良い奴隷達
山ほどのデザートを運んで、カザンの町にやってきた。
それははフードプリンターで作ったものだ。DORECAの作成じゃないから、おれも奴隷達も楽々運ぶ、って訳にはいかなかった。
だから台車に積んで、マイヤたちに護衛についてもらって、カザンまでやってきた。
カザンの町で、町の外まで出迎えて来たヴァレリヤと合流する。
「遠路はるばる、ようこそおいで下さいました」
「約束のものを持ってきた。中に案内してくれ」
「はい」
ヴァレリヤの先導で町の中に入る。
途中で何人かの子供が泥遊びをしていて、なんか和やかな感じだ。
「うん?」
「どうかしましたか?」
「いま町に入ったよな」
「はい。ここからがカザンの中です。それがどうかしましたか?」
「町に入ったのに感じがまったく変わらない。町の外にいる感じだ」
「その事ですか」
ヴァレリアはにこりと微笑む。微妙に誇らしげな顔をする。
「マルタ様のご意向で、カザンはイリヤの泉はないのです」
町の必須品、モンスターの侵入を防ぐ高級アイテム、イリヤの泉。
それがない事を誇らしげにいう。
「なんでだ?」
「我々は邪神を倒した勇者パーティーの一人、戦士ルスランと同じ血を引く誇り高き一族。イリヤの泉などなくともモンスターは来たら返り討ちにすればいい、というのがマルタ様のご意向なのです」
すればいいって。
「ご報告が遅れましたが、先日アキト様に都合して頂いた食糧。あれもモンスターを倒した実績にあわせて住民の皆に配布してます。より多く倒せたもの、より大物を仕留めたものから優先的に、という形で」
「そんなことをやってたのか。そっちの好きにやってもらっていいけど、そのやり方じゃもらえないヤツもでてくるんじゃないのか?」
要は懸賞制度だから、そうなりそうな気がする。
「カザンにそんな弱者は存在しないもん」
「うぉ!」
後ろからいきなり話しかけられた。
ビックリして振り向く、そこにマルタがいた。
マルタは腰に手を当てて、ヴァレリヤ以上に誇らしげな顔でいいはなった。
「あたしらは偉大な戦士ルスランに繋がる一族なんだよ、戦いでモンスターごときに遅れを取るはずがないじゃん」
「モンスターごときか」
「そうよ」
「ちなみに聞くけど、成績がビリだったヤツはどれくらいモンスターを倒せてるんだ?」
「ヴァレリヤ?」
マルタはヴァレリヤに聞く。
おれと同じ数字の把握は部下に任せてるみたいだ。
「12体です」
「だって」
「期間は? ビリでそれだから一ヶ月くらいか?」
「一日に決まってんじゃん」
今度はマルタが即答した。
「はあ?」
「だから一日。まあ平均だけどさ」
「一日で12体モンスターを倒せてるのか? ビリで?」
「うん」
それがどうした、って顔をしたマルタ。
さすがにそれは無いだろ――って思った所にモンスターがやってきた。
遠くから砂煙を巻き起こしてやってくるモンスター。巨大でイノシシの様な見た目をしたモンスターだ。
「アキト」
マイヤがおれを見た。おれはうなずく。
許可を得たマイヤ達が迎撃態勢に入った――その時。
泥遊びをしていた子供の一人が飛び出した。泥混じりの鼻水をたらしてる子供だ。
子供はダッシュしてからの跳び蹴りをモンスターに放った。
先を越されて、マイヤ達はぽかーんとなった。
おれから見れば別にそれほど強くない(子供にしては結構強いってレベル)が、戦う意思はめっぽう強くて、攻め攻めでモンスターに攻撃をし続けた。
激闘が十分くらい続いて、子供はモンスターを倒した。
ますますぽかーんとなってしまうマイヤたち。
「ちぇ、倒されちゃったか」
「やられたらおれが行くつもりだったのに」
「飛び出しが遅い方がわるい」
泥遊びに戻った子供達、会話の内容がある意味ひどい。
……ここは修羅の国か。
おれはマルタを見て、呆れた口調で行った。
「みんなああなのか」
「もちろん」
「あんな事ができるんなら自分達で食糧調達もできるだろうが。倒した獲物を食糧に加工するとかさ」
「えっ、何それ? 倒した獲物をってどういうこと?」
「はい、いやだから、あそこに倒れてるモンスターを食糧にするとか」
「どうやって?」
「どうやってって……」
マルタを見る、ヴァレリヤを見る。
そういう発想自体ないのか?
