サミット
昼間、町の中を散歩した。
一息ついたから、とりあえずの散歩だ。
「おばちゃん、これください」
「はい、100万エンだよ」
「はい、これ!」
優しそうなおばあちゃんと、元気な男の子の声が聞こえた。
いくつかの品物を並べた店のようなところで、男の子が100エン玉をおばちゃんに渡して、品物を受け取った。
「やあ」
おれは店に近づいていって、二人に話しかけた。
「おや、領主様じゃないか」
「こんにちは! 領主様」
二人はおれを見て、にこやかな笑顔を浮かべた。
おれは二人の手元を、交換した金と品物を交互に見比べる。
「お金が使われるようになったのか」
「はい、領主様が作って下さったお金、使わせてもらってます」
「すっごい便利です領主様。こんな風にちょっとものを買うときってお金があってすごく便利です。ありがとうございます領主様」
「大きい額の買い物をする時も便利だわね」
おばちゃんは一枚の紙幣を取り出した。一万エン紙幣だ。
「こんな風に、紙がお金になるなんて思いもしなかったよ」
「紙幣はなかったのか? 邪神が暴れる前も」
「ないさ。紙のお金なんてすぐまねできるじゃないか」
偽造のことか。
「でも領主様のお金は――ふぬぬぬぬ」
おばちゃんは一万エン札の両端をもって、思いっきり引っ張った。
ふぬぬぬぬぬ――と顔を真っ赤にして、鼻息荒くして引っ張った。
ただの紙に見える紙幣は破けるところか、伸びもしなかった。
綺麗な長方形のままだ。
「――ふう。ほら、こんな風に壊せないものだから、まねして偽物作ったらすぐにわかっちまう」
「そういうものだから」
「こんなものを作れるなんて、領主様はすごい人さ」
「うん! お父さんもお母さんも領主様すごいっていってた!」
「領主様、これからもよろしく頼むよ」
「よろしくお願いします!」
「ああ」
二人に見送られ、おれは散歩に戻った。
☆
領主の館の中の応接室、おれは訪ねて来たマドウェイと会っていた。
「どうしたんだ今日は、わざわざお前がやってくるなんて」
マドウェイはアキトの町を任せてる。
最初はおれがあの町の町長だったけど、四つの町を束ねる領主になってからは、あの町の町長をマドウェイに譲った。
そのせいでマドウェイも忙しくなった。
何事もなければここまでやってくる暇はないはずだ。
「実はアキトさん、この前例の猿の巣を見つけたんだ」
「猿、シュレービジュか」
「そう、それでみんな総出で倒して、人間に戻した」
「そうか、良かったじゃないか」
町を発展させるためには住民の数が必要で、その数を増やす手段の一つがシュレービジュを倒す事だ。
それは良いことで、なんの問題もないように思えるんだが……マドウェイの顔色が優れない。
「どうした」
「数が問題なんです」
「数? 猿から戻った人間の数か?」
マドウェイが頷く、かなり深刻な様子で。
「……どれくらいだ?」
「400」
「……400も?」
それはビックリだ。
アキトの町の住民は数十人しかない。
施設も備蓄も、その人数分しかない。
そこでいきなり400人が増えたらあらゆる意味でパンクする。
「最初は十何匹しかいなかったんだ。それが倒しても倒しても出てくるんで倒してったら……」
「ああ」
納得した。
シュレービジュという猿は凶暴な外見のくせにものすごく弱い。人間で言うと幼稚園児くらい弱いかもしれない。
その弱さで次から次へと現われたら、そりゃ倒しまくって人間が増えまくるだろうな。
「気がついたら400人になった」
「そうか」
「もうおれ達の手には負えない。アキトさんに実際に来てもらって、色々作ってもらわないと」
「なるほど」
マドウェイがここに来た理由がわかった。
「よし、行こう」
おれはDORECAを握り締めて立ち上がった。
そういうことなら行くしかないだろ。
「ご主人様」
その時、ユーリアが部屋に入ってきた。
すっかりおれの秘書的なポジションに収まってるユーリア。
「どうした」
「カザンの町から、ヴァレリヤが来てる」
「カザンのヴァレリヤ。ああ、前に500人のプシニーを渡したところか」
「はい」
「それがどうした」
「すごく重要な事がある。ご主人様じゃないとだめなことが」
「おれじゃないとダメなのか」
ユーリアが頷く。
おれは考えた。
ユーリアが来てからいくつかの事があって、彼女の事務能力は大分わかってきた。
おれがいないとだめ、おれ本人じゃないとダメってユーリアが言うのならそうなんだろう。
違う町の使者との対面、外交なのだからちゃんとやるしかない。
だがマドウェイの話も結構急を要する話だ。
どうしようかとおれは迷った。
「あっちはリーシャとミラが行けばいい」
「二人が?」
「うん」
ユーリアが頷き、カードを取り出した。
奴隷カード(ノーマル)。
おれのDORECAのサブカード、ノーマルランクのものが作れるカードだ。
「ふたりもこれを持ってる」
「そうか」
確かにそうだ。
おれはマドウェイの方を向いて、いった。
「と言うことだ。リーシャとミラを見つけて、一緒に行ってもらってくれ」
「大丈夫なのか?」
「ああ」
おれは頷く、奴隷カードの事を説明した方がいいのかなと思ったが。
「わかった、アキトさんの言うことなら信じよう」
マドウェイはそう言って、立ち上がって領主の舘から出て行った。
信頼されてるみたいだ。
「よし、ヴァレリヤのところに案内してくれ」
「はい」
ユーリアに案内されて、舘をでて町を突っ切った。
すっかり賑やかになった町だけど、ちょっとざわついてる。
やがて、町の入り口のところまでやってきた。
そこにヴァレリヤがいた。
彼女はおれを見るなり頭を下げてきた。
「ご無沙汰しております、アキト様」
「ああ。あの後どうなった」
「アキト様のおかげで、町は立て直しつつあります」
「それはよかった。で、これは?」
おれはヴァレリヤの横を向いて、聞いた。
そこにカゴがあった。人が担いで、中に人を乗せるカゴ。
誰かがいるのか?
「こちらは我が主、カザンの長、マルタでございます」
「へっ?」
「マルタはリベックの領主たるアキト様に会見を申し込む所存です」
おれは驚き、ヴァレリヤとカゴを交互に見つめた。
町の長が訪ねて来た。
ユーリアを見ると、頷き返された。
確かに、これはおれじゃないとダメだな。




