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笑顔で魔力チャージ~無限の魔力で異世界再生  作者: 三木なずな
第七章 プラチナカード+奴隷ブロンズ
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誘い受け

「大変ですのご主人様」


 新しい町に立てた仮の家で休憩してると、リリヤが慌てて駆け込んできた。


 息を切らせて、ものすごく慌ててる。


「どうした」


「町の皆さんが抗議してますの。ご主人様を出せって言ってますの」


「……どこだ?」


「案内するですの」


 外に出て、リリヤの後についていく。


 町の外れにある、食料庫としてたてた建物、その中にはプシニーが山ほど入ってる。


 おれはプシニーを戦略物資として扱ってる。


 この町でも山ほど作って、食べる人は好きなだけ食べろ、というスタンスを取った。


 そのプシニー倉庫の前に大勢の人間が集まってる。


 何が起きてるんだ?

「どうしたんだこれは」


 やってきたおれに、集まった人間が一気に詰め寄ってきた。


「領主様よ、これはいくらでもあんまりなんじゃないのか?」


「あんまり?」


「これだよ、これ」


 男の一人が不満そうにプシニーをおれに差し出した。


 おれはそれを受け取って、まじまじと見た。


 特に問題はない、大量にあるプシニーの中の一つだ。


「これがどうかしたのか?」


「どうかしたじゃないよ。これの作ってるところをみたんだ、そっちの奴隷さんが」


「ふむ」


 リリヤにプシニーを作るのを命令してある、それを見られたんだ。


「で?」


「だから、土で作ったものを食えってのはひどいんじゃないのか?」


「……ああ」


 おれはようやく理解した。


 今まで普通にやってきたし、それがDORECAという「魔法」の工程を挟んでるから気づかなかった。


 そう、プシニーの原材料は土だ。


 魔力1を消費して、土を材料にして生産する。


 それを知って、「土を食わせるのはひどい」って事になったのか。


「領主様には感謝してるよ? 家を建てたり服をくれたり、いろいろやってくれたり。感謝はしてる、だけどこれはいくら何でもないんじゃないのか?」


「そうだそうだ」


「土なんか食えないよ」


「なんかもっと別なものを作ってくれよ」


 集まった町民から次々と抗議の声が上がった。


 全員が不満げな顔だ。


 よく見たら地面にプシニーが散乱してる。


 ゴミのように扱われていた。


「……わかった、検討する。時間をくれ」


 おれはそう言って、リリヤを連れてその場から立ち去った。


 家の中にもどる、リリヤが地団駄をふんで悔しがった。


「なんですのあれ、あまりにも失礼ですの」


「まあ、言いたいことはわかる。土だからなあ、元が」


「ただで食わせてもらってるのに贅沢ですの。あれがご主人様の温情だって事がわかってないですの」


 温情と言うよりライフラインだな。


 最低限の食を保証して、生きる以上の食事がしたかったら自分で稼げ、がおれの方針だ。


「どうしますのご主人様。命令をくれればリリヤが今から牢屋を作って連中をぶち込みますの」


「恐怖政治かよ」


「ご主人様に逆らう者は全員粛清ですの」


「やめんかばかもの」


 リリヤの頭を掴んでわっしわっししてやった。


 かなり荒っぽいなで方で頭をぐわんぐわんと揺らすなで方だ。


 それをしながら考える。


 牢屋も粛清も論外、なんかもっと別な方法を考える。


「……リリヤ。マイヤに連絡とって来てもらってくれ」


「親衛隊を? やっぱり粛清ですのね?」


「そんないい笑顔で食いつくな。とにかく呼んでくれ」


「ちぇ、ですの。わかりましたの」


 リリヤは不承不承ながらも従ってくれた。


     ☆


 町民達に改めて通達した。


 プシニーは一個食べれば腹はふくれる代物で、倉庫に大量においてあって、誰でも食べたいときに取っていって良いものだ。


 そして食に関してはプシニー以外は生産するつもりない、これは今までの町とまったく同じ方針なのだと。


 食べても良いし、食べなくてもいい。


 それを町民達に改めて通達した。


     ☆


 次の日、駆けつけてきたマイヤ。


 仮の家の中で彼女と向き合った。


「久しぶりだねアキト。そろそろあたいら全員を孕ませてくれるのかい?」


「残念だがもうちょっと先だ」


 最近彼女と会うとこんなやりとりをする、もはや「ただいま」「おかえり」の領域だ。


「それよりも頼みがある」


「町民の粛清かい。気が進まないがアキトの頼みなら今すぐにでも――」


「頼むからリリヤの話は間に受けないで」


 まだ言ってるのか、しょうがないヤツだな。


 つか、おれがそんな命令をする人間に見えるのか、マイヤは。それはそれでショックだぞ

「簡単な仕事だ。この町にもプシニーの倉庫を作ってある、それの護衛だ」


「護衛するだけでいいのかい?」


「ああ、それも昼間だけだ。昼間は誰一人入れないようにする。なんだったら大騒ぎする位して、侵入したネズミを巡っての大捕物を演出してもいい」


「大げさにやればやるほどいいんだね」


「そうだ。で、夜は完全撤収、ノーガードだ」


「……何をするつもりだい?」


 マイヤはまったく理解出来ないって顔をした。


「とにかくそれをやってくれ、頼む」


「まあ、あんたの頼みなら断れないけどさ」


 マイヤは複雑そうな顔をした。


 少し考えてから、吹っ切ったようにいう。


「わかった、まかせとくれ。昼は鉄壁、夜は無視。これでいいんだね」


