いちばん嬉しい事
――魔力が5000チャージされました。
素材集めしてる最中にいきなり声がきこえた。
まわりに誰もいなくて、おれ一人だ。
魔力チャージはリーシャが笑うか喜ぶかってのが今までのパターンだったから、ちょっと驚いた。
「メニューオープン」
DORECAをもって唱える。
--------------------------
アキト
種別:ノーマルカード
魔力値:5900
アイテム作成数:11
奴隷数:1
-------------------------
やっぱり増えてる、枯渇しかかった魔力が増えてる。
何があったんだろう。
気になるから、おれは家に戻った。
リーシャが丁度倉庫から出てくるところに遭遇した。
「ご主人様」
リーシャがおれに向かって小走りで近づいてきた。
「ただいまリーシャ。何かいい事があったのか?」
「えっ、ど、どうしてわかったんですか?」
魔力が大量にチャージされた……とか言うまでもなく、おれを見つけて小走りでやってきたリーシャの顔を見ればわかる。
妙に嬉しそうで、スキップし出しそうな雰囲気だ。
「実はこんなものを拾ったんです」
リーシャはそういって、鉄の剣をおれに見せた。
おれのと似たような鉄の剣、大分古びた感じだけどおなじものだ。
「拾ったのかそれ」
「はい」
「なるほど」
誰かが作って、それで落としたか捨てたかのものを拾ったのか。
「ご主人様とおそろいです」
ニコニコしながらいった。
おれとおそろいなのが嬉しかったのか。
可愛いヤツだ。
「あれ?」
ニコニコしてたのが変わった。リーシャは不思議そうな顔でおれの背後をみた。
「あれって……なんでしょう」
振り向く、リーシャが見つめた先に砂埃が巻き起こっていた。
それが動いて、こっちに向かってくる。
目を凝らしてみる、ものすごい鋭くて長い爪を持った、凶暴な顔つきのサルだ。
「モンスターです! ど、どうしましょうご主人様」
リーシャが慌てふためく。
「落ち着け、おれがいる」
「は、はい」
「何とかする。リーシャは下がってな」
「はい――いえ、わたしも戦います。戦わせてください」
鉄の剣をぎゅっと握り締める。
「わかった、ただし危なくなったら下がるんだぞ」
「はい!」
――魔力を2000チャージしました。
なんか魔力がまた増えたけど、気にしてる余裕はなかった。
モンスターは全部四匹。数で負けてるから、おれは気を引き締めて立ち向かった。
――が、拍子抜けした。
奴らは弱かった、ビックリする位弱かった。
人間と同じ位のサイズで、鋭そうな爪を振ってくるけど。
力はまるで子供のように弱く、爪も鉄の剣で受け止めただけであっさり切れた。
しまいにはだだっ子パンチをし出すモンスター達。
なんとなく最弱のモンスターなのかなって思った、RPGで例えるとスライムかゴブリンクラスだ。
まだあのウサギの方がつよい。というかあのうさぎ一匹でこいつら四匹を倒せそう。
当然そいつらをあっさり倒した。
「お疲れ様ですご主人様」
「全然疲れてないけどな、お前もそうなんだろ」
「はい」
苦笑いするリーシャ。リーシャからしてもかなり弱く感じて、それでさっき大慌てしたのを恥ずかしがってる。
モンスターが全部こういうのなら助かるな。
「さて、こいつらは何かの素材になるかな」
DORECAを出して、メニューをオープンして。
とりあえず入手したことにしようと、倒れている猿たちに触れようとした。
そいつらは光った。
胸の辺りが光り出して、全身をつつんだ。
四匹全部だ。
「ご主人様」
「下がってろ」
「はい!」
リーシャを下がらせて、鉄の剣を再び構える。
あんなにあっさり行くわけがなかったな……と、何がでてきても良いように警戒する。
しかし。
「むっ」
「こ、これって……人間?」
驚くリーシャ、おれもビックリした。
なんと、光ったサルは一匹残らず人間に姿を変えた。
☆
「つまり、覚えてるのはモンスターに殺されたことだけ、と」
「はい」
人間になった四人。彼らが起き上がってくるのを待って、話をきいた。
全員が男で、その中で一番年上っぽい、40台の男と話した。
男の名前はヨシフって言うらしい。
「モンスターに殺されて、あきらかに死んだ! って思ったら、次の瞬間にはここにいたんだ」
「じゃあ世界が滅びかけたのもしらないのか」
「はい」
「あの……それは知ってます」
気弱そうな少年がおずおず手をあげていった。
「それは知ってるのか。じゃあ世界についてどこまで知ってるんだ? 勇者はどうなった」
「えっと、世界がいよいよ持たないから、勇者様が邪神の城に行くっていううわさを聞きました」
「それはしらない」
「邪神の部下の四天王はどうなった」
「おれが死んだときは一人倒したって言ううわさが流れた直後だった」
「わたしは三人目が二回倒されたところまで」
サルから人間に戻った四人が口々に言った。
どうやら死んだ時期はまちまちみたいだ。
だがまあ、話はわかった。
一番重要なのは、モンスターに殺されて死んだ人間がモンスターになって、それを倒したら人間に戻るって言う事実。
女神から言われた世界の再生、ひいては「国を作る」という目的の中で、人間を増やすのは重要な事だ。
これからもモンスターを見つけたら倒すべき、それがわかっただけで大収穫だ。
おれがそんな事を考えていると、ヨシフ達がざわざわし出した。
「世界がこんな事になってるなんて、これからどうするんだ……」
全員が不安そうだ。
とりあえず最低限の不安は取り除こう。
「メニューオープン」
魔力を確認、全部で7900ある。
足りないけど、とりあえずやれるだけやろう。
7500の魔力を払って、木の家の魔法陣を少し離れたところに作った。
奴隷助手として大分慣れたリーシャはおれが「メニューオープン」って言った瞬間から倉庫にかけていき、光り出した素材を運んで来た。
あうんの呼吸みたいで、ちょっと嬉しい。
五人がきょとんとしてるうちに素材を次々と運んで、やがて三軒の木の家ができあがった。
「ど、どういうことだこれは」
ヨシフが驚く、他のみんなも開いた口がふさがらない様子。
「魔法で作った」
「魔法?」
「そう言う力があるんだおれは。この力でまずはここに町を作ろうと思う。協力してほしい」
「し、しかしこの人数じゃ町には……」
「人も増やす。お前達がなってたモンスターをおれが倒す。ものも作る。家、服、食べ物。おれが用意する」
五人がざわざわする。木の家とまわりの果樹、そしてわき水を順に見ていった。
ざわざわだけど、さっきの不安なざわざわじゃない。
次第に、彼らは落ち着いていった。
それで話がまとまると、リーシャが言ってきた。
「ご主人様、家が足りません」
そういえばそうだ。増えた住民が四人で、作った木の家が三つ、微妙に足りない。
かといって魔力も残ってないし……。
「リーシャ」
「はい」
「お前はしばらくおれの家に来い」
といった。リーシャが家を明け渡せば数は足りる。
「余裕が出たらまた作ってやる、今は――」
「はい!」
リーシャは食い気味で言ってきた。大喜びの、満面の笑顔になった。
――魔力が30000チャージされました。
きょとんとするおれ、まさかおれと一緒に、でチャージされたのか?
しかも今までで一番多い量、30000が一気にだ。
おれと一緒に住むのがそんなにうれしいのか。
「ふんふんふーん♪」
鼻歌混じりのリーシャ。
予期しなかったできごとにおれは苦笑いする。
……悪い気はしないけど。