最強の盾
翌日の昼前くらいに宮殿が完成した。
奴隷達と丸一日以上かけて作りあげた建物はミニチュアながらも、見た目はかなり宮殿っぽく仕上がってる。
いわば宮殿風屋敷だ。
最初は「宮殿なんていらないだろ」って思ってたけど、できあがった物をみると、作って良かったなと思った。
おれは振り向き、そばにいる四人の奴隷にねぎらいの言葉をかけた。
「四人ともご苦労だった。特にユーリア」
宮殿の設計をしたユーリアをとくにねぎらった。
「恐縮です」
「もう少し大きくても良かったと思うのだけれど」
「このサイズがおにーちゃんの希望ですの、リリヤたちは黙ってそれにしたがうですの」
「それはそうだけれど、ご主人様の威光を示すためにも、もっとこう」
「威光は建物じゃない。ご主人様そのもの」
ユーリアがいつものテンションでいう。
リーシャがはっとした。
「そう、ですよね」
「リリヤもそう思うですの。威光はおにーちゃんにさえあればいいんですの」
それはリリヤの希望だから、ちょっと違う話だな。
まあともかく、持ち上げてくれてる事はわかった。
「ねえご主人様、中に入ってみようよ」
ミラがおれに言う。さっきからずっと中に入りたくてうずうずしてる顔だ。
「そうだな、中に入ってみるか」
おれが言って、四人が一斉に頷く。
しかし誰も歩きだそうとしない、おれを見つめているだけ。
おれが最初にはいれ、という事か。
宮殿に向かっていく。階段を上って、二階の高さにある扉を開く。
正門をくくって中に入った、その時。
懐に入れてあったDORECAがいきなり光り出した。
これは――ランクアップか?
「どうなさいましたかご主人様――あ」
「なになにどうしたの――あれ?」
「……奴隷カードがひかってる」
「リリヤのも光ってますの」
外にいるときは何事もなかったけど、宮殿の中に入ってきた途端、おれのDORECAも奴隷達の奴隷カードも光り出した。
最初はピコピコと長い間隔で光りが明滅して、全員が揃った後は徐々に間隔が短くなった。
数秒間隔だったのが、最終的にチカチカしてる。まるで何かのカウントダウンをしてるようだ。
やがて、五枚のカードが同時にパッとフラッシュの様に光って、それから落ち着いた。
「ど、どうしたんでしょうか」
「多分……」
メニューを開いて、作れる物のリストを確認する。
「……やっぱり、新しく作れる物がふえた」
前例はあまりないけど、何となくこういうことじゃないかって思った。
「何を作れるようになったんですの?」
「結界」
「結界?」
小首を傾げるユーリア、他の三人もちんぷんかんぷんな顔をしてる。
メニューの中に表示されてるのは「絶対結界」の四文字だった。
それだけじゃわからないから、動画機能で確認した。
驚いたことに、動画はこの宮殿をうつしだした。
光りが宮殿を包み、その後様々な魔法や矢や砲弾が飛んできて直撃するが、宮殿そのものは傷一つつかなかった。
動画を見て、壁や天井、宮殿の内装を見回した。
この宮殿に張るための結界のようだ。
☆
「これでできたはず」
百万の魔力を払って、宮殿に結界を張った。
感覚は「解体」と同じ既存にある物にセットする感じで、宮殿にそれをやった後メニューから消えた。
こういうのは初めてだけど、一回しか作れない物なのか?
それはそうと。
「いろいろ試してみるか。リーシャ」
「はい! みんな、手伝って」
リーシャが声がけして、奴隷が全員で動き出した。
一斉にどこかにかけていき、しばらくして全員がそれぞれニートカを担いで戻ってきた。
リベックの外れに配備した、防衛用のニートカだ。
それが四門、四人はそれを設置して、おれを見た。
四人に頷く、ニートカが一斉に発射された。
三発が宮殿に命中して、一発が外れた。
宮殿は全くの無傷だった。ニートカが打ち出した岩を同時に三発くらっても傷一つつかなかった。動画の通りです。
一発外れたのは近くにある倉庫に落ちて、それを粉々にした。
「やっちゃった……」
「直してこいユーリア」
ユーリアが頷き、倉庫にかけていく。
おれは残った三人に言った。
「矢をぶち込んでみろ、火矢とか使ってみても良い」
奴隷達は命令通り、弓を取ってきて、矢を次々と放った。
矢は突き刺さらず、火矢は建物の上に落ちたか、焦げ目一つつかず、火も燃え移らず消えてしまった。
動画の通り、砲弾も矢も効かないようだ。
どこまで攻撃を防げるのか、おれはますます興味をもった。
ユーリアが戻ってくるのを待って、真・エターナルスレイブを抜いた。
四人を剣に取り込んで、魔力をざっと十万込めて、ほぼ全力の一撃を宮殿にたたき込んだ。
結果。
「これでも無傷か」
衝撃波が当たりに砂煙を巻き起こしたが、建物自体は全くの無傷だった。
真・エターナルスレイブに、魔力を十万程込めた一撃。
ドラゴンですら一撃で倒せるほどの攻撃だったはずだ。
それが、まったく通用しない。
「かなり強固な結界だな」
(ご主人様の攻撃でも壊れないなんて)
「絶対結界ってあったしな」
(最強の矛と最強の盾っぽいね!)
「盾の方が強そうだ」
(ここなら、色々安心)
「確かに」
(でもでも、これって建て替えとかどうするんですの?)
リリヤの疑問にはっとする。
壊せないと言うことは、建て替えもできなくなるということだ。
「そうだ、解体はどうなるんだ」
DORECAをだして、メニューから「解体」を選んで、宮殿に掛けようとする。
「かからないな。解体もだめか」
いろんな場所、いろんな角度から「解体」をかけてみた。
何回も何回も失敗したが、宮殿の中に入った途端すんなりかける事ができた。
「中からじゃないと解体かけられないのか、なるほど」
整理しよう。
結界は多分普通の攻撃じゃどうやってもびくともしなくて、DORECAを使って解体しようとしても中に入らないとかけられないって仕組みだ。
つまり、DORECA、もしくは奴隷カードをもった者が中まで入ってこないと壊すことはできないということ。
すごい結界だな。
「アキト!」
結界についてあれこれ考えてると、外からおれを呼ぶ声が聞こえた。
開けたままの扉から外を見る。そこにマイヤの姿があった。
マイヤはそのままやってきて、宮殿にはいる――が。
「あれ? なんだいこれは」
入れなかった。
ドアのところで見えない壁があるかのように、中に入って来れなかった。
何もないところを押したり軽く肩でぶつかってみる。
マイヤは入って来れなかった。
「アキト?」
マイヤは困った顔をした、おれもちょっと困った。
なんなんだこれは。
そう思った次の瞬間。
――訪問客を許可しますか。
という、魔力がチャージした時と同じ声が聞こえた。
まさかこれは。
「許可する」
「おっとと」
言った瞬間、透明の壁がきえた。それを押してたマイヤが前につんのめった。
その勢いのまま、宮殿の中に入ってきた。
おれは更に頭の中で結界の効果を整理した。
つまり、この結界はおれが許可した人間しか通れないって事だ。
あらゆる攻撃が通用しない。
内側からでしか破壊できない。
許可ない人間は中には入れない。
すごいところじゃなかった。
本拠地にふさわしい、完璧で最強の結界だった。




