エターナルスレイブ
この日も朝からてんやわんやだった。
一カ所目、町の外壁修復を終わらせて、ユーリアと一緒に移動する。
「つぎはどこだ」
「南、町のちょっと外」
「外?」
「畑を作りたいから、水場を作ってって要望が」
「水場か、わき水(大)でいいのかな」
「リーシャさんと、ミラさんに素材搬入をたのんである」
「そうか。手際良いな」
ユーリアを褒めてやった。ついでに頭も撫でてやった。
嫌がってないけど、喜ぶそぶりも見られない。
リーシャとミラに比べてあまり喜ばないというのがちょっと気がかりだ。
「その次は?」
「全部の町から、銭湯をもう一つ作ってくれって」
「全部?」
「男と、女」
「……ああ、そういえば分けてなかったっけ」
もともと奴隷を見つめるためだけに作ったから、そこを忘れてた。
「わかった作る。えっとラーバの魂は――」
「マイヤさん達にお願いした」
「本当手際良いな、お前」
もはや喜ばせるとかそう言うのじゃなくて、普通にそう思う様になった。
奴隷だけど超有能な秘書、ユーリアの事をそう思うようになった。
☆
午後、おれは舘の中で休憩していた。
最初の奴隷、リーシャに膝枕をさせてぐたっとしている。
「お疲れ様です、ご主人様」
「本当疲れた……あそこまで東へ西へをやらされるとは」
「ユーリアのせいですか?」
「あいつじゃなかったら多分もっと大変な事になってると思う」
多分ばたばた度合いが今の程度じゃすまない。
リーシャとミラと三人でバタバタやってたのを思い出す。
「お役に立ってるんですね、ユーリア」
「ああ」
リーシャは黙った。
黙ってまま、うちわでゆっくりおれの事を扇ぐ。
太ももが柔らかくて、風が涼しくて、気持ちいい。
奴隷にこうさせてるってのもあって、疲れが急速にとれていく。
気持ちがよくて、うとうとし始めた。
「ご主人さ――」
「しー」
声が聞こえる、どうやらユーリアが入ってきて、リーシャが静かにといった。
「ご主人様休んだばかりなの。なにか急ぎの事?」
リーシャが言った。
大した事じゃないんなら、このまま柔らかいのと涼しいのを楽しんでいたい。
「マイヤさんたちから連絡。町を襲撃する一団があった。迎撃して、全員捕まえた」
「それは、ご主人様に判断を仰がないと」
「リーダーは奴隷を連れてる男で、セイヤっていう名前らしい」
うん? 聖夜?
聖夜がリベックを襲ってきたのか?
薄目を開ける、リーシャが考え込んでて、ユーリアがそれを見守ってる。
聖夜とのつきあいの度合いでいえば、リーシャはおれと同じだ。
どう判断するのか、ちょっと見てみよう。
「ユーリア。あなたがいって、その人達を解放してあげて。ご主人様にすらあえない事で怒り出すかもしれないけど、丁重にお帰り願って」
「いいの? 襲ってきた人だよ」
「その人に関しては、多分ご主人様もそうすると思う」
といって、おれの方を見てきた、
おれは慌てて目をつむった。
うん、リーシャのいうとおりだ。
女神のところを出てから、聖夜と絡むのはこれで四回目だ。
最近はどんどん敵意を剥き出しにしてるから、おれが出て行かないとますます怒りそうだ。
でもって、おれが出て行っても結局解放するだろう。聖夜には別に恨みもなんもないしな。
さすがリーシャ、奴隷歴が一番深いだけあって、よく分かってる。
しばらくして、ユーリアは出て行った。
柔らかいのと涼しいのが続く。
この調子なら、休憩時間中は全部任せていいな。
おれは目を閉じたまま、膝枕の上で眠りに落ちた。
☆
夜、舘の外に出た。
町の住民はほとんど自分の家に戻って、外は人の気配がしない。
何となく歩き出し、町の中を散歩した。
リベック、ちょっと前までマラートの支配下にあった町。
あの時に比べると建物が修理されて新しくなったり、街並みも整然としてる。
おれが直した物もあれば、一から作ったものもある。
おれが作って、おれが領主の、おれの町。
「あははは、お父さんったら」
「いや本当だって、本当にこれ――くらいの大物を仕留めたんだって」
「はいはい。そう言う冗談は獲物をちゃんと持ち帰ってからしてね」
家の中から楽しげな声も聞こえる。家族団らんっぽい声だ。
そこで、住民が楽しげに笑い合ってる。
「いいことだ」
「領主様」
背後から呼び止められた。
中年の男で、あまり見覚えがない顔だ。
「お前は?」
「デニスっていいます」
やっぱり初めて聞く名前だ。
記憶をたどる、あまり働いてるの――魔法陣の素材を集める住民の中でも見かけない気がする。
なんだろう、と思っていると。
「領主様、気をつけた方がいいですよ」
デニスはさも、大事な話がありますよー、って言い方をしてきた。
「気をつける?」
「はい。領主様の奴隷いるじゃないですか。あのちっこいの」
「ユーリアか?」
「はい。あのちっこいのに気をつけた方がいいですよ。あれ、いつか領主様の名前で勝手になんかやらかしますよ」
「根拠は?」
「ありますあります。今日も襲ってきた連中を勝手に解放しちゃったんですよ」
聖夜の事か。
あれは――。
「あれ、領主様がお休みになってる間に勝手に決めたんですよ。そういうの危ないって思うんですよ。あれ、早くなんとかした方がいいですって、放逐するとか」
「そうか」
おれがいうと、デニスはにやにやしだした。
なんというか、してやったり、という感じの顔だ。
見ててあまり気持ちいい顔じゃない。
「忠告ありがとう。これからも何かあったら言ってくれ」
「はい、そうさせ――」
「奴隷以外のことで」
いうと、デニスの動きが止まった。
顔がビシッ、と音を立てて固まったかのようになる。
「ユーリアはおれの奴隷だ」
「いや、しかし」
「裏切る事も、おれが捨てることもあり得ない。奴隷は永遠におれの奴隷だ」
はっきり言い放つと、デニスは「うっ」ってなった。
その、次の瞬間。
――魔力を2,000,000チャージしました。
脳内にいつもの音が聞こえて、背後がパァと光った。
振り向くとそこにユーリアが立っていて、彼女の首輪が光り輝いている。
表情は――見るまでもなかった。




