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笑顔で魔力チャージ~無限の魔力で異世界再生  作者: 三木なずな
第七章 プラチナカード+奴隷ブロンズ
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プラガダリュー

「この町の町長をやってくれ」


 仮の舘の中、おれはザハールを呼び出して、単刀直入にいった。


「おれですか!?」


 ザハールは思いっきり驚いた。


「ああ」


「な、なんでおれなんですか?」


「あの時お前が一番先に名乗り出たからだ。最初の家を作ってたときの話だ」


 デモンストレーションでチュートリアルの時、ザハールが真っ先に名乗り出た。


 あれのおかげで、その後の事がかなりスムーズに進んだ。


「その後も色々率先して動いてただろ? 町作りとか、プシニーの時とか。それだけじゃない、聞いてるぞ、狩りに行く連中もまとめてくれてんだろ?」


「それはただ暮らしをもっとよくするためにやってるだけで。領主様の元なら働いた分暮らしが良くなるから、それでやってるだけで……」


「そうかもしれないが、その中でもお前が目立って働いたんだ。それを見込んで町長をやって欲しい」


 ザハールをまっすぐ見つめる。


「どうだ?」


 迷うザハール、しばらくしてからおずおず頷く。


「……わかりました、やらせて下さい」


 ためらいながらも力強く頷く。


 この男なら行けるとおれは思った。


     ☆


 昼すぎ、リリヤを連れてリベックに戻ろうとした。


 街の入り口に、町民の大半が待ち構えていた。


 先頭に町長に任命したザハールが立ってて、そいつがみんなを率いてる。


「お見送りですの」


 リリヤがそっと耳打ちしてきた。


 おれは頷き、ザハールに言った。


「一段落したからリベックに戻るが、何かあったら連絡をよこせ。おれか奴隷の誰かに言えばすぐに対応する。マイヤたちに連絡を頼んでもいい」


「領主様、お願いがあります」


「さっそくか」


 おれは苦笑した。


 基本のものでやり忘れたものはないはずだ。となると何かのおねだりか。


 まあ、少しくらいならいいだろう。


「なんだ、言ってみろ」


「名前を、この町の名前を決めてほしいのです」


「……ああ」


 言われて、今更で思い出す。


 そういえばこの町の名前を決めてなかった。


「悪い、すっかり忘れてた。そうか、名前か」


 おれは考えた、さてどういう名前がいいかな。


「もし良かったら、みんなで考えたものがあるんだけど」


 ザハールがいう、おれはいやな予感がした。


 思い出したのだ、マドウェイにやられたやつを。


「アキトってのは無しだからな」


 最初の街、アキト。マドウェイ達に押し切られてつけられた名前。


 偉人の名前が町の名前になるのは良くある話で理解はできるけど、実際にやられるとつらい。


 自分の名前と同じだから呼びつらいし、その町の話になったときにいつも背中がむずむずする。


 奴隷たちの名前の町はそのうち作るけど、自分の名前はもうこりごりだ。


「いえ、そうじゃないです」


「そうか、じゃあどういうものだ?」


「『ブラガダリュー』」


「ブラガダリュー?」


 口に出して言ってみた。


 ちょっと長いけど許容範囲だ。それに何より恥ずかしくない。


 リベックとかペルミとか、そういうのと同じ響きがするから、むしろ良いかもしれない。


「それをみんなで考えたのか」


「はい!」


 ザハールが頷き、町民達も一斉に頷く。


 ふむ、そういうことなら。


「じゃあそれにしよう。ところで何か元ネタはあるのか?」


「はい。みんなで領主様に感謝の気持ちを形にして残そうっていって、こうしました」


「へ?」


 きょとんとなった。


 町民達が声を揃えて、真顔でいった。


 ――ブラガダリュー(感謝いたします)


