝かせて、おれはその横でリーシャの報告を受けた。


「マルタさんがお見えになりました。ご主人様に会いたいとおっしゃってます」


「そうか。結界に通れるようにしとく」


 絶対結界の宮殿。おれの許可がないと誰も入れないから、マルタに許可を出した。


「先に入れて少し待ってもらえ。それとあいつは甘い物が好きだからなにか出してやれ」


「わかりました」


 一礼して、リーシャが立ち去る。


「うーん」


 それと入れ替わりに少女が目を覚ました。


「起きたか」


「はい……えっ」


 少女はおれをみて、慌てだした。


「お、おおおおおお」


「お?」


「王様だ!」


 ベンチからパッと飛び上がって、ロボットのようなカクカクした動きで三歩下がって、そのままお辞儀した。


「初めまして王様! ボクの名前はニーナっていいます!」


「おう」


 大げさだな。


「……本物の王様だ」


 顔を上げたニーナ。目がものすごくキラキラしてる。


 今までみてきた中で一番キラキラしてる。


「どうしよう、まさか王様に会えるなんて。心の準備まったくできてないのにどうしよう」


 なんの心の準備なんだか。


 それはスルーして、体調の事を聞く。


「体はもう大丈夫か?」


「はい!」


「そうか、ならいい。一応万能薬を流し込んだから、大丈夫だとは思うけど」


「万能薬!」


 ニーナはかなりビックリした。体がのけぞるほどのオーバーリアクションだ。


「あの王様の秘密兵器がボクの中に。ぼくの中に王様が……」


 ぶるぶると震えて――また鼻血を吹いた。


 今度は倒れなかった。代わりに鼻血を吹いたまま感動するという、ちょっとしたホラーな光景になった。


「……大丈夫か?」


「はい! 王様の事を考えるといつもこうなりますので慣れました、へっちゃらです!」


「お、おう」


 それはへっちゃらなのか? いやつっこまんとこ。


 もう、どこから突っ込めばいいのかわからん。


 悪い子じゃなさそうが、関わるのはどうだろ、って感じだ。


「そうだ! 王様、これをみてください!」


 ニーナはそう言って、四つ折りの紙を取り出した。


 パッと頭をさげて、両手でおれに差し出す。


 ……ラブレターか?


「これは?」


「ボクが考えた家です。必要アイテムは木の家一つ、柱四本、階段一つです」


「家?」


 紙を受け取って、開く。


 ラブレターじゃなかった。ニーナがいえ「家」の設計図だ。


 一言言うと、それは四本足のついた家だ。


 四隅に柱が立ってて、その上に家が乗っかってる。上がるための階段もついてる。


 高床式倉庫みたいな感じだ。


「なるほど、こんな風に組み合わせるとこうなるのか」


 木の家も、柱も、階段も。


 全部今まで作ったことのある物だけど、この組み合わせは思いつかなかった。


「ニーナが考えたのか」


「はい!」


「いい感じだ。これをもらってもいいか? なんかで使えそうだ」


「もちろんです! ああ……王様に気に入ってもらえた……」


 またうっとりして、ちょっと鼻血を吹いた。


 それにちょっと慣れてきた。


「にしてもこれ……結構受けるかも知れないな。馬とか? そういうのを使う連中が喜ぶかも」


 何しろ一階の部分が丸々空いてる、駐車場みたいな感じになってる。


「そうなんです。実はボクの近所に住んでる人が最近荷台をとめる場所がなくて困ってるっていってたんです。リベックも人が増えてきたから、内側にいる昔からの人たちは使える土地がすくなくて」


「ああ……」


 ユーリアから似たような報告を受けてたっけ。


「それでなんとかならないかって考えたのがこれです」


「そうか。よし、今度実際に作って試して見る」


「ありがとうございます!」


 更に鼻血を吹いた。


 吹き終わった後、ニーナは懐から紙をだして鼻血を拭いた。


「その紙で拭いてよかったのか?」


 指摘する。ちらっとだけど、紙に何か書かれてるのが見えた。


「あっ、ほんとだ」


「それも見せてみろ」


「はい!」


 今度のも設計図で、二階建ての、バルコニーつきの家だ。


「これもお前が考えたのか?」


「はい。必要なのは木の家二つと、それから解体の能力です。下の家の上にもう一つ家を乗せて、上の家を半分に切って、その分を屋外のスペースに使うんです」


「まさにバルコニーだな。なるほど部分解体か」


 設計図を見つめ、考える。


 部分解体という発想もなかったが、確かに出来る。


 どこの誰かがそれで脱獄したしな。


 それはともかく、この設計図はいい。


 バルコニー付きというのは今までとは別次元の話だ。


 ただ住むだけのものじゃない、気持ち良く住めるものの設計だ。


「……」


 二枚の設計図とニーナをみた。


「他にあるか? こういう設計図が」


「はい!」


 ニーナは鼻血を吹きながら頷く。


 ホラーだが、この上なく素晴しい笑顔だった。


     ☆


 ニーナと一緒に彼女の家にやってきた。


 ドアを開けて中に入る。


 部屋の中はビックリするくらいシンプルだった。


 机と椅子、ペンと紙、そして山ほどのプシニー。


 それだけだ。もはや家と言うより仕事場……アトリエみたいなものだ。


「あああ……王様に来てもらえるなんて。王様に……」


「感動してるところ悪いけど、設計図を見せてもらえるか」


「はい! まずこれを見て下さい」


 設計図をもらって、それをみた。


 木の家一個、柵多数、要解体って書いてあるそれは、家の片方の壁をぶちこわして、そこに柵をぐるっと取り囲む作りだ。


「これは?」


「食堂のおじさんから聞いた話で書きました。そこにテーブルと椅子を置けば空を見ながら食事ができます」


「ああ、飲食店のテラス席か。他には?」


「こういうのはどうですか!」


 ニーナはスタンバっていた。


 山ほどの設計図を抱えて、次々とおれにみせる。


 どれもこれも発想がユニークだ。


 十枚くらいみたところで、おれはある事に気づく。


「どれも、今から作ろうと思えば作れるな。必要な物の数ちゃんと書いてるし」


「はい」


「これとか一回しか作ってないのによく分かったな」


「王様が作ったものは全部見てまわりましたから。王様が作れる物は全部わかってます!」


「ふむ」


 もはやおれ以上に把握してそうだな。


 おれはニーナをじっと見つめた。


「頼みたい事がある」


「なんでもおっしゃって下さい!」


 また鼻血を吹いた。


「後でミラをここに来させる。ミラは知ってるか?」


「はい、第二奴隷様の事ですね!」


「そうだ」


「わかりました! ……えっと、第二奴隷様に何をすればいいんですか?」


「おれが現段階で作れるけど、まだ作ったことがないものもある」


「そんな物が……知りたい……」


 ニーナは物欲しげな顔をした。


「教えてやる」


「本当ですか!」


「ミラがそれを知ってる。それを見て、組み合わせで新しいものを作れるのか考えてみてくれ」


「王様の作ってないもの……未公開のもの……王様の秘密……」


 ニーナがぶつぶつ言い出した。


「王様の秘密をボクが――」


 今までで最大級の鼻血を吹いて、ニーナは後ろ向きにバタンと倒れて気絶した。


 とりあえず手持ちの万能薬を流し込んで、応急処置。


 楽しみだ。


 リーシャも似たような事をして、戦艦っぽいヤツの設計図を書いてたけど、ニーナのはそれ以上に発想が面白い。


 おれが作れる物を彼女がどう組み合わせるのか、おれはものすごく興味をもった。

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