ご主人しゃま
ビースクの町、襲ってきたマクシム軍を迎撃した。
前回と同じようにニートカとグラディックをたくさん並べて岩と矢を惜しげもなく打ち込んだ。
敵兵は射程内にまったく入って来れなかった。撃たれて、バタバタと倒れていく。
一度、二度、三度の無駄な突撃の後、マクシムの兵が潮のように引いた。
代わりに、金色の馬に乗った男が登場する。
「来たか」
マクシム。
サムライアリの王、イナゴのリーダー。
そいつが金色の馬を駆って単騎で突撃してきた。
一応ニートカとグラディックを撃たせてみた。
前回以上に揃えたまとまった数での一斉射撃だが、マクシムはまったく意に介せず突っ込んでくる。
「やっぱり無理か。まあ予想はしていた」
ちらっと背後を見る。そこにはスタンバらせていた奴隷の四人が揃っている。
「行くぞ」
「「「「はい」」」」
四人の声が綺麗に揃った。
剣についてる宝石にまとめて触れて、奴隷の四人をまとめて取り込む。
真・エターナルスレイブ。
それを持ってマクシムに向かっていき、真っ向から迎え撃った。
「アキト!」
「マクシム!」
すれ違い様の撃ち合い。衝撃波が爆発する。
氷炎の刀身がマクシムの二刀をはじく。
「新しい力か!」
「お前を倒すために手に入れてきた力だ」
「面白い、やってみろ!」
言葉通り、楽しげな顔で再突撃してくるマクシム。
奴隷剣に取り込んでいるユーリアの能力で攻撃を感知・先読みした。
攻撃が繰り出される寸前にできる、一瞬の隙。
そこに攻撃を割り込む。
交錯する一瞬、横薙ぎの一撃がマクシムの脇腹を割く。
灼かれた瞬間、凍らされる。
「なんだと?」
馬を引いて止まるマクシムの顔が驚愕に満ちていた。
前よりも遙かに大きなダメージ。
前はパワーがあっても当てられなかったし、先読みを重視すると今度は攻撃そのものが聞かない。
しかし今回は違う。奴隷全員を取り込んだおれは先読みと火力の両方を併せ持った。
それがマクシムを圧倒する力にいった。
「はああああ!」
マクシムが更に突撃してくる。
(ですの!)
声が聞こえて、直後にマクシムの動きが止まった。
時間にして一秒未満。ほんのわずかの硬直に過ぎない。
それでも充分だった。
奴隷剣を振って斬りつける。マクシムが必死に馬から跳び降りる。
寸前でかわされた剣は馬を真っ二つにした。
完全な劣勢に、マクシムの顔が険しくなる。
おれは剣を真横に伸ばした。
合図だ。
ビースクの町の中からドラがカンカンとなった。
遠くから二つの軍勢が現われた。
片方はマイヤ率いる女達、片方はカザンの戦士達だ。
そして、ビースクの町からニートカによる長距離砲撃が行われた。
砲撃による援護で、左右からの挟み撃ち。
マクシムが劣勢に陥った時に一気にたたみかける、という手はずとおりに事がすすむ。
それをみたマクシムの顔がますますゆがむ。
「やってくれる」
「今からでも間に合う。もうやめにしよう。手を取り合って共にこの世界を――」
「くどい!」
マクシムはおれの提案を一蹴した。
部下の一人が引いてきたかわりの馬にのる。
「戯れ言に興味はない。限りある資源、必要なものは力尽くで手に入れる、それが真理だ」
「……前提からして間違ってる」
「それが戯れ言だという」
「どうすれば信じる」
「くどい!」
同じ言葉を繰り返して、マクシムは馬を引いて身を翻す。
来た時と同じように、二足歩行の馬を駆って風の様に去っていく。
負傷しているが、力に衰えは見えない。
ニートカの砲撃をかいくぐって兵と合流して、劣勢に陥った状況から盛り返して、兵をまとめて引き上げていった。
☆
「以上が、損害の全て」
領主の舘、執務室。
ユーリアから報告を受けたおれは眉間を押さえた。
マクシムとの一戦。
物的な損害はたいしたことないけど、人的な損害を出してしまった。
マクシムが撤退していく時に倒されたのがほとんどで、改めてそいつの力の程を思い知る。
「マクシム軍は数は千人を大きく下回った。もう一回か二回で再起不能になる」
「違うな」
「え?」
「いくら数を減らしても多分大して意味はない。マクシムを倒さない限りあいつはいくらでもイナゴをして、兵力と資源を他から奪って再起できる」
