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領主の兵隊

「大変ですご主人様!」


 舘の中にリーシャが血相を変えて飛び込んできた。


「どうした」


「ヨ、ヨシフさんが!」


「ヨシフ?」


 ヨシフというのは最初の町・アキトと名付けた町の住人の一人だ。


 長い爪の猿、シュレービジュを倒して人間に戻した最初の人間でもある。


 今は向こうの町にいるはずなんだが。


「ヨシフがどうかしたの?」


「と、とにかく来て下さい!」


 慌てるリーシャ、要領を得ない。


 仕方ないから彼女について外にでた。


 舘の前にヨシフが地べたに座ってた。


「ヨシフ!」


 慌てて駆け寄った。


「ああ、アキトさん」


 おれを見上げるヨシフはもうなおったあとだ。


 服はぼろぼろになって血のしみもついてるけど、ケガはもう治ってる。


 隣にミラが立ち、万能薬の瓶を持ってる。


 手当てしたミラを褒めて魔力チャージしてから、改めてヨシフに聞く。


「どうしたんだ一体」


「町が襲われた」


「向こうの町がか? しかしあっちにもイリヤの泉があるだろ? おれが作ったやつ。ならモンスターは襲って来れないんじゃないのか」


「モンスターじゃなかった」


「何?」


「人間だったんだ、襲ってきたのは」


 悔しそうな顔をするヨシフ。


 言われたことは、おれにとってちょっと予想外だった。


     ☆


 始まりの町・アキト。


 奴隷のユーリアを連れて、ヨシフと一緒にそこに戻ってきた。


「アキトさん!」


 町にはいるなり、マドウェイがおれを見つけて駆け寄ってきた。


「マドウェイ、お前は大丈夫なのか?」


「ああ、なんとか」


「他のみんなは?」


「軽いケガを負ったのが何人か」


「そうか」


 おれは改めて町を見た。


 建物のいくつか壊されてて、あっちこっち荒らされたあとが見える。


「被害はこれだけか?」


「いや」


 マドウェイは首を振った。


「食糧が丸ごと奪われた」


「食糧?」


「アキトさんが用意してくれた食糧だ。あれが丸ごと」


「プシニーの事か」


 頷くマドウェイ。


 おれは食糧庫にむかった。


 そこにはいざというためのプシニーが山ほど積み上げられていたはずだが、マドウェイが言ったとおり全部消えてる。


「他に奪われた物は?」


 マドウェイに聞く、首を横に振られた。


「これだけだ」


 おれは眉をひそめた。


 町を襲撃して食糧だけ奪っていく人間の集団……どういう事なんだ?



     ☆


 壊れた建物に全部修復の魔法を掛けてから、ユーリアを連れて町を出た。


 矢印に沿って進む。矢印はラプシャという名前のもので、素材にプシニーを使うものだ。


 それをレーダーに使って、プシニーとそれを奪っていった連中を追いかける。


「ご主人様」


「なんだ?」


「おいかけて、どうするの?」


「……」


 そういえば追いかけてどうするんだろう。


 おれは立ちつくした、目的がはっきりしない。


 奪われたのは100人未満の町が一ヶ月は食いつなぐことができるプシニー。


 それは魔力に換算して一万にも満たない。


 他に何かを奪われたわけじゃないし、死傷者がでた訳でもない。


 向かっていって何をするんだ、と、自分でも今更ながらに気づいた。


「決めてなかったの?」


「……ああ」


 苦笑いして、ユーリアに聞く。


「お前だったらどうした?」


「プシニーをまた作って、防衛用のニートカ(砲台)も作って、次からはちゃんと使うようにいう」


「なるほど」


 ユーリアの提案は正しい。プシニー自体消耗品だし、今回もパッと見相手が人間だったからニートカを使う間もなく襲われたという。


 ならば次からは防げるはずで、おれが行く必要は多分ない。


 ないのだが。


「まあ、原因を元から絶った方がいいのは確かだ」


 理由をつけてみた。これはこれでただしいはずだ。


「わかりました」


 ユーリアは静かに納得した。


「それよりいつ戦闘になるかわからない。剣になってもらうぞ」


「わかりました」


 ニートカを使わなかったこともあり、早期に臨戦態勢に入れる様に、おれはユーリアをとりこんだ。


 宝石に触れ彼女を剣にする。


 光のエターナルスレイブ改、それにした瞬間。


(ご主人様、来ます)


「えっ?」


 攻撃を察知できるユーリアの警告。次の瞬間足元に矢が突き刺さった。


 パッと前を見る、敵がこっちに向かってきてるのが見えた。


 頭からすっぽりマントをかぶったのがざっと数えて五十人以上いる。


 そいつらは矢印が指し示す先からやってきた。


 ――先制攻撃。その言葉が頭に浮かんだ。


「なぜだ」


(素材は光る。人間なら警戒する)


「……あ」


 ユーリアの言うとおりだ。


 レーダーにすると言うことは、その狙いであるプシニーが光ると言うこと。


 モンスターならいざ知らず、奪ってきたものがいきなり光り出したら普通の人間は警戒する。


 そこから先制攻撃――向こうにとっての迎撃になるのは当然の話。


「うかつだったな。便利な小技だけど、これからは使いところを考えないとな」


(はい)


「それよりもユーリア、攻撃の先読み、頼むぞ」


(わかりました)


