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笑顔で魔力チャージ~無限の魔力で異世界再生  作者: 三木なずな
第七章 プラチナカード+奴隷ブロンズ
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奴隷の明暗

 仕事合間の休憩時間、おれはぼうっとしていた。


 王を名乗ることになったが、おれの日々は変わらない。


 ユーリアから報告を受けて、リーシャたち奴隷に指示を出す。


 大半は奴隷に任せる事ができるようになったけど、町も人口も増えて、結局おれがやることは減ってない。


 DORECAを持って、あっちこっちかけずり回ってる。


 変わったことと言えば、DORECAで作られたものじゃないお茶で一服できるようになったくらいか。


 一休みできたから、おれは茶を飲み干して立ち上がる。


「さて、要望のあった公園を作りに行くか」


 舘の執務室から外に出て、リベックの町を歩く。


「姉ちゃん、これいくらよ」


「1980エンだよ」


「2000エンもしないのか、よし買った」


「毎度あり」


 目的地に向かう途中、市場を通り掛かった。


 元々は空き地だったけど、最近は店が自然と集まってきて、市場になっていた。


 そこが最近ますます賑わってきてる。


 リベックの住民だけじゃなくて、違う町の住民の姿も見かけるようになった。


 いろんなところの人々が入り混ざって、商売をしてる。


 マラート時代と違って、活気があってみんな生き生きしてる。


 色々頑張ったかいがあった。


「領主様だ。ねえ聞いてよ、この前ビースクの更に向こうにある町が飢えてるって噂が入ってきたんだ。なんとかしてあげられないかな」


「なんて町だ? 場所と人数は?」


「えっと……なんだっけ、聞いたけど思い出せない。あおうだ、そこから来た人がまだリベックにいるから今度あったら聞いてみる」


「聞いたら奴隷の誰かに言ってくれ」


「領主様領主様、この前旅人から聞いた話なんだけど、ここから南に行ったところにドラゴンの巣があるらしいんだ。はいこれ地図」


「そんなに遠くないな。わかった今度討伐してくる」


 市場を突っ切っていくと、次から次へと声をかけられた。


 みんな色々言ってくる。


 基本はお願いが多いが、領地以外の情報も結構入ってくる。


 商品と人間じゃなくて、噂や情報も集まるようになった。


 その情報を元に動いたりする事が多くて、全体的にかなり楽をしてる。


 どんどん、うまく回ってる感じがする。


 移動中も仕事だ。色々話して、聞いて、処理をする。


 そうしながら予定の場所にやってきた。


 今日の仕事、公園の建設予定地だ。


 リベックの町の中にぽっかりと空いてるエアポケットの様な空間。


 その端っこに様々な素材が積み上げられてる。


 ミラが待っていた。


「ご主人様!」


 小走りでやってきた。


「待ってたよ」


「うん。ここに公園を作れば良いんだな?」


「うん!」


「しかしよく思いついたな、町のなかに公園を作るなんて」


「リーシャとリリヤから話をきいたんだ。森を町の中にも作ったらいいな、って思ったの」


「正解だ、よくやった」


「えへへ」


 ――魔力を10,000チャージしました。


 褒めて、頭を撫でてやると魔力がチャージされた。


「じゃあはじめるか」


「うん!」


 おれはDORECAを取り出し、元いた世界の町中にある公園の姿を思い浮かべて、魔法陣を設置してく。


 まわりに木を囲むように植え付けて、中にベンチを適当なところに設置して、わき水(小)を設置して、砂場を掘る。


 それらの魔法陣に、ミラが用意していた素材を次々に放り込んだ。


「手際がいいな」


「リーシャとリリヤから必要なものを聞き出して、準備してたから」


「良い子だ」


「えへへ」


 ――魔力を10,000チャージしました。


 てきぱき動くミラとの共同作業で公園を作っていく。


 下準備が万全だったから、一時間もしないうちにだいぶ公園らしいものができた。


 消費した魔力は五万ちょいで、期間中にミラからチャージされた魔力はそれを越えてる。


 最終的にはむしろ魔力が増えてる。


 公園を作ったが、収支が黒字になった。


「すごいな」


「はい、ご主人様はすごいです」


「いやそうじゃなくて」


「?」


 首をかしげるミラ。


 だったらなんだろう、っていう表情だ。


「奴隷ってのはすごいなって思ったんだ」


「だったらやっぱりご主人様はすごいです。だって奴隷はご主人様がいなかったら奴隷じゃないですから」


 満面の笑顔で言い切るミラ。


「なるほど。それは逆もそうだな。奴隷がいないご主人様なんて格好つかないもんな」


「奴隷を四人も持ってるご主人様は超ご主人様ですね」


「リリヤから聞いたな? それ」


「はいですの!」


 ミラがリリヤのまねをした。


 その声でのその口調はちょっと面白い。


 それからもう少しやって、公園が完成した。


 さっそく噂を聞きつけて遊びに来る子供達を尻目に、おれ達はゆっくりと撤収した。


 また一つ、町と世界が再生されていった。


