超ご主人様
リベックの町、領主の舘。
気を失ったままのエターナルスレイブをいったん部屋に寝かせて、おれは執務室に来た。
そこに座って、遅れて入ってきたユーリアから報告を受ける。
「まず、シュレービジュから戻った人間」
「ああ」
「ミラが状況を説明してる。人数的に、多分ビースクの街に振り分けた方がいい」
「それは任せる。ペルミの住民はどうしてる」
「男は落ち着いてる。いまリーシャが街外れに仮の住宅とか、服とか色々作ってる。リベックの住民も手伝ってる」
「住民にはちゃんと報酬を払ってやれよ? 手伝った分の」
ユーリアはこくりと頷いた。
こういうところにミスはないヤツだけど、念の為注意だけしておいた。
「ペルミのまわりはどうなってる?」
マイヤが見に行ってる。夜に連絡があると思う」
「そうか」
頷くおれ。
事が一段落したら交通網と連絡網をなんらかの形で整備しなきゃなと思った。
そのまま、ユーリアから受けた報告を頭の中で整理した。
「ペルミの住民はしばらくリベックに住まわせとこう。マクシムとの一件が終わったらペルミを再生することを約束するっていってやれ。ブロンズカードがあるな? それで修復を実演してみせるんだ」
「わかった」
「とりあえずマクシムとのごたごたが終わるまで保護する。対処は――」
「いつも通り」
ユーリアがおれの言葉を引き継いだ。
「プシニーを中心に、最低限の衣食住を保証して、あとは好きにやらせる」
「ああ、それでいい」
「ご主人様のところに誘う?」
「傘下にか? それは後でいい。今はマクシムの件優先だ」
「わかった」
その後もいくつか報告を受けてから、ユーリアは執務室から出て行った。
「……さて」
しばらくぼうっとしたが、おれは勢いついて立ち上がった。
執務室をでて、もう一人のエターナルスレイブを寝かした部屋にいった。
ペルミの住民のことも、マクシムの事も気がかりだが、それよりもエターナルスレイブの事がどうしてもきになる。
慎重にドアを開けて、部屋の中に入る。
「起きてるか?」
ささやく程度の声で呼びかけた。
反応はない、まだ寝ている。
おれはベッドの横に立って、彼女を見下ろした。
エルフそのままの外見。
やっぱりどう見ても奴隷の種族――エターナルスレイブだ。
この子が……すんなり奴隷になってくれたらいいんだけど。
そんな事を考えてると、彼女がゆっくりを目を開けた。
目を開けて、天井を見て。
目をパチパチして、おれの方を見て。
体を起こして、おれをじっと見つめた。
さて、何から話そうか。
「おにーちゃんがリリヤのご主人様ですの?」
「展開早すぎ! ってか見た瞬間その認識って生まれたてのヒナか!」
思わず突っ込んでしまった。
そりゃなってくれればいいと思ったけど、こんなに早いとは思わなくて思わず突っ込んだ。
「違うんですの?」
「いや、違うっていうか。そもそもなんでおれがご主人様になるって思ったんだ? まさか本当に生まれたての鳥なのか?」
「だって」
リリヤと名乗った少女は体を乗り出して、おれの首筋の辺りをクンクンした。
「おにーちゃんの体、奴隷の匂いがいっぱいしますの」
「奴隷の匂い?」
自分で服を摘まんでクンクンした、よくわからん。
「うん、奴隷の匂い。すっごく濃いですの。二人……三人くらい?」
驚いた、結構精度が高いぞ。
「奴隷をいっぱい持ってる人ですの、だからリリヤのご主人様になる人かなって思いましたの」
「そういう認識なのか」
おれは椅子を引いて、リリヤの横に座った。
腰のエターナルスレイブ改を――そこについてる三つの宝石を見せる。
「正解だ、おれは三人の奴隷を持ってる。いずれ説明するけど、この宝石がその証だ」
「なるほどですの」
「で、事情があって奴隷を増やさなきゃならん。お前さえよけ――」
「はい、なりますの」
「――だから展開早いよ! 話を最後まで聞かないでいいのか?」
「だっておにーちゃんはもうご主人様をしてる人ですの。三人も奴隷をもってる超ご主人様ですの。そんな人の奴隷になれるなんて奴隷冥利に尽きますの」
奴隷冥利って……そんな言葉あるのか。
リリヤは既にノリノリだった。あとはおれさえ同意すればそのまま奴隷になるって勢いだ。
あまりにも話が早すぎて戸惑ったが、やるべき事は変わらない。
「おれの奴隷になるか――いや、今からお前はおれの奴隷だ」
「はいですの!」
言い直すと、リリヤはものすごく喜んだ。
奴隷になったことを、年頃の女の子が恋愛したかのような感じで喜んだ。
「ご主人様、ペルミのみんなが落ち着きました」
「ご主人様! シュレービジュから戻った人間はビースクに送ったよ」
「ご主人様。マイヤから連絡。特に問題ないって」
ドアが開いて、三人の奴隷が次々に入ってきて、報告した。
おれはそれを聞いて、状況を把握。
とりあえず問題はないみたいだ、ならまずはリリヤの事に専念できる。
そう思って振り向くと――リリヤは全力で目を輝かせていた。
「おにーちゃん!」
「お、おう。なんだ?」
「リリヤも首輪がほしいですの! 奴隷の証がほしいですの!」
詰め寄るリリヤ。その目はおれと、三人の首の間で行き来した。
そうか首輪か。
「ちょっとあなた、奴隷のくせにご主人様におねだりは――」
リーシャがたしなめようとするのを手で止める。
リリヤをみて、いう。
「首輪をやろう、その代わりおれのために働いてもらうぞ」
「もちろんですの」
「リリヤはエターナルスレイブ、奴隷ですの。ご主人様のためなら粉骨砕身ですの」
リリヤのノリが少し不安だったけど、スルーする事にした。
その後、奴隷総出で新しい首輪を作って、リリヤにつけさせた。
「ありがとうございますの!」
――魔力を5,000チャージしました。
おれの奴隷になって、早速少額だが魔力がチャージされた。
ハイテンションなリリヤをみて、リーシャは眉をひそめ、ミラは純粋に喜んだ。
そして、ユーリアは。
「奴隷の後輩」
とつぶやき。
――魔力を2,000,000チャージしました。
こっそり、大いに喜んでいたのだった。




