心を愛でる
夜、領主の舘。
おれの前に全員揃っていた。
第一奴隷リーシャ。
第二奴隷ミラ。
第三奴隷ユーリア。
第四奴隷リリヤ。
体と一体化した首輪をつけた四人がおれの前に立っていた。
これから武器の進化、真・エターナルスレイブに進化させる。
「メニューオープン」
DORECAを持って、作成リストの中から「スレイブハート」を選ぶ。
それを魔法陣にする、全部で四つ。
同じ魔法陣だが、素材の矢印がそれぞれ違う奴隷を指している。
赤い光がリーシャに、青い光がミラに、白い光がユーリアに、黒い光がリリヤを差している。
「全部が一本……お前達だけってことか」
「これって……わたし達がここに入ればいいんですか、ご主人様」
リーシャが聞く。
「多分な」
「あの……それってリリヤたちが素材になるって事ですの?」
「そういうことだ」
「いやなの?」
ミラがリリヤに聞く。リーシャとユーリアが同時にリリヤを見た。
リリヤはちょっといやそうな顔をしてて、それを見るミラとユーリアが不機嫌そうになった。
「それはちょっと困りますの。リリヤはずっとおにーちゃんの奴隷として働きたいですの。素材になって消えるのは困りますの」
リリヤの理由は実に彼女らしいものだった。
「それは名誉な事じゃないですか。ご主人様のものになれるのは」
と、リーシャがいう。これまた彼女らしい。過労すら名誉に感じてしまうエターナルスレイブらしい発想だ。
「それは御免被りますの。ずっと生きて、おにーちゃんより長生きしてずっと奴隷として働きたいですの」
「どっちも、わかる」
「うん」
ミラとユーリアがそういう。
結局の所、リーシャもリリヤもいってる事は「奴隷として」というのが先に来てるから、共感するところが大きいんだろう。
「とにかく、わたしはご主人様のお役に立ちたいんです!」
リーシャがそう言って、魔法陣の中に入った。
躊躇はまったくなかった。
「……あれ」
しかし、意気込んで入った割には何もおこらなかった。
赤い光がリーシャの全身を包むだけで、他には何も変化がない。
「どうして……なんでしょう」
「……全員が入らないとダメなんじゃないのか?」
おれは少し考えて、言った。
「そうかもしれない」
ユーリアは同意しつつ、自分も魔法陣に入った。
リーシャと同じように白い光が彼女の小さな体を包み込む。
それ以外の変化はやはりない。
「あたしも入ってみるね」
そういってミラも魔法陣にはいった。
青い光が同じようになる。
リーシャ、ミラ、ユーリア。
三人が魔法陣の中からリリヤを見つめた。
「うっ……な、なんですのその目は。リリヤをせめてますの?」
三人は答えない、ただ見る。
次はお前の番だと、強い視線で訴えた。
三人とリリヤは考え方がちょっと違う。ミラもユーリアも「理解できる」とはいっても、考え方はリーシャに近い。
だからすんなり魔法陣の中に入った。
しかしおねだりを多くして、「生きて役に立ちたい」というリリヤはなかなかそうはならない。
少なくとも、自分の意思で決められないでいるみたいだ。
「リリヤ」
「な、なんですのおにーちゃん……」
「入ってくれ」
リリヤをまっすぐみつめて、言った。
命令ではないが、命令に近い口調。
お願いも入ってる。
「うぅ……」
リリヤが呻く。
さすがにご主人様が口を開いたら突っぱねることは出来ない、って顔だ。
「これが必要……いや」
おれは言い換えた。
必要なにもそうだが、それ以上に。
「これがほしいんだ」
そう、おれはそれがほしい。
予感はあるんだ。
エターナルスレイブ改になったとき、奴隷を一人、剣の中に取り込むことが出来た。
それによって奴隷と強く繋がって、かなりちかくにいるのが感じられた。
それの次が「真・エターナルスレイブ」。
「改」の次が「真」だ。
もっと強く繋がって、更に次の段階に進むのは確実だと思う。
おれはもっと奴隷と繋がりたい、近くに感じたい。
奴隷を……もっと愛でたい。
もっともっと、もっともっともっともっと。
この健気な生き物を近くに感じて、愛でてやりたい。
その手段がきっとこれだ。
これで叶えられるはずだ。
そんな確信がある。
だから、見つめる。
リリヤをじっと見つめた。
「……わかりましたの」
最初は唸ったが、次第にリリヤの表情も変わった。
落ち着いた……覚悟を決めた顔に。
「ご主人様にそこまで言われたら、奴隷として従うしかありませんの」
「ありがとう」
「おにーちゃんは素敵すぎますの」
リリヤはそう言って、自分の魔法陣に入った。
黒い光が彼女を包む。
赤、青、白、黒。
四つの光が奴隷から発して、とけ合って、混ざり合う。
おれが持ってるエターナルスレイブ改も光り出した。
奴隷の光、奴隷剣の光。
光は共鳴し、膨らみ、混ざり合い。
やがて――全てを包みこんだ。
☆
気がついたら知らない場所にいた。
この世の場所とは思えない、何もない空間。
強いていえばあの女神と会った場所、異世界に転移してくる時にいた場所と似てる。
そこでおれは真っ裸になっていた。
……なぜ?