「肝心のマクシムを倒さないと、キリがない?」
「そういうことだ」
「……ご主人様と一緒」
一緒にされるのは心外だが、勢力の要という意味では確かに似ている。
ただし、おれと一緒じゃない。
おれと奴隷のセットで一緒だ。
今まで作りあげてきたものを全部壊されても、奴隷達さえいればいくらでも再起ができる。
そいつらを愛でて、代わりに魔力を得ればいくらでも。
もちろん壊されるつもりはないが。
「じゃあ、マクシムを?」
「ああ」
そうするしかないだろうな。
☆
夜の執務室。
魔法陣の中に、奴隷達が集めてきた素材を入れる。
素材と魔法陣が交わり、一粒の薬になった。
はじめて作るアイテム、プラチナカードで作れるようになった薬。
材料のグレードは万能薬と大して変わらないが、必要魔力が一粒10万というかなり高いものだ。
「それはどういうものなのですか、ご主人様」
リーシャが聞いてきた。
「効果はわかってるが……試してみる人」
おれは四人の奴隷に聞いた。
「させてください」
「あたしがする!」
「毒味役ならまかせる」
「リリヤにどーんと任せるですの!」
四人が一斉に名乗り出た。
全員がやると言って、それから互いをみた。
他を押しのけて自分が、と実際に口にすることはないが目で強く訴えかけてくる。
自分がやりたい、と。
おれは四人を見た。
この薬の特性を考えると、リーシャが一番ふさわしいか。
「じゃあリーシャ、お前が飲んで見ろ」
「はい!」
リーシャは満面の笑みで頷き、薬を受け取った。
ほかの三人はものすごく羨ましそうな顔でリーシャを見つめた。
全員が見つめる中リーシャが薬を飲んだ。
しばらくして、彼女の身体に変化が起きた。
大人びたスタイルのいいエルフがみるみる内に縮んでいき、五秒もしないうちに子供の姿になってしまった。
ドレスがぶかぶかになって、ほとんど体に引っかかってるだけ、という状態になる。
「ど、どういう事でしゅか」
喋りまで子供になってしまったリーシャ。
「若返り薬だ。文字通り飲んだ人間が若返る薬だが……予想以上に縮んだな」
リーシャをまじまじと見つめる。
どれくらい若返るのかわからないからリーシャに試してもらったけど、四人の中でも一番外見的に大人びてみえる彼女がまるで幼稚園児くらいに戻って、口調までもが子供のそれになってしまった。
ちょっと若返り過ぎるけど、逆に目的は充分満たせるからこれでよしとした。
これで変装して、マクシム軍に潜り込んでマクシムを倒すのが目的だ。
もはやマクシムを倒すまで終わらない、ただし正面から挑んだら損害が大きすぎる。
そこで考えたのが忍び込んでの暗殺で、忍び込むための手段が変装だ。
DORECAを出して、もう一つ同じ魔法陣をだした。
「ミラ、ユーリア、リリヤ。もう一回同じものを集めてきてくれ」
「はい!」
「わかった」
「リリヤにお任せですの」
三人は執務室から飛び出していった。
ご主人様の命令、奴隷はそれを喜んで遂行する。
残ったおれとリーシャ。
「あの、ご主人しゃま」
「なんだ?」
「わたし、ずっとこのままなのでしゅか」
「いや。説明動画見る限り一晩くらいで元に戻るみたいだ」
「ほっ……」
見るからにほっとしたリーシャ。
幼女姿と相まって、ものすごく可愛かった。
「リーシャ」
「はい、なんでしゅか?」
おれは手招きした、リーシャは寄ってきた。
小さくなった幼女リーシャに手を伸ばして、頭を撫でてやった。
子供にするのとまったく同じ感覚で。
「はわ……」
――魔力を5,000チャージしました。
リーシャはほわほわになった、それを見て更に撫でた。
――魔力を5,000チャージしました。
更にほわほわになった、更に撫でた。
――魔力を5,000チャージしました。
頭の中で何かが聞こえるけど、それよりもリーシャのほわほわ顔が可愛くて、さらに撫でた。
――魔力を5,000チャージしました。
なで続けた、幼女になったリーシャを愛で続けた。
「ご主人しゃま……くすぐったいでしゅよぉ……」
何から何までもう可愛くて、おれはリーシャが元に戻るまでずっと彼女を愛で続けた。
――魔力を5,000チャージしました。
気がつけば、魔力が百万以上増えていた。




