泥棒逮捕
体と融合した首輪、緑色のドレス、奴隷カード(ブロンズ)。
リベック近くの森の入り口、一式を揃えて大喜びするリリヤ。
おれはそれをみてちょっとした達成感を覚えていた。
一番古株のリーシャは少しずつ揃えた、一番新しく入ったリリヤは一気に揃えた。
ゲームをやってた時によく起きた光景だ。
「どうだ、なんか違和感はないか?」
おれは自分の首をトントンしながら聞く。
「ありませんの。生まれた時からずっと一緒だったくらいしっくりきてますの」
「そんなにか」
「はいですの!」
リリヤは満面の笑顔を浮かべた。
「あたためて、よろしくお願いしますの」
「ああ」
頷くおれ。
さて、そろそろリベックに戻って、やるべき事をやるか。
「アキト」
聞き慣れた声がして、マイヤが現われた。
女達は離れたところで待機してて、マイヤだけこっちにやってきた。
「奇遇だね、こんなところでなにしてたんだい」
「ちょっとな。おまえらは?」
「巡回中さ」
そう言って、マイヤはおれの後ろにいるリリヤを見た。
「新しい奴隷かい?」
「ああ。リリヤっていう」
「初めまして、第四奴隷リリヤですの」
「あたいはマイヤ。あそこにいるみんなと一緒に、そのうちアキトに孕ませてもらう女さ」
「よろしくお願いしますの」
にこやかに挨拶を交わす二人の女。
おれはマイヤに言った。
「リーシャたちと同じ力を与えたから、なにか必要な時は彼女に頼んでもいい」
「同じ力をかい?」
「ああ」
頷くと、マイヤはちょっと驚く。
「いいのかい? 新しい奴隷なんだろ? みた感じ……首輪もドレスも。信用しすぎなんじゃないのか?」
「そうか? 妥当だろ」
おれはリリヤを見た。
永遠の奴隷。
「奴隷ってのは、それだけで信用に値するもんだ」
「おにーちゃん……」
「はあ……」
リリヤは感動した様子で、マイヤはあっけにとられた感じだ。
「さすがアキトだねえ、相変わらずの男っぷりだ」
「そうか?」
「そうさ」
「そうかな」
首をかしげる。
そんな事はないと思う。
だって奴隷だぞ、エターナルスレイブだぞ。
この世界に来てからの出来事でわかる、こいつらはご主人様に何があっても逆らわない種族だ。
もとの世界でも犬は飼い主に忠実ってよく言うけど、それよりも更に忠実だ。
エターナルスレイブの種族特性に忠誠度100がついてるってくらい忠実だ。
そのことはおれの「男っぷり」とやらとは関係ないと思う。
☆
「ご主人様大変です!」
翌朝、寝室で寝てるとリーシャが慌てた様子で飛び込んできた。
「どうした朝っぱらから」
「ニートカが、ニートカが盗まれました」
「……なに?」
それを聞いた瞬間眠気がすっ飛んだ。
「盗まれた?」
「はい! 来て下さい」
おれは頷き、着替えて領主の舘をでた。
そしてリーシャに先導され、町の外れにやってくる。
「ここですご主人様!」
「……たしかに盗まれてるな」
そこは町の防衛用としてニートカを二十門ほど設置していた場所だったが、半分近くなくなってる。
「泥棒……ですよね」
「ああ」
「そんな……一体だれが……」
「……」
リーシャはそう言うが、おれは現場を見た瞬間ピンときた。
なくなったニートカ、それがあった場所はかなり綺麗だ。
下にある台座がそのままで、上のニートカの部分がそのままなくなってる。
おれはDORECAを出して、残ってるニートカを「持ち上げた」。
持ち上がったニートカの台座は、なくなったニートカの台座とまったく同じ見た目になった。
「ご主人様?」
「DORECAで作られたものはDORECAを持つものなら重量関係なく持ち上げられる。知ってるよな」
「は、はい。わたしの奴隷カードでも同じ事ができますから」
「で、持ち上がった後と盗まれた後を見てみろ」
「えっ……あっ、同じです」