「それだけでいい。ああもちろんプシニーがほしいって人が来たら普通に渡していい、ただし――」


「中には入れない、だろ」


 にやりとするマイヤ。


 おれが目的はわからないけど、自分がやるべき事はすぐに理解した様子だ。


「その通りだ」


「わかったよ。もっとキツくして、中さえも見せないようにする」


 そういって、マイヤは行動を起こすために出て行った。


     ☆


 マイヤはおれを依頼を忠実にこなした。


 女達百人――親衛隊を引き連れてプシニー倉庫のまわりを取り囲んで、ニートカをずらっと並べる。


 できうる限り、最大級の警備体勢にした。


 プシニーがほしい人がいれば、注文した分だけを取って、渡す。


 昼間にやって、夜は完全撤収する。


 それを繰り返した。


 その間、おれは何事もなかったかのように町作りを進めた。


     ☆


 護衛開始から一週間経った頃、マイヤがやってきた。


「アキト、倉庫の中身が盗まれた」


「おっ」


 来たか、とおれは思った。


「詳しく教えてくれ」


 手元の仕事をいったん置いて、マイヤの話を聞く。


「今朝もいつもの様にみんなで護衛してたのさ。プシニーがほしいっていう町の人が来てね、それを取ってやろうと中に入ってみたら昨日に比べて減ってることに気づいたのさ」


「確実なのか? 勘違いとかじゃなくて」


「護衛を引き受けたんだ、残った分はちゃんと数えて把握してる」


「そうか」


 そうかそうか、やっと来たか。


「なんか嬉しそうだねアキト。盗まれたって言うのに」


「そのためにやった事だからな」


「どういう事だい?」


「まず、この町の人はプシニーを嫌ってた。おれらに土を食わせるのは何事だー。ってね」


「贅沢な連中だねえ」


 マイヤは言った。


 食えなくて仲間共々盗賊に堕ちていた過去もあって、妙に実感こもってる一言だ。


「説得するのが面倒な状況だった。例え説得したとしても押しつけた形になって、不満が残る。そこでお前達を呼んだ。全力で護衛して、『これは大事なものですよ』ってアピールした」


「そっか、夜はずさせたのは隙を見せて盗みやすくさせるためか」


「そういうことだ」


「で、連中はまんまと引っかかった」


 マイヤはくすくすと笑った。ものすごく楽しそうな顔だ。


「そういうことだな。まあでも、プシニーが大事なものって事は確かだ。量産はできるけど」


「知ってるよ、アキトがそれを重視してるのも、あたいらがそれに助けられてるのも」


 言葉通り、マイヤはものすごく感謝してる目でおれを見つめた。


 恩人、いやそれ以上だ。


「あと何日か護衛を頼む。近いうちに町の人の考え方も変わるから、その時に交代させる」


「はいよ」


     ☆


 それは意外と早かった。


 次の日、リリヤと一緒に町の外壁を地道に作っていると、町民の一人がやってきた。


 ガタイのいい青年、チュートリアルの時に最初に手をあげた男だ。


「あんたは……確か」


「ザハールだ」


「そうか。どうかしたのか?」


「領主様に頼みがあるんだ。例の食糧……えっと」


「プシニー?」


「そう、プシニー。あれを作ってくれないか? さっきもらいに行ったらもうないって言うんだ」


「もうないのか」


 おれはしらっばっくれた。


 今朝もマイヤから報告を受けてる。


 昨日の夜また盗みに入られた、しかも一昨日の夜よりもかなり盗まれて、ほとんどなくなってる。


 それも予測したとおりだ。


 盗みに入る段階で、「もうなくなるかもしれない」っていう感覚が働くと多めに持ち出したくなる。


 どこかでそういう感じになって、加速度的に減るのはわかっていた。


 それが今日だったのだ。


 おれの事を見つめてるザハールに言う。


「わかった、食糧庫の方に行っててくれ、すぐに行く」


 ザハールは先にいった。


「リリヤ」


「はいですの」


「プシニー作りはお前に任せる」


「おにーちゃんの命令なら従いますの? でもリリヤがやるよりおにーちゃんのほうが効率よくありませんの? リリヤはブロンズで一個ずつしか作れませんの」


「だからこそだよ」


 いうと、リリヤは首をかしげた。


     ☆


 プシニーはリリヤに作らせた。


 シルバーなら10個単位、ゴールドなら100個単位で作れるけど、リリヤが持ってる奴隷カード(ブロンズ)は一個ずつしか作れない。


 魔法陣を一個作って、素材の土をいれて、それがプシニー一個になる。


 魔力消費は1っていうかなり少ない量だけど、手間がものすごくかかる。


 それをリリヤがした。町民が見守る中で、汗だくになってやった。


 リリヤは文句を言わない。おれの奴隷だから、おれの命令で与えた仕事はむしろ喜んでやる。


 だけど傍からはリリヤがかなり苦労しているように見える。


 いや見えるだけじゃない、一時間かけてようやく町民全員の一食分を生産するのは実際に苦労の域だ。


 それをみた町民は次々と協力し出した。


 次第にリリヤが魔法陣をばらまいて、町民が素材の入れるという分担作業になった。


「こんなに大変なものだったのか、このプシニーってのは」


「これさ、すっごくまずいけど、ちゃんと腹はふくれるもんな」


「それをただで配ってくれるってんだから、領主様はすごい人だよ」


 あっちこっちからいろんな声が聞こえてきた。何日か前とはまったく違う感じだ。


 あの時「土を食わせやがって」って怒ってた町民も中にいて、リリヤの労をねぎらっていた。


 計画通り。


 これで、プシニーに関しても大丈夫だろう。

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