奴隷王アキト
「ご主人様、今日は何から作りますか」
その日の朝もいつもの台詞から始まった。
舘の中、執務室。おれの前にいる四人の奴隷。
その中で一番キャリアが長い――第一奴隷リーシャがいつもの様に言った。
ご主人様と奴隷の関係は、おれが国王になったからと言って何も変わらない。
「ユーリア」
「はい」
おれの秘書的なポジションにいる、第三奴隷ユーリアが静かに答えた。
態度は一番大人びてるけど、見た目は小学生っぽくて一番幼い。
「今日の予定は全部空けてるな?」
「空けた。一日まるまる」
「よし。ミラ」
「うん!」
今度は第二奴隷ミラの方をむいた。
勢いよい返事そのままに、快活な彼女は四人の中で一番体力自慢なところがある。
だからそういう系の仕事を任せることが多い。
「頼んどいた素材は?」
「全部集めといた。言われた通りお触れを出して、集めてきた人にお金を払って買った。足りない分はお札をだして税金の免除で手を打ってもらった」
「へえ、よく考えついたなそのアイデア」
今までの事でてっきり脳筋系だと思ってたのに、意外と頭が回るんだな。
「ミラお姉様? 嘘はいけませんの、そのアイデアはリリヤが思いついたものですの。ひとりじめはいけませんの」
突っ込んできたのは第四奴隷リリヤ。
奴隷になってから日が浅いが、「超ご主人様」とか言って一番おれを崇拝してる節がある。
「ミラ……」
「ごめんなさい」
ミラはしょんぼり肩を落として、素直に謝った。
リーシャ、ミラ、ユーリア、リリヤ。
この四人は全員同じ「エターナルスレイブ」という種族の者で、おれの大事な大事な奴隷だ。
「さて、それじゃあ今日やることなんだけど」
おれは机の上に紙を広げた。
何日か掛けて書いた図面だ。
「今日はこれを作る」
「これって……宮殿ですか。でもものすごく小さい」
リーシャが聞く。
「ああ、宮殿だ。サイズは今の家とそんなに変わらない」
「つまりミニチュアの宮殿って事なの?」
「どうしてそんなものを作りますの?」
「言われたから」
三人の疑問を、ユーリアがまとめて答えた。
「町長達に言われた。王になるからにはシンボルとして、宮殿はないとダメだって。でもご主人様はでっかい宮殿はいやだって。だからわたしが宮殿に見える家を設計した」
「いやなんですか?」
リーシャが驚く。
「いやって程じゃないが、意味がないからな。そんなにでっかい宮殿建てても魔力の無駄使いだろ。ようは他とは違う、王様らしいシンボルになればいいんだから」
「そうでしたか」
「それにでっかくしすぎるとおまえたちが大変だろ?」
「ご主人様……」
リーシャの目がうるうるとなった。
――魔力を5,000チャージしました。
頭の中に音が聞こえた。
おれは手のひらサイズのカードを出して、メニューオープンを唱える。
カードの名前はDORECA、種別はプラチナカード。
おれがこの世界に転移してきたときに女神からもらったチート能力で、奴隷が笑顔になったり喜んだりするとこのカードに魔力がチャージされて、その魔力で色々作れたりする。
四人の笑顔で。おれはゼロから街を作り、今は八千人近い小国の国王になった。
☆
外にでて、腕まくりして、タオルを頭に巻く。
DORECAの「解体」能力で、しばらく住んでた領主の舘を解体した。
更地に戻ったそこに宮殿の建築をはじめる。
「ミラ、そこの塀がゆがんでる。ちゃんとまっすぐにして」
「大丈夫大丈夫、作った後に位置を微調整するから」
「でもそこにあると、こっちの噴水とぶつかる」
「お姉様方、柱を作ってきましたけど、これはどこに置いたら良いんですの?」
奴隷達が世話しなく動き回る、おれはそれ以上に忙しかった。
普段、DORECAで「木の家」「石の家」とかを魔法陣一つで出して、そこに素材を入れるだけで家になる。
しかし「宮殿」というのはDORECAには見当たらない。将来的に出来そうな気はするけど(女神に王を目指したらいいって言われたから)、今の所はない。
だから作れるアイテムをパーツ単位で作って、それを組み合わせて宮殿にしてる。
一言で例えるのならレ○ブロックで作ってるような感じだ。
前にも同じものを作った。
かまどと家を組み合わせて炊事場を作ったり、家とわき水と動力源を組み合わせて銭湯を作ったり。