――ご主人様。
疑問に思った途端背後から声をかけられた。
振り向く、そこに奴隷達がいた。
リーシャ、ミラ、ユーリア、リリヤ。
全員は同じように全裸でいた。
緑色のドレスは着てなくて、体に一体化した首輪だけをつけている。
全裸首輪の奴隷達だ。
それを見た途端おれは理解する。
ああ、そういう場所なんだ、と。
おれは無言で四人に近づいた。
手を伸ばして、四人の首輪に触れる。
リーシャの赤い宝石。
ミラの青い宝石。
ユーリアの白い宝石。
リリヤの黒い宝石。
順番に撫でてやった。
四人は頭を撫でられたようにうれしがり、胸を撫でられた様に悦んだ。
順番で最後までなで回すと、さっきと同じように光が膨らみ、またおれたちを包みこんだ。
☆
光が収まった後、部屋の中には誰もいなかった。
おれしかいなくて、奴隷の姿はどこにもなかった。
が、おれは探さなかった。
わかってるからだ。
剣を抜いた。
奴隷の剣。柄と刀身の間に四つの宝石があり、それが四つとも輝いていた。
四つが全て、同時にだ。
「リーシャ」
(はい、ご主人様)
「ミラ」
(いるよ)
「ユーリア」
(ここに)
「リリヤ」
(はいですの)
一人ずつ呼びかけて、それぞれから返事をもらう。
全員が剣に入っていた。
これが、真・エターナルスレイブだ。
おれはそれをもって、舘の外にでた。
炎と念じれば刀身が炎になり、氷と念じれば氷の刀身になる、光と念じればまわりのあらゆる気配を強く感じ、闇と念じれば――。
「リリヤの能力はなんだ? そういえば」
(リリヤにもわかりませんの)
「そうか。まあいい、何かしらはあるだろ。それより――」
おれは念じた、全部、と。
四色の宝石は同時に光っていたのだ、それが出来るはずだと確信してる。
実際、出来た。
真なる奴隷剣は炎と氷が融合したような刀身になり、かつまわりの気配も感じられる。
奴隷をまとめて使える剣に進化したのだ。
「これなら……マクシムに勝てるな」
おれは確信する、これならば勝てる、と。
四人を戻した。
宝石から輝きが消え、光が剣から抜け出て、四人が元の姿に戻った。
「あっ、もどりましたの」
「ちゃんと戻れてよかったね」
ミラがリリヤにいう。
「不思議な感じだった」
「うん、でもこれでもっとご主人様のお役に立てるって思った」
リーシャとユーリアが言って、うなずき合った。
おれが何かを確信したのと同じように、奴隷達も同時に剣の中に取り込まれた事で何かを感じたんだろう。
それを一番強く感じたのは――。
「おにーちゃん、もう一回ですの!」
「もう一回?」
「はいですの! もう一回リリヤ達を剣にするですの」
「さっきは嫌がってなかったっけ?」
「嫌がってなんていませんの。それよりも今は一緒におにーちゃんのものになりたいですの、あのお役に立てる感じがほしいですの!」
リリヤが強く訴えてきた。
彼女らしかった、おねだりをしてくるのは実に彼女らしかった。
他の三人も口には出さないけど、おれをじっと見つめている。
リリヤと同じ考えのようだ。
「よし」
真・エターナルスレイブを強く握り締め、四つの宝石に触れる。
奴隷達がまた光になって、剣に吸い込まれる。
途端に強い充実感を覚えた。
(ご主人様……)
(ご主人様!)
(ご主人様)
(おにーちゃん!)
奴隷四人の声が聞こえる。
それはまるで、彼女達の希望に聞こえた。
同時に、おれの希望でもあった。
奴隷を愛でたいという、おれの希望。
「寝る。今夜はこのままだ」
((((はい!))))
――魔力を1,000,000チャージしました。
――魔力を1,000,000チャージしました。
――魔力を1,000,000チャージしました。
――魔力を1,000,000チャージしました。
その晩、おれは夜遅くまで、四人の心を愛で続けたのだった。