 きょとんとなるおれ。


 名前より恥ずかしいかもしれなかった。


     ☆


 ブラガダリューからリベックに戻る道中。


 リリヤがいきなり、興奮した様子で話し出した。


「町ができましたの」


「うん? どうしたいきなり」


「町ができましたの。何も無いところでしたのに、十日くらいで町になりましたの」


「ああ、あそこの事か」


 なんとなく「あそこ」で答えた。プラガダリュー、会話の中で口に出すのはまだちょっと恥ずかしい。


「あっという間にできましたの。泉ができて家ができて。壁もぐるっとできて、服も食べ物もみんな揃ってましたの」


「揃ってたな。まあ、今までの経験で衣食住を真っ先に揃えたらいいってのはわかってたからな」


「みんな笑顔になってましたの」


「なってたか?」


「はいですの、みんなみんな、おにーちゃんに感謝してましたの。リリヤは奴隷として鼻高々でしたの」


「そうか」


 それなら良かった。


 リリヤを見る。


 町民達の事はあまり見てなかったけど、リリヤの事は見てた。


 こいつがどれだけ働いてくれたのかはよく知ってる。


「リリヤ」


「はいですの?」


「よくやった」


 ねぎらいの言葉をかけた。


 ただのねぎらいの言葉だが、リリヤがいきなりあわあわし出した。


「本当ですの? 本当なんですの? リリヤ、よくやれましたの?」


「ああ、よくやった」


 もう一回褒めてやる。


 褒めるのはただだから。


 むしろ奴隷はどんどん褒めて、愛でて、うれしがらせたい。


 それがおれの流儀だ。


「やった……ですの」


 小さくガッツポース、自分にだけ聞こえるようにささやく。


 これでそんなに喜ぶんなら。


「リリヤ。ちょっといいところに行くか」


「いいところですの?」


 これ以上の? と言わんばかりに、リリヤはわくわくしはじめたのだった。


     ☆


 リリヤを連れて森にやってきた。


 砂漠のオアシスのような、手作りの森。


「わあああ」


 気に入るだろうなと思って連れてきたけど、案の定リリヤは興奮しだした。


「ここはなんですの?」


「おれとリーシャが作った森だ」


「作ったんですの?」


「木とか草とか、そこにある湖とか。その辺にあるものを一通り作って並べたらこうなった」


「動物達もですの?」


「それは違う。森ができたらあっちこっちから集まってきて、勝手に住み着くようになった」


「わああああ」


 ますます喜ぶリリヤ。


 森の中を走り回って、動物たちを追いかけ回した。


 リーシャも植物を植え続けて、森になってきたときはかなりテンションが上がっていた。


 エターナルスレイブというのはやっぱりこういうのが好きなんだな。


 それに、似合ってもいる。


 自然豊かな森の中、緑色のドレスに、金色の髪と尖った耳。


 ものすごく似合ってる。


 おれは森の奥に入った。


 湖のそばに小屋がある、ここで作業する時のために使う小屋だ。


 小屋の中に入って、つもったほこりを払う。リリヤがついてきた。


「ここはなんですの?」


「泊まる用の小屋だ。今日はここに泊まるぞ」


「良いんですの?」


「たまにはバカンスくらい取らないとな」


     ☆


 夜、湖のそばで。


 たき火を起こして、炎を眺めていた。


 薪をくべたり、木の枝で炎をかき回してみたり。


 揺らぐ炎をじっと見つめていたり。


 そうやってのんびりしていた。


 リリヤはおれのそばにいた。


 彼女のまわりには大勢の動物が集まってきてる。


 リスやシカの様な動物。


 クマやイノシシの様などう猛そうな動物。


 それらが次々にやってきて、リリヤのそばに集まった。


 まるっきりリーシャの時と同じだ。


「動物は好きなのか?」


「はいですの」


「あの辺の奴らもか?」


 寝そべってるクマを指す。


「はい、あどけない顔で可愛いですの」


「あどけないのか」


 それはちょっとわからない感覚だったが、まあいい。


 とにかくリリヤは気に入ってる、それで十分だ。


「こんな素敵なところがあったなんで知りませんでしたの」


「言ってなかったな、そういえば」


「でもでも、もっと素敵になれるですの。リリヤなら奥に小丘を作って、湖に流れ込む瀧を作るですの」


「じゃあ本当に作ってみるか?」


「いいんですの?」


「ああ、リーシャが作ったものもあるから、なるべく既存のを壊さないで作るんなら良いぞ」


「今からでも良いですの?」


 リリヤはハイテンションで詰め寄ってきた。


「それはいいけど……十日間もものを作りっぱなしだったんだから、少し休んだ方がよくないか?」


「大丈夫ですの! さっそく行ってきますのー」


 奴隷カードを持ってかけ出すリリヤ。


 一緒にじゃれ合ってた動物たちが後をついていく。


「楽しそうで何より」


 大はしゃぎするリリヤを見て、彼女をここまで連れてきたかいがあったな、と思ったのだった。

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