もっと大きいものだとたくさんの木と草を並べて森を作ったり。
それと同じ感覚で、宮殿を作っていた。
「誰か手が空いてないか」
リリヤが手をあげてやってきた。
「はいですの、何をすれば良いのですの?」
「下の台をつくってきた、上の建物をいったん上げてくれ」
「はいですの」
仮でできた建物をひょいと持ち上げて、おれは作ってきたほぼ同じ面積の土台をその下に置いた。
DORECAの能力。魔力で作ったものは、おれや奴隷なら重力とか物理法則とか無視して持ち上げられる。
リリヤは建物を上につんで、一階から二階の高さになった玄関に続く階段を取り付ける。
「これで少しは宮殿らしくなったかな」
「はいですの、ご主人様にふさわしく威厳たっぷりですの」
リリヤと宮殿を見あげていた。
奴隷達とものを作るのは楽しかった。
日曜大工的な気分で、休日的な感覚だ。
できればいつまでもこうしてたい。
「王様! 助けてください王様!」
どうやらそうはいかないみたいだった。
☆
マントを着けて、国王らしい格好で王都・リベックの端っこにやってきた。
そこで防衛用砲台であるニートカが岩を放り続けていた。
集中砲火を喰らってるのは――ドラゴン。
硬い鱗を持ち、巨大な体の変哲のないただのドラゴンだ。
だから――強い。
バスケットボールより一回り大きな岩を放り続けてるニートカ二十門。その集中砲火を浴びながらも、ドラゴンは街に向かってじりじりと近寄ってくる。
「なるほど、あれは無理だ」
助けを呼ばれて、やってきたおれは一目で理解した。
ユーリアに前もって予定を空けてもらったけど、これは仕方ない、緊急事態だ。
「すみません王様、でもどうしようもなくて」
防衛部隊の隊長が申し訳なさそうにいう。
「いやいい。よく呼んでくれた。おれが引き受けるけど、念のために砲撃は続けててくれ」
「はい!」
防衛隊長はそう言って、指揮に戻っていった。
おれは振り向き、ついてきた四人の奴隷に話した。
「それじゃあ行くか」
「「「「はい」」」」
四人が声を揃えた。
腰の剣を抜いた。
根元に四つの宝石がついた、ワンオフの剣。
真・エターナルスレイブ。
その宝石に触ると、奴隷達が剣の中に吸い込まれた。
四つの宝石が光り出した。
刀身が炎と氷の半々になって、全体が白と黒の光を放っていた。
それを持ってリベックを飛び出して、ドラゴンに向かって疾走していく。
天を仰いで咆哮するドラゴン。大地が震えて、砲弾がはじかれ砕かれる。
「ついでだ」
ダッシュの後、思いっきりジャンプする。
「お前の血、丸ごともらうぞ」
ズパッ! 横一文字に薙いだあと、ドラゴンの首がすっ飛んだ。
着地すると、リベックから歓声が聞こえてきた。
「アキト王万歳!」
「バンザーイ!」
おれをたたえる声が上がる。
☆
ドラゴンを討伐して王都を守り通した後、おれは奴隷達と共に建築現場に戻ってきた。
奴隷達を剣から人間に戻して、マントをはずして、腕まくりしてタオルを巻く。
さあ残りの建築をやってしまおう、そう思った時。
「王様!」
また呼ばれた、しかもさっきと同じ助けを呼ぶときの声だ。
若い男が走ってくる。
「どうした」
「その、食糧の在庫がつきてしまったんですけど、今すぐ五百人分補充ってできませんか」
「プシニー五百人分か……おれが行った方が早いな」
すみません。
「気にするな」
奴隷達を待たせて、男と一緒に食糧庫に向かう。
そこでプシニーを百個単位でまとめて作ってきた。
終わった後建築現場に戻ろうとするが――別の用事ができた。
仕方ないので頼んできた人について行って、そこで物を作って解決する。
ユーリアにスケジュールを空けてもらったけど、結局は突発のイベントで、東へ西へと奔走してる。
全てが落ち着いたころには、すっかり日がおちきっていた。
逆に宮殿の建設が終わってなくて、この日は野宿することになった。
作りかけの宮殿の庭でたき火をおこして、戦略物資であるプシニーを四人の奴隷と一緒にかじって、早めの眠りにつく。
これがおれの一日。
国王になってからの初日も、今までと変わらない一日だった。
こんなおれの事、国民は二重の意味をこめて「奴隷王」と呼ぶ。
それを知ったときは――嬉しいような悲しいような、微妙な気持ちになった。
ちなみに奴隷達は全員が魔力チャージするほど大喜びした。