「犯人に察しがつくだろ?」
「……聖夜さんですか!?」
おれは頷いた。
今の所、おれが知ってるDORECAか奴隷カードを持ってるのは六人。
おれと四人の奴隷、そして聖夜だ。
聖夜の奴隷はまだ奴隷カードを作れていないはずだから、少なくとも実行犯ではない。
奴隷は無条件で信じられる。つまりこれをやったのはおれの奴隷達ではない。
なら、消去法で聖夜しかなくなる。
「あのバカ……」
☆
人気のない、この世界にはありふれた荒野。
そこに聖夜とその奴隷がいた。
二人の前にニートカが十門置かれていて、聖夜はそれを見てニヤニヤしていた。
「ふ、ふふふふふ。これさえあれば、この火力さえあればおれは」
「……」
「それにしてもつっかえないなお前は。なんであいつの奴隷達はこれを持ち上げられるのに、お前は持ち上げられないんだ?」
「申し訳ございません」
「ふん、やっぱり欠陥奴隷だ。まあいい。今はこれだ。これでまずは――」
「まずは、なんだ」
おれは話しかけて、聖夜の前に出た。
「秋人!? なんでここに!」
「運良くマイヤが目撃してたんだよ、変な男がこそこそニートカを運んでるのをな。まあ、目撃情報なんてなくても追えたんだが」
DORECAを取り出して、魔法陣を作る。
素材をさす矢印が数本でて、一本は目の前のニートカを指した。
ニートカの改良版を作る魔法陣だ。
「くっ」
それを見て呻く聖夜、おれはますます呆れた。
「聖夜……そこまで堕ちる事ないだろ」
「なんだと!」
「なんだともクソもあるか。よく考えろ、お前がやったのは泥棒だぞ泥棒。しかも夜の内にこっそり忍び込んで盗みだすこそ泥だ」
「だまれ! 別にいいだろそれくらい。あんなにあるんだから少しくらいこっちにくれたってよ」
「……」
おれは言葉を失った。そしておいおい、って思った。
盗みを働いたあげく逆ギレか。
「とにかくそれは返せ。あと一緒にこい」
「なんでだよ!」
「この事はリベックの町民に広まってしまった。犯人を捕まえてそれなりの処分をしなきゃ収まりがつかない」
「何いってんだてめえ、てめえの町だろうが、なに気兼ねしてるんだよ」
「……」
何を話しても無駄みたいだ。
おれはすぅと手をあげた。
「なんだそりゃ、何かのおまじないか?」
「まわりをよく見ろバカ」
聖夜はまわりを見た、顔が一瞬で青ざめた。
マイヤたちがぐるっと聖夜を取り囲んでいて、台車に乗せたニートカを全部聖夜に照準を合わせていた。
圧倒的な不利に、聖夜は歯ぎしりして、ぷるぷる震えた。
☆
リベックの牢屋、その独房に聖夜を放り込んだ。
「てめえ! ここから出せ!」
聖夜は吠えたが、おれは無視した。
領主として雇ってる牢番に話しかけた。
「監視は厳密に。結構暴れるだろうが、なにがあっても牢を開けるな」
「わかりました!」
「で、そこにいる女、あのエターナルスレイブが見えるか」
おれは離れたところにいる、牢の外にいる聖夜の奴隷を指した。
「はい!」
「あの子は好きにさせてやれ、牢を開ける、壊す以外の事なら可能な限り便宜を図ってやれ。ものが足りないときはユーリアにいえ」
「わかりました!」
牢番はびしっと敬礼して、命令を遂行する気概を見せた。
ちらっと聖夜の奴隷を見た。
聖夜はアレだけど、奴隷の方はかわいそうだと思った。
今でも生傷が絶えないのに、それでもご主人様の事を案じてる顔。
エターナルスレイブらしさ全開だ。
まったく……こんないじらしい生き物をよくぞんざいに扱えるものだ。
ぶっちゃけニートカを盗んだ事以上にこっちの方が腹立つ。
「秋人!!! 今すぐここから出せ! でないと後悔するぞ! 秋人ぉぉぉぉ!」
おれはじろっと睨んだだけで、なにも言わなかった。
囚人に成り下がった聖夜の声を背に、牢屋から立ち去った。
臭い飯でも食ってろバカ。




