どうぶつの家
リベックの郊外、おれはリーシャと二人で作業していた。
木を植えていた。一本あたり魔力100の木を適当に植え付けた。
おれが魔法陣を出して、リーシャが素材を投入。
すると元の世界の街路樹のような、細くてそこそこ高い木が次々とでてきた。
「ご主人様」
「なんだ」
「この木って、どういう意味があるのですか?」
「わからん」
おれはきっぱり言い放った。
「わ、わからないんですか?」
「ああ、わからん」
「じゃあどうして植えてるんですか?」
驚きつつも手を止めないリーシャ。
「今朝急に、こういう系の基本を思い出したんだ」
「基本ですか」
「ああ」
ゲームだけどな、という言葉を飲み込む。
「この世界は邪神に荒らされ回ってて、大半が荒野になってるだろ」
「はい」
そう言って背後をちらっと見るリーシャ。
そこに広がるのは荒野荒野アンド荒野だ。
どこまでも広がる荒野、とても人がまともに住める様な場所じゃない。
「こういう時って緑を回復させないといけないんだ。最初にやってもいいし、途中からやってもいい。どっちにしろある程度は緑がないと……人が安心して住める環境にはならない」
「そうだったんですか……」
手を動かしつつ、まわりを見回すリーシャ。
「わかります、わたし、何故かここにいると落ち着きます。木が増えていくことで安らぎを感じます」
「……だろうな」
おれは納得した。
金色の髪、尖った耳、整った美貌。
エターナルスレイブという彼女達の種族は、おれの常識からすればエルフいう種族そのものだ。
そしてエルフといえば森に住むのが当たり前。植林中に心が穏やかになっていくのは当然といえば当然だ。
木を植え続ける。
魔法陣を出して、リーシャが完成させる。魔法陣を出して、リーシャが完成させる。
流れ作業を続けた。
「リーシャ」
「はい、なんでしょうか」
「等間隔に植えないように気を配っててくれ、もし等間隔になったら適当に引っこ抜いて位置をずらしてくれ。その方が林とか、森とかそういうのになる」
「わかりました!」
リーシャは奴隷カードを見せて頷いた。
そのまま植え続けて、太陽が真上――昼になった頃。
「ちょっと休むか」
「はい」
頷くリーシャ。おれは二つ分のプシニーを作って、片方を彼女に渡した。
「ほれ、昼飯だ」
「ご主人様もそれですか?」
「ああ、とりあえずの腹ごしらえだ」
おれは植えたばかりの木の下の行って、そこに座った。
リーシャは自分のプシニーとおれのプシニーを交互に見比べて。
――魔力を5,000チャージしました。
ん? 魔力チャージ?
今のでか? なんでだ。
「リーシャ」
「はい」
「魔力が五千増えた、何でだ?」
「えっ……あっ」
リーシャはポッ、と頬を染めた。
「ご主人様と同じものだったから」
「なるほど、おそろいだったから、ってことか」
「はい……」
「そうか。そこに座って休憩しろ」
「はい!」
おれとリーシャは休憩した。
植えたばかりの木の下、射しこむ日差しの中で昼飯を食べた。
プシニーはやっぱりまずかった。労働の後で何とかなると思ったけど、どうにもならなかった。
積極的なまずさじゃない、まったく味がしないというどうしようもないまずさだから余計に堪える。
ま、腹は膨らむから、ガマンしよう。
おれはすぐに食べた。もそもそと食べてるリーシャを見た。
「あっ」
リーシャは声を上げた。
とこからともなく飛んできた鳥が彼女の肩に止まった。
それは絵になった。
木の下のエルフ、その肩に止まる小鳥。
絵になる光景だった。
「お、また来た」
今度は地面にぴょんぴょんと跳ねながらやってきた白い毛玉。
「ウサギさん――ウサギですご主人様」
「ああ」
そのウサギもリーシャのまわりに止まった。
きょろ、きょろとした様子で首をかしげてリーシャを見あげた。
それをきっかけに、次々と小動物が集まってきた。
今までどこにいたのか、林に引かれたのか……それともリーシャに引かれたのか。
リスやタヌキなど、蝶々とかも飛んできた。
まわりに集まった動物たちを見て、リーシャは穏やかな、女神のような表情になる。
「かわいぃ……」
「こういうの好きか?」
「はい」
「そうか。じゃあ草、っていうか芝生も作っとかないとな。木は植えたけど、下はまだ岩場のままだ」
「そういえば……」
「手伝えリーシャ。こいつらの住むところを作るぞ」
腹ごしらえもすんで、おれ達は植林を再開させた。
木を植えて、芝生も作って。
「リーシャ、行くぞ」
「はい!」
湖がなかったから、リーシャを取り込んだ火のエターナルスレイブ改で地面をたたきつけ、でっかい穴を作ってそこに水がたまって湖になるようにした。
日が暮れる頃には、東京ドーム三つ分くらいの広さの森ができた。
森と荒野の境目に立って、それを見つめる。
あれからも次々と動物が集まってきた。
動物はまずリーシャのところにやってきてから森の中に入っていった。まるで、エルフのリーシャに吸い寄せられるかのように。
それを繰り返して、やがて、森が「生きて」来た。
葉擦れとか動物たちの音が混ざり合って、生きてる森の音になった。
それを見つめながら、リーシャに話しかける。
「リーシャ」
「はい、ご主人様」
「よくやった。お前のおかげだ。おれはこの瞬間、一番世界を再生している気分になってる」
「……」
目を見開き、驚くリーシャ。
そんな彼女に同じ言葉を繰り返す。
「お前のおかげだ、ありがとう」
――魔力を50,000チャージしました。
「もったいないお言葉です、ご主人様」
リーシャは感激した。
「また暇を見つけて、森を作るぞ」
「はい!」
リーシャは満面の笑顔で、大きく頷くのだった。




