真なる力
アキトの町。
町の外壁に立って、遠くを見つめた。
約一キロ離れてるところにマクシムの大軍が見える。
先頭は二足歩行の馬にのった騎兵、その後ろに大量の槍兵がついている。
「2000人か……」
確定じゃないが、おおざっぱな目測でも大体それくらいの数はいるとわかる。
それを一気に差し向けてきたのは本気の証なんだろうな。
「ご主人様」
後ろからリーシャが話しかけてきた。
「準備整いました」
「ああ」
頷き、後ろをちらっと見る。
アキトの外壁にずらっと並べた二十門のニートカ。そしてグラディックを持った領民100名。
ニートカの指揮を執ってるのはミラ、グラディック隊はユーリアに任せてる。
ここからみてもはっきりとわかる。町の人々は2000人のプレッシャーに押されて、緊張、あるいは怯えている。
「ご主人様、向こうが動き出しました!」
リーシャの慌てた声が聞こえる。
みると、騎兵が砂煙を巻き起こしながら突撃してきた。
「ニートカ撃て。引きつけて狙いをつける必要はない、とにかく弾を放り込め」
「はい!」
リーシャがミラのところに走った。直後、砲台が一斉に砲弾を放った。
放物線を描いて飛んでいく岩の塊は狙いがバラバラで、大半が見当外れの地面に落ち、一部が騎兵の真ん中に着弾した。
「砲撃やめるな、どんどん撃て」
岩が次々に飛んでいった。
騎兵の突進があきらかに遅くなった。狙いはでたらめでもでっかい岩が次々と飛んでくればそりゃ遅くなる。
それでも止まるまでには至らない。ニートカの砲撃をかいくぐった騎兵が更に速度を上げて突っ込んできた。
弓の射程内に入る。
「グラディック隊、ありったけの矢をぶち込め!」
命令した直後、ユーリアが100人の弓兵を動かした。
矢が一斉に放たれる。
百人の弓兵、分裂する500本の矢。
雨の様に降り注ぐ矢に騎兵は次々と射抜かれ、落馬した。
遠距離はニートカでの砲撃、中距離はグラディックの集中射撃。
大量に用意した矢と岩の集中砲火がマクシム軍を阻み、近づかせなかった。
「なんとかなりそうですね」
「そうだな」
おれは頷き、戦況をみた。
「あの、ご主人様」
「なんだ」
リーシャをみる。
「ご主人様は戦わないんですか? ご主人様なら、あれくらいの相手でもなんなく勝てると思うのですが」
「勝つだけならな」
「?」
首をかしげるリーシャ。
正直、全滅させるだけならそんなに難しくはない。
リーシャを取り込んで、炎のエターナルスレイブ改で魔力を注ぎ込んだら2000人だろうと勝てるはずだ。
様々なモンスターと戦って来た経験で、一般兵相手ならなんとかなるとわかる。
だけどおれが無双してもしょうがないのだ。
例えばおれが1000人を相手にしてる間に、残った1000人が町になだれ込んだらどうする?
ようやく住民が増えて、発展してきた町が一瞬でメチャクチャだ。
だから対集団の戦いをする必要があった。
勝つだけじゃなくて、最小限に犠牲を抑えて勝つ戦いをする必要が。
マクシムの兵は突撃を繰り返した。
しかしニートカとグラディックの集中砲火に晒され、あるラインからまったく前に進めないでいた。
被弾した兵が次々と倒れていく。
「むっ」
流れが変わった。
突撃を繰り返していたのが急に止まった。
かわりに一人の男が突進してきた。
金色に煌めく二足歩行の馬に乗って、両手で二本の刀を持って突進してくる。
「集中砲火、あいつを狙え」
岩が、矢が、雨あられのごとく男に降り注いだ。
二本の刀が乱舞する。矢は切り払われ、岩は粉々に砕かれた。
「射撃やめ!」
大声を上げて命令した。するとぴったりと射撃がやんだ。
男が更に突進してくる。多分、いくら撃っても通用しないだろう。
「ご主人様?」
「行くぞリーシャ」
「――はい!」
並の相手じゃない、そう思っておれは初っぱなからリーシャを取り込んでから飛び出した。
男に向かって突進する、男も更に速度を上げて突っ込んできた。
交錯、剣と刀がうちあう。
「お前がマクシムか」
「アキトだな!」
「そうだ。こんなことをやめて手を取り合わないか、この世界は人間同士が争うにはまだ厳しすぎる」
「だからこそ奪うのだ、有限の資源を力尽くで奪い合う。弱肉強食の時代なのだ今は」
「資源は有限じゃない! おれが持つ資源は無限に近い」
「絵空事だ!」
「ええい!」
怒鳴りあいながら打ち合う。
言葉では説得する事ができず、攻撃も届かない。
炎の奴隷剣の長所は高い火力だ。
その高い火力はマクシムに届かず防がれっぱなしだ。
「ユーリア!」
もう一人の奴隷の名前を叫んだ。白い宝石に触れて、リーシャからユーリアにチェンジする。
剣の中に入り、おれと繋がった。
「フォローを頼む!」
(はい)
火力を落として、レーダー・先読みにたける光の奴隷剣に変化させた。
ユーリアで感覚が拡張された。
マクシムの刀を打ち払い、そこにできたわずかな隙に切っ先を潜り込ませた。
手応えは――なかった。
「ふっ」
肌に直接切りつけたはずなのに、その肌にまったく刃が通らなかった。
「うおおお!」
魔力を大量に込めてようやく切っ先がめり込んで、かすり傷程度のケガを負わせた。
マクシムは金色の馬を操り、おれから離れた。
つけられたかすり傷を指でなぞって、血をぺろっとなめた。
「やるな、なんだそれは」
「エターナルスレイブ。奴隷と一体化して戦う剣だ」
「エターナルスレイブ……くくく、はーははははは」
マクシムは天を仰いで大笑いした。
「なるほど、そういうことか。ふむ、そういうことなら分が悪い。兵の戦いでも、一騎打ちでも」
「……」
おれは黙った。優勢だけど、かった気がしない。
マクシムは手綱を引いて、馬を自軍の方向に向けた。
「今日はお前の勝ちだ。認めよう、お前はこんな手抜きな攻めで倒せる男じゃないと言うことを」
「……」
「次は本気でくるぞ、覚悟しろ」
マクシムは馬を駈って、颯爽と去っていった。
そして自軍の兵をまとめて撤退していく。
それをみたアキトの町の住民が勝ち鬨を上げた。
おれはそれを見つめた。
兵同士のたたかいは大勝、大将同士の一騎打ちもおれがやや上回った。
だが、マクシムの言葉が気になる。
はったりをする男には見えない、次は何かやってくる、そんな風に思わせる何かがある男だ。
兵は今までのままでいいが、おれが強くならないといけない。
手に持ってる剣をみた。
もし、リーシャの火力にユーリアの能力が合わさっていたら勝てたはずだ。
そう、前にも思った、奴隷を複数取り込む事さえできれば勝っていた。
赤、青、白。
三色の宝石を順番に触った。
同時に取り込む事ができれば、と。
次の瞬間、おれの懐が光った。
DORECA、全ての力の源。
その中に新しいアイテムが増えた。
真・エターナルスレイブ。
新しい目標ができた。




