三人目
リベックの町、黄金屋敷の跡地。
そこで、おれは奴隷の二人と家を作っていた。
「メニューオープン。まずは木の家だ」
「アブノイ草とブッシノ石はわたしが」
「じゃあわたしは木片を!」
早速駆け出す二人。意気込んでるのは、早く首輪を取り戻したいからなのかもしれない。
「待て待て」
二人を呼び止めつつ、更に地面に魔法陣を二つ作る。
一つは『二階建ての家』、もう一つはゴールドカードになって解禁された『小さな舘』だ。
『二階建ての家』は木の家を素材に、『小さな舘』は二階建ての家を素材に作る。
「わかりました、一緒に集めます」
「お待ち下さい!」
二人はそう言ってかけ出していった。
それを見送って、メニューを確認する。
--------------------------
アキト
種別:ゴールドカード
魔力値:498,879
アイテム作成数:4,812
奴隷数:2
--------------------------
魔力はまだ大分残ってる。黄金屋敷を破壊してもまだ大分残ってる。
これで色々作れる。ゴールドカードになって解禁した事も含めて色々できる。
まずは乗り物を色々作れるようになったから、四つの町をつなぐ交通網を整備しよう。
住民が一気に増えたから、食料も増産しよう。ちなみに100個まとめての生産ができるようになったけど、消費魔力は150と、1個ずつ作ったときの1.5倍だ。
さすがに誤差じゃすまない差になった、次のランクで1000個まとめてが解禁されて、魔力消費が倍の2000になってもちっとも驚かない。
それから町の拡張とか、住民を増やす事とか。
「領主様ー」
声が思考に割り込んできた。
二十代後半くらいの女、リベックの住人の一人がやってきた。
「領主様、男衆が狩りに行くけど武器が足りないって言ってるんだけど、なんとかしてもらえないかね。20人分くらい足りないんだ」
「わかった、これが終わったら作りに行く」
女はお礼を言って去っていった。
またやる事が増えた。
えっと、やらなきゃいけない事は全部でどれくらいだ?
ちょっとばっかり混乱してきた。
混乱してるところに、リーシャとミラが戻ってきた。
二人は集めてきた素材をそれぞれの魔法陣に入れて、また飛び出していく。
「……非効率的だな」
『小さな舘』の素材が全部揃った(二階建ての家以外)のに、木の家すらできていないのをみて、おれはそうつぶやいたのだった。
おれもバタバタ、二人もバタバタしてた。
☆
「初めまして、カザンの長たるマルタの名代、ヴァレリヤと申します」
出来たての舘の中、客を接待する応接間。
そこに一人の女と向き合っていた。
女は落ち着いた感じのする、才媛風の美女だ。それがおれの前に立ち、頭を下げている。
「ああ、おれはアキト」
「存じ上げております。四つの町を統べる今もっとも勢いのある領主様。噂はカザンにも届いております」
「そうか」
カザンってのは地名、もしくは町の名前か?
となるとマルタってのはそこの長で、目の前のヴァレリヤって女はその部下ってことか。
最初はただの客かと思いきや……これはもしかして外交の席か?
別のところの領主の使者が領主であるおれに会いに来た。
……なんて事だ、普通に外交じゃないか。
色々バタバタしすぎてて、それすらわかってなかった。
頭の中で現状と心の整理をしてから、改めて彼女に聞いた。
「で、そのヴァレリヤがおれになんの用だ」
「まずは、いきなりの訪問にも快く応じて下さって、ありがとうございます」
また頭を下げてきた。別に断る理由がなかっただけなんだが。
「ここにくるまで町の様子を見させてもらいました。以前とはまるで違う、活気に満ちた町でございます。まるで生まれ変わったかのよう」
「前はそんなにひどかったのか?」
「ええ、皆が……そう、息を潜めて生きているかのような、辛気くさい町でした」
マラートの圧政のせいだな。
「建物も新しくなっていて、人々は豊かになったように思えます。この荒廃した世界で屈指の豊かさかと」
言いすぎじゃないのか? さすがにこれで屈指の豊かさはないと思うが。
そのあともヴァレリヤは褒め続けた。
町がいかに豊かだと、力説を続けた。
「これもひとえに、アキト様のお力あってのことかと」
来たか。とおれは思った。
「そんなアキト様に、お願いしたいことがあり、参上いたしました」
「……なんだ、願いって」
「図々しいお願いかとはおもいますか……」
もったいぶられる、思わずごくっと生唾を飲む。
「食料を……融通していただけないかと」
「……うん?」
肩すかしを喰らったような気分だ。
どんな無理難題を突きつけられるのかと思えば、食料か。
まっ、食料くらいなら。
クソまずいけど腹だけはふくれてカロリーになるプシニーを山ほど分ければ。
「この荒廃した世の中で、もっとも価値のある食料の無心など厚かましいかとは思いますが。なにとぞ……なにとぞっ」
うん?
ヴァレリヤは結構切羽詰まった表情をしてる。
そんなになのか?
いやでも、そうなのか。
異世界に転移してきてからの事を思い出す。
最初の町、ビースク、マガタン、そしてここリベック。
おれが関わった町はいつも食料不足にあえいでた気がする。
というか滅びかけた世界だし、世界の大半が荒野だ。
普通に……食糧不足が蔓延してるんだ。
そうか。
「わかった」
「――では!」
「そっちは住民どれくらいだ?」
「約500です」
「わかった。当面足りる分を渡す」
500人掛ける三食掛ける一ヶ月くらいで丁度いい量かな。
となると45000か。
最高の効率100個で生産するので、消費魔力は67500。
まあ、大した量じゃない。
「本当にありがとうございます! アキト様は我らの救世主です!」
ヴァレリヤに頭を下げられた。
まあでも、食はな。
衣食住の中で、多分一番優先順位が高いところだろうな。
「ところで……小耳に挟んだのですが、アキト様はエターナルスレイブを二人も侍らしているとか」
「うん? ああそうだ。それがどうした」
「もしよろしければ、一人連れてきたのですが……お受け取りください」
「一人って、エターナルスレイブか?」
「はい。入って」
部屋の外に向かって呼びかけた。
ドアが開く、全身をマントですっぽりおおった子供が入ってくる。
子供は金髪に尖った耳と、エルフっぽい見た目の、エターナルスレイブだった。
「よろしければお受け取り下さい」
ヴァレリヤがまた頭を下げた。
受け取ってほしい、と言うのがひしひし伝わってきた。
可愛いエルフ、更に援助の対価。
断る理由はどこにもない。
「わかった、もらう」
「ありがとうございます!」
瞬間、DORECAが光る。
メニュー欄の中の奴隷が3になった。




