奴隷造幣局
次の朝起きると、さらに色々届けられてきた。
「おはようございます、アキトさん」
今度はゲラシムだ。彼はマガタンからの物を届けてきた。
積み上げられた物資はかなりの量で、それを運んで来たマガタンの住民達はくたびれてる。
「これってまさか」
「はい、皆さんと一緒で、マガタンからの税の代わりです。是非受け取って下さい」
「わかった。リーシャ、ミラ、ユーリア。これを倉庫に運んでくれ」
三人の奴隷に命令して、物資をはこばせた。
昨夜のうちに作った倉庫代わりの木の家に、奴隷達が物資を運んでいく。
「ありがとうございますアキトさん」
「それはいいんだが。これをマガタンからみんなで運んで来たのか」
「はい」
「……大変だっただろ」
「いえ、アキトさんのおかげでみんな助けられましたから」
「……そうか」
おれは考えた。
税を受け取るのはいい、領主となった以上、それは別にいい。
だが、今のままじゃあまりにも非効率だ。
「なあゲラシム」
「はい、なんでしょう」
「お金はどうなってる」
「お金、ですか」
「そう、この世界の貨幣の事だ」
「えっと……そうですね」
ゲラシムは少し考えて、言った。
「実際、使われてないですね。昔の銀貨とか銀貨とかがありますけど、邪神に世界を荒らされて、みんながその日を生きるのに必死になった辺りからつかわれなくなりました」
「やっぱりそうか」
なんとなく気になってはいた。この世界にやってきてから、一度も金の話になったことがないことに。
昨日からの流れもそうだ。
税といいながら現物支給でやる、取引が物々交換のところまで逆戻りしてることに。
女神から言われた世界再生。それを果たすためにはお金の問題をなんとかしなきゃならないだろう。
それともう一つ――こっちはまた今度だ。
☆
ゲラシムを返したあと、DORECAをもってメニューを開いた。
お金を作ろう、貨幣を造ろう。
そう思ってゴールドカードになってから大分増えた作成可能なアイテムをチェックする。
「ああ、あるな」
作れる物の中に紙幣と硬貨がある。
硬貨は六種類ある、それぞれ1、5、10、50、100、500だ。
紙幣は三種類、1000と5000、それと10000だ。
最初は一気に作れる数かと思ったが、全部見て違う事に気づく。
多分貨幣としての種類だ。日本円と同じパターンなのですぐに気づいた。
それぞれの必要アイテムも確認する。
「……これ、二重の意味で偽造難しいな」
おれは苦笑いした。
☆
紙幣の魔法陣、素材の矢印が指し示す方向に向かっていった。
一緒に来ているのはユーリア。リーシャとミラは大量に作った硬貨の魔法陣のため、鉄鉱石を集めに回ってる。
「ご主人様」
「うん?」
「ご主人様、ちょっと緊張してる」
斜め後ろからおれを見上げながら、ユーリアが言った。
「そうか?」
「うん、結構緊張してる。それに、薬がいっぱい」
ユーリアの言うとおり、おれはかなりの数の万能薬をもって来てる。
おそらく、今までで一番多く持ち出した。
「今から取りに行く材料って、何?」
「それはな――」
言いかけた直後それが見えた。
荒廃した大地に寝そべっている巨体、遠目には小山に見えてしまう、褐色の肌の生き物。
「あれだ」
「――っ、ドラゴン」
ユーリアが息を飲んだ。
そう、ドラゴン。
紙幣の必要材料の一つに「ドラゴンの血」があった。
なんで紙幣にドラゴンの血なのはわからないけど、作る上での難易度が跳ね上がったのは確かだ。
ともかく、必要なら討伐しないとな、ドラゴン。
「いくぞ、ユーリア」
「……うん」
ユーリアの声が固かった。よく見ると表情はほとんど変わらないけど脂汗を流してる。
ドラゴンが怖いんだろう。
「ユーリア」
「なに」
「安心してついて来い」
「……」
ユーリアは目を見開く。
おれはエターナルスレイブ改についてる白の宝石に触れた。
首輪を作ったついでに、リーシャとミラの時と同じように、奴隷の誓約を一緒に作ったのだ。
ユーリアを取り込んで、エターナルスレイブ改は白い光を放つ刀身になった。
リーシャともミラとも違う。刀身の形は取り込む前のままで、白い光を放っているだけ。
何か能力があるんだろうか、そう思いながら魂で繋がったユーリアとエターナルスレイブ改を持って、ドラゴンに向かっていく。
「グルッ?」
ドラゴンがこっちに気づいて、体をおこした。
徐々に顔が険しくなっていく、見るからに怒り顔になっていく。
「グオオオオオオオオオ!」
天を仰ぎ、咆哮する。
戦闘開始の合図になった。
(ドラゴンの魔力が高まってる)
ユーリアが言った直後、ドラゴンの胸が大きく膨らみ上がって、口から炎をはいた。
さきに言われたから、おれは横っ飛びしてかわした。
「よくやったユーリア」
(……はい)
「あれを感じ取れるのか」
(できます)
静かに、しかしはっきり言い放つユーリア。
「よし、なら全力でレーダーをやれ」
(――)
言った直後にユーリアから何かが流れてきた。
言葉じゃない、もっとダイレクトっぽい警告的な何かが頭の中に響いた。
直後、またドラゴンが炎を吹く動作に入った。
実際の時間にすると、警告から予備動作まで一秒ある。
だから、余裕で避けられた。
「いいぞ、その調子だ」
(はい)
ユーリアレーダーでドラゴンの攻撃をことごとく避けた。
避けて、攻撃する。
ユーリアを取り込んだエターナルスレイブ改は通常の時とほとんど変わらない攻撃力だ。
リーシャとミラは純粋に火力が上がった、属性もついた。
ユーリアの場合、超高性能のレーダーがついた感じだ。
火力は上がらない、その変わり相手の攻撃も喰らわない。
避けて、斬る。
避けて、斬る。
避けて、斬る。
硬いドラゴンの体を切り刻んで行った。
「大量に持ってきた万能薬が無駄になったな」
(申し訳ありません)
「褒めたんだ」
(……ありがとうございます)
ユーリアが嬉しそうなのが伝わってきた。
そんなユーリアと一緒に、ドラゴンと戦い続けた。
☆
ドラゴンの死体を引きずって、リベックの町に戻ってきた。
「あれってドラゴンなのか」
「まさか……本物?」
「領主様が一人で殺ってきたらしいぞ」
「すげえ……」
まわりががやがやする中、死体を引きずって魔法陣のところに戻ってくる。
魔法陣は既に他の素材が投入されて、あとはドラゴンの血を待つだけになった。
エターナルスレイブ改でドラゴンの死体をさばいて、ドラゴンの血を魔法陣に流し込む。
素材が揃って、魔力の光が物を完成させる。
そこに現われたのは札束。印刷された模様が淡く光る、魔力を帯びた札束。
――おおおおおおお!。
集まってきた町の人から歓声があがる。
DORECAで作る紙幣、ドラゴンを倒せないと作れない紙幣。
二重の意味で偽造の難しい、この世界の新しい貨幣ができた瞬間だった。