そう思ってるとまたモンスターが襲ってきた。泥遊びをしてる子供達が動き出す前に、今度は街の中から老人が飛び出してきて、俊敏な動きでモンスターに挑んだ。
「……おいおい」
呆れるおれ、さっきからもう何をいっていいのかわからないって感じでぽかーんとするマイヤたち。
なんかもうカザンはこれでいいような気がしてきた。
「それよりも、約束のものを持ってきたぞ」
マイヤたちに合図を送って、荷台を引いてきたもらう。
上にかぶせてある布を取って、小さな箱を一つ取り出して、マルタに渡す。
「これは?」
「カステラ。くってみろ。甘くて美味しいぞ」
マルタは言われた通りカステラを食べた。
くちがもぐもぐする――目が輝きだした。
「美味しい! なにこれ、あたしが食べたものの中で一番美味しいよ」
「そうか」
「ねえねえ、これってもしかして全部そのカステラってやつ? こんなにいっぱい?」
「約束だからな」
いうと、マルタはますます目を輝かせたのだった。
☆
リベックの町に戻ってきて、領主の舘に戻った。
「お帰りなさい、ご主人様」
「ユーリア、これからカザンの人間があれこれモンスターの素材を持ち込んでくる事になる。それに値段をつけて渡してやれ」
「買い取り?」
「そうだ。物々交換でもいいし、エンを使った取引でもいい。お前に任せる」
「うん」
頷くユーリア。
「それとカザンもおれの傘下に入ることになった。事務的な事は全部お前に任せる、いい感じにやってくれ」
「わかった」
おれは椅子に深く座って、体を休めた。
ちょっとだけ疲れた。
「ご主人様、報告いい?」
「ああ」
目を閉じたまま頷く。
「町の人から質問。住民税はお金で払っても良いのか、って」
「いいぞ、その方が向こうも楽だろ」
今までやってた物々交換よりは。
「わかった、そうする。それから提案、カザンがご主人様のものになるなら、銭湯を作ってあげた方がいい」
「そうだな。今度作りに行ってくる。他は?」
「リーシャさんとミラがサル狩りに行ってる。森にいっぱい吸い寄せられた」
「サルなら任せておけば良いだろ。他は?」
目を閉じたままユーリアの話を聞く。
ものすごく有能な奴隷だ、内政面に関しては、もはや彼女がいないと回らないくらい依存しちゃってる。
「ユーリア」
「はい」
「ここに座れ」
「はい」
ユーリアがおれの横に来て、ちょこんと床に座った。
「お前は最近よくやってくれてる。褒美になにかほしいものはないか?」
「ご主人様の役に立ちたい」
ユーリアは迷いなく即答した。
本音だとわかる。
おれの奴隷、エターナルスレイブ。
ご主人様の命令で過労でたおれるのを名誉に思う人種だ。
おれの役に立ちたい、ってのは間違いなく本音だろうな。
おれは聖夜の奴隷を思い出した。荒野で正座を命じられても、それすら奴隷としてこなすあの子。
奴隷はそれでも良いかもしれない、だがおれはそういうのはいやだ。
「ユーリア」
「はい」
「調整して、おれとお前達三人が休める日を作れ。最近お前達を剣にして戦ってないから、それをやりたい。三人まとめてだ」
「わかった。調整する」
「ああ」
頷く。
魔力はチャージしなかったな、薄目で見たらユーリアは微かに微笑んでた。
おれは奴隷を愛でる、過労で倒れるのは仕方ないけど、それ以上に手元において愛でる。
聖夜と違う道をいく。
「ユーリア」
「はい」
「肩を揉め。報告があったら続けろ」
「はい!」
ちょっと強めに答えた。嬉しさが伝わってくる。
ユーリアに肩を揉んでもらう。報告を続けてもらう。
ゆっくりとした時間を過ごした。
「ご主人様」
「うん?」
うとうとしかけたところで呼ばれて、目を開ける。
懐が光ってるのが見えた。
DORECAだ。取り出すと、それが一段と光って――カードの色を変えた。
黄金から、白金へ。
「へえ……メニューオープン」
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アキト
種別:プラチナカード
魔力値:6,721,386
アイテム作成数:61,343
奴隷数:3
領民:5000
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ステータスを確認して、すぐにわかった。
新しく「領民」ってのが加わって、それが5000人になった。
それでプラチナカードにレベルアップした、って所だ。
「リーシャさんとミラ」
つぶやくユーリア、おれは頷く。
どうやら、おれがいないところで、奴隷達が働いてくれたようだ。
「ユーリア」
「はい」
「二人をねぎらう方法を考えろ」
「……はいっ」
――魔力を500,000チャージしました。
命令されたユーリアは、珍しく魔力をチャージしてくれた。
まったく、良い奴隷をもったもんだ、おれは。