     ☆


 夜中、寝ている時に起こされた。


「ご主人様」


 目をこすりながら見る、起こしてきたのはミラだった。


「どうした、こんな夜中に」


「緊急事態が起きたの」


「緊急事態?」


 真顔のミラ、それをみて一気に目が覚めた。


 着替えて部屋を出る。ミラの先導で舘の玄関にやってくる。


 そこに知ってる顔の男がいた。


 確実に知ってる顔だけど……だれだっけこの男。


「牢番だよ、ご主人様」


 隣からミラが教えてくれた。


 思い出した、あの牢番だ。


 聖夜の牢を守って、色々言いつけておいた男だ。


 その男が申し訳なさそうな顔でおれをみて――そのまま土下座した。


「申し訳ございません!」


「どうした、何があった」


「実は……犯人が脱走したんです」


「脱走?」


 おれは耳を疑った。


 まさか、と思った。


     ☆


 そのまま夜中の牢屋にやってきた。


 中に入るとまず目に入ったのが、破壊された牢屋だった。


「これは……もしかして」


「解体だよねこれ」


 一緒についてきたミラが驚いた様子で言った。


 そう、解体。


 DORECAの機能の一つだ。DORECAで作ったものを高い魔力で払って解体する。


 牢屋の柵の破壊はその解体の特徴がでている。


 これをやれるのは同じDORECAをもつ、ここに閉じ込めた聖夜本人だろう。


「まさかできるとは……あれってかなりの魔力が必要だぞ」


「はい……かなり必要です」


「それにあれはノーマルじゃできないはずだぞ――いや待て!」


 カードの事よりももっと重大な事に気づいた。


 牢の破壊には膨大な魔力がいる、そして聖夜の魔力源は……。


「聖夜の奴隷はどうなった! 連れて行く前にどんな様子だった?」


 悪い予感が頭を駆け巡る。


 聖夜の魔力チャージは奴隷に暴力を振るうこと。


 奴隷を殴ったり蹴ったりして魔力をチャージする、おれとは正反対のやり方だ。


 そしてそのやり方はかなり効率が悪い。


 蹴って殴っても、その都度に100とか200の魔力しかチャージされない。


 この牢を破るには相当の魔力が必要になる、と言うことはかなり暴力を振るわれたということだ。


「どうなってた。まさか死んではないよな。マイヤに連絡しろミラ。聖夜を捜索して、万能薬を届けさせろ」


「はい!」


 命令ミラが駆け出そうとしたが。


「それが、その……置き去りにされてました」


 門番の答えに動きが止まってしまう。


「……は?」


 予想外の答え、予想の斜め上を遙かに行く答え。


 おれは自分の耳を疑った。


     ☆


 牢屋の横にある牢番の詰め所、その中に聖夜の奴隷が寝かされていた。


 体がぼろぼろで――見るに堪えない状態だ。


「ミラ」


「はい!」


 ミラが慌てて彼女に駆け寄った。常備してる万能薬を口に流し込む。


 虫の息状態で流し込むのにすら苦戦する。


「……無理矢理やれ、口を裂いてもいいからとにかくそれを流しこめ」


「はい!!!」


 万能薬の効力をしってるミラは命令されたとおり、無理矢理奴隷に万能薬を流し込んだ。


 さっそく効果が現われ、傷がみるみる内に治る。


 寝かされてる奴隷の顔色が少し戻ったが、それでもミラは険しい顔で見つめた。


 おれは牢番に聞く。


「どういう状況だったんだ?」


「その……前からあの男はこの子を殴ったり蹴ったりしてたんです。ことあるごとに間抜けとかクズとかいって、柵越しに暴力を」


 簡単に想像できる光景、いつもの聖夜だ。


「それをとめようとしたんだけど、その子が黙々と受け入れてたし、領主様も牢から出すの以外は好きにさせろって言ったから……止めるに止められてなくて。それで……」


「そうか。話はわかった。お前は悪くない、聖夜を見くびってたおれのミスだ」


「……あの、あの子は大丈夫なんですか?」


 牢番は奴隷をちらちらみて、聞いてきた。


 とめられなかった自分を責めてるって感じだ。


「大丈夫だ、薬は飲ませた……そのうち目を覚ますだろう。――おれが作った薬だ」


 最後に一言付け加えると、牢番は少しほっとした表情になった。


「そっか、領主様のお薬なら大丈夫ですよね」


「ご苦労だった。この後の話はこっちで決めるから、お前はもう帰っていい」


「わかりました」


 頷き、牢番が立ち去った。


 見送った後、おれは聖夜の奴隷の方を向く。


 ミラと目が合った。


「ご主人様の万能薬を飲ませても目を覚まさないなんて……ひどい」


「……ああ」


「ご主人様!」


 背後から声がした、首だけ振り向く。


 リーシャとユーリア、リリヤの三人の姿があった。


 三人とも心配してる顔をしてる、話を聞いて駆けつけてきた様子だ。


 おれはあごをしゃくった。三人が奴隷のところに向かっていくのと入れ替わりに自分は外にでた。


 星空を見あげる。


 奴隷をおいていく聖夜。


 今までの事は全部見て見ぬ振りをしてたけど、今回のは無理だった。


「お前はもうご主人様じゃないな」


 怒りがふつふつとわき上がってきて、押さえるのに苦労した。

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