 光の奴隷剣(エターナルスレイブ改)を握り締め、おれは襲ってくる敵を迎撃した。


     ☆


 ビックリした。


 目の前にいる五十人は一人残らず女だった。


 交戦して、倒した女達は全員おれを睨んでいる。


 これは困った、予想の斜め上をいく展開で困った。


「えっと……とりあえずリーダーはいるか?」


 話をしなきゃと思ってそれを聞いた。すると一人の女が名乗り出た。


「あたいがリーダーさ」


 姉御肌っぽい女の人で、マントをとったあとの格好もそんな感じだ。


 一言で言えばきわめてビキニアーマーに近い、そんな格好だ。


「名前は?」


「名前を聞くときは自分からなのるもんじゃないのかい?」


「おれはアキト」


「……マイヤ」


 こっちがあっさり名乗ると思ってなかったのか、マイヤはちょっとふてくされた顔で名乗った。


「それでマイヤ、お前達はなんなんだ? おれの町を襲った集団、って事で良いのか」


「ああ、言い訳はしないよ。やったのはあたいさ。だから責任は全部あたいがとる」


「姉さん!?」


「何をいってるんですか姉さん」


「そうですよ。あれはお姉様がみんなのためを思って――」


 女達が口々に何かを言い出したが、マイヤは一にらみでそれを全部黙らせた。


 言いたい事は山ほどある、だけどマイヤが言うのなら、と全員が渋々に受け入れてるのがわかった。


 それはありがたい、マイヤと話をつければいいってことだから。


「負けた以上あたいはどうなってもいい。その代わりみんなを解放してやってくれないか」


「それよりも理由が聞きたい。おれの町を襲って、食糧を奪っていった理由を」


「理由?」


 マイヤは「はっ」と鼻で笑った。


「あんた、天国かなんかから来たのかい? 今の世の中、食うために決まってるじゃないか」


「食うため」


「そうさ、そうじゃなきゃ誰がこんな危ない事をするもんかい。あの襲撃でね、こっちもけが人をだしたのさ。一人は今でも危ない状況さ」


 町の反撃でケガを負った人間がいるって事か。


「そいつはどこだ」


「なに?」


 マイヤが警戒した様子でおれを睨む。


 おれは携帯してきた万能薬を取り出して、マイヤに掛けてやった。


 おれとの戦闘でおったマイヤのケガが一瞬で治った。


 おなじ万能薬をもう一つ取り出して、ちらつかせる。


「そいつはどこだ」


 同じ言葉を繰り返すと、マイヤも、その他の女達も目に期待の色が浮かぶようになった。


     ☆


 女達のアジドに案内された。重傷者に万能薬を使う。


 仰向けに寝て今にも死にそうだったのが一瞬で治った。


 女達が抱き合って喜びを分かち合う中、おれはマイヤを連れて離れたところで話した。


「他にけが人は?」


「も、もう大丈夫だ。他はみんなかすり傷のようなもんさ……あんたが手加減してくれたから」


「そうか、ならいい。今から薬を作るとなると結構手間でな」


 ここにはおれの命令で動く人間がほとんどいないからな。


「あんた……どういうつもりなんだい」


「別にどうもしない。それよりもう町を襲うのはやめろ。プシニー……あの食糧がほしいのならいくらでもやるから、おれのところに直接取りに来い」


「……本当にどういうつもりなんだい」


 マイヤは警戒している。


「だからどうもしない。もうくったのならわかるだろうが、あれは腹はふくれるがまずい」


「……」


「だからあれはみんなに配ってる、最低限生きてくものとしてな。それで良いのならいくらでもやる。その代わり強奪――双方にとってけが人を出すやり方はやめろってことだ」


「……本当にもらえるのかい。見ての通り、あたいらはこの大所帯だよ」


 マイヤがいう。


 いつの間にか女達が集まってきた。全員が固唾をのんでおれとマイヤのやりとりを見守っている。


「ああ」


 はっきりと頷く。そこでようやくマイヤの目から敵対心が消えた。


「いつでもあの町に取りに来い。マドウェイにはおれから伝えとく」


 といって、おれは立ち去ろうとした。


 これで話は一段落、そう思ったのだ。


「ま、待ちな」


 呼び止められて、振り向く。


「どうした」


「あの町は襲ったんだ、遺恨が残ってるはずさ」


「なるほど」


 そうかもしれない。おれは実際に痛い思いをしてないから気にしてないけど、マドウェイ達は気にするのかもな。


「そ、それにただで恵んでもらうのも悪い気がする」


「じゃあどうするんだ?」


「そ、それは……」


 マイヤはそれでいったん言葉を切って、辺りを見回した。


 女達はマイヤに向かって頷く。


「あんたのために働く。その見返りとしてなら」


「働く?」


「負けたあとでこういうのもなんだが、あたいらはそこそこ腕に自信があるんだ。用心棒とか兵隊とか、そう言うので働けるはずだ」


「……」


 なんか。


「律儀な性格?」


「――っ」


 マイヤは顔を真っ赤にさせて、文字では表現できないうめき声を上げた。


 それがちょっと、ギャップで可愛かった。


 おれはクスッと笑って、答える。


「いいだろう。おれのために働け、食は保証してやる。その代わりちゃんと働けよ」「あ、ああ」


 マイヤは目を輝かせた。まわりの女からも小さいながら歓声が上がった。


 こうして、おれは兵隊を持つようになった。

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