一心同体
ドラゴンをぶっ倒した後、遠くからマイヤ達が向かってくるのが見えた。
若い女が百人くらいの武装集団、半数は剣と槍で武装して、半数が物資を積み込んだ荷台を引いてる。何人かがおれが作った移動式ニートカを引いてる。
おれの部下、ある意味親衛隊的な連中だ。
彼女らはある程度近づいてきたところで全員が止まって、集団のリーダーであるマイヤだけおれのところにやってきた。
「アキト」
「おう、久しぶりだな」
「これを殺ったのかい、一人で」
マイヤがドラゴンを見ながら言う。
「まあな。こいつの血が必要だったんで」
答えると、マイヤの後ろにいる女達がきゃあきゃあ言い出した。
黄色い声、「すごい」「やっぱり強い」「素敵……」っていうのがちらほら聞こえてくる。
「そっちはどうだ、調子の方は」
「こっちも上々さ。そうだ、例のサルなんだけどさ、あっちこっちでちらほら見かけたから片っ端から倒しといたよ」
「シュレービジュのことか。で」
「アキトの言ったとおり人間に戻ったねえ。そいつらには一番近いあんたが持ってる町を教えといたから、そこに向かってるはずさ」
「そうか、ありがとう」
おれはお礼をいった。
町を発展していくのに住民の数をどんどん増やす必要がある。
手っ取り早い方法の一つに、モンスターになったシュレービジュを倒して、人間に戻してやることだ。
おれは最近てが回らなくなってきたから、それをマイヤ達に頼んでる。
もちろん見かけたらおれも倒すようにはしてる。
「あんたの町の住民、これで何人くらいになったんだい?」
「詳細ははユーリアに任せてるが、まあ3000人は行ったんじゃないかな」
「そうかい」
マイヤは何故か嬉しそうにした。
「なんか嬉しそうだな」
「そりゃあ、あんたが3000人を統治する長になったって事だろ」
「まあそうだ」
「それが嬉しいのさ」
そう言うものなのか。
「そうだ。あんた、女は好きかい?」
「いきなりなんだ」
「どうだい」
「まあ、男だし?」
それがどうした、とマイヤを見る。
「単刀直入にいうよ。あたいらを孕ませてほしいの」
「あたい……ら?」
マイヤの後ろにいる女達を見た。
「お前と、誰と誰だ?」
「全員さ、当たり前だろ?」
「そんな当たり前おれの常識の中にはない」
一体どういう事なのかと聞いた。
「今はさ、既にある街をもどしたり、サルから人間に戻したりしてるだろ」
「ああ」
「しかし人間ってのは、ちゃんと孕んで子供を産むのが一番自然な増やし方さ」
「そりゃそうだ」
「だからあたいらを孕ませてくれよ」
「一気に跳んだな」
産んで人間を増やすのはわかるけど、おれにやってくれっていう理由がわからない。
「みな」
マイヤは自分の背後にいる女達をあごでしゃくった。
全員がこっちを――おれを見てる。
「見ての通り全員女、中にはまだ乙女って年頃の娘もいる」
「お前もな」
「ありがとう。で、そういう連中がいうのさ。子供を産むなら、強くて格好良くて素敵な男――アキトがいい、ってね」
マイヤがいって、おれは改めて女達を見た。
若い少女達を中心に、おれをまるでアイドルを見るようなあこがれの目で見てる事に気づく。
「そういうことさ」
「なるほど」
「それとね」
「うん?」
「みんなあんたに感謝してるのさ」
「感謝?」
「感謝さ。不思議かい」
「まあ、そっちは心当たりがある」
色々やったしな。必要なものを作ってやったり、衣食住のほとんどを揃えてやったり。
感謝はされてもおかしくないと思ってる。
「だから、さ」
マイヤはウインクしてきた。
「感謝と憧れ、みんなはそれをあんたに抱いてるのさ」
「なるほど」
「だから、あたいらを孕ませてくれよ」
「全員じゃなきゃダメなのか?」
「ああ」
マイヤが頷く、後ろの女達も全員真顔で頷いた。
「だってそうだろ? あたいらはずっと一緒にやってきたんだ。生きるも死ぬも、孕むのも一緒さ」
まだあっちこっち理解しにくい思考パターンだけど、大筋ではわかった。
悪い気もしない。感謝と憧れ、それの両方をいっぺんにこの大人数に向けられた悪い気はしない。
「話はわかった。けど今はだめだ」
「なんでだい」
「いまお前ら全員にうごけなくなってもらわれちゃ困る」
「困る?」
「今のお前らは実質おれの親衛隊みたいなもんだからな」
「……そうかい、それもそうさね」
頷くマイヤ。後ろの女達も残念がりながらも、しょうがないかって顔をして納得する。
「だったら、いつかはそうしてくれるかい?」
「いいぞ、約束する。いつか――」
「――あたいらを全員孕ませる」
「それで一つの町を作ってやる」
いうと、女達が沸いた。
歓声が半数、感動が半数。
おれはますますアイドルになったような気分になったのだった。




