領主様
リベックの黄金屋敷。
会議室のような部屋に、マドウェイ、アガフォン、ゲラシムの三人が集まっていた。
その三人におれを加えた四人で、円卓を囲んで座っている。
四人に、リーシャとミラが羊皮紙を配って回る。
びっしり文字が書き込まれた羊皮紙をもらって、三人はほとんど見もしないでサインをした。
「おいおい、契約なんだぞ。内容は見なくていいのか」
「アキトさんが作ったものなんだ」
この中でおれと一番つきあいが長いマドウェイが答えた。
「だったら問題ない」
何がだったらなのかと突っ込もうとしたけど、アガフォンもゲラシムも同じように言ってきた。
「おれも同じ意見だ、アキトさんがおれ達を騙すつもりならとっくにやってる」
「ですよね。こんなまわりくどいことはしてないはずです」
そう話すふたり、腕を組んで目をとじてうんうんと頷くマドウェイ。
ちょっとビックリする位の信頼だ。
「さあ、あとはアキトさんだけですよ」
ゲラシムが言って、他の二人もおれを見つめた。
おれにもサインしろ、ってことだ。
手元の羊皮紙を見て、そこにサインをする。
DORECAで作った羊皮紙が同時に光った。
これで契約完了。おれを領主にした、四つの町の共同体ができあがった瞬間だ。
☆
黄金屋敷をでて、それを見上げた。
おれの横にリーシャがやってきた。
「ご主人様、確認してきました。中にはもう誰もいません」
「そうか」
「全員外に出ろなんて、何かをはじめるんですか」
「ああ。メニューオープン」
DORECAをもって、目の前にメニューを出した。
作成リストの中にある、シルバーカードになって増えたヤツを選ぶ。
――解体。
それを選んで、目の前の黄金屋敷を選ぶ。
「おいおい、魔力を50万も使うのかよ」
思わず声が出た、ちょっと呆れてしまった。
解体というのは文字通りものをこわす魔法だ。
基本的に建造物とか道具とか、そういうものは大抵壊せるけど、壊すためには相応の魔力が必要になる。
それをマラートの黄金屋敷にかけようとしたら、消費魔力50万というふざけた数字がでた。
「ご主人様、この建物を直すんですか?」
ミラが聞いてきた。解体を使うのは初めてだから理解してないのだ。
「いや逆だ、これを今から壊すんだ」
「壊すんですか?」
「ああ、こわす。こんなものがここにあったら、町の人々がいい気しないだろう」
この黄金屋敷はマラートの支配の象徴だ。話を聞いた限り、リベックからもビースクからも、「守り料」をとってるところからかなり搾りとって、この黄金屋敷を作ったらしい。
つまり圧政の象徴だ。
「わかりました」
頷くリーシャ。
そこにミラがやってきた。
ミラは満面の笑顔を浮かべて戻ってきた。
「どうしたミラ、いいことでもあったのか?」
「はい! 見て下さいご主人様」
ミラはおれとリーシャにあるものを見せてきた。
「なんだそれは」
「弓の飾りです」
ミラは笑顔のまま言う。
「ちょっといったところの店にあったんですけど、いいなっていったら譲ってくれました。リーシャさんのももらってきました」
そういって、同じものをリーシャに差し出す。
「そだ、その人、ご主人様によろしくって言ってました」
「それは……」
あんまり良くないな、っておれは思った。
「どうしたんですかご主人様」
ミラは理解してないみたいだ。
リーシャはわかったみたいだ。先輩奴隷は眉をひそめて後輩を見る。
「ミラ、あなた何をやったのかわかってないの?」
「え? わ、わたしなにかまずいことした?」
「あなた……それはご主人様のご威光を笠に着てものを強請ったのとおなじよ。この街の人はミラがご主人様のモノだってわかってる、そしていま、ご主人様の言うことに逆らえないわ」
「あっ――」
ミラの顔が青ざめていく。
「ご、ごめんなさい! すぐに返して来ます!」
ミラはパッと駆け出していき、パッと戻ってきた。
「ごめんなさいご主人様! わたし、そうなってしまうって気づかなくて」
「まあ、返したのなら――」
「ミラ、わたし達はご主人様の奴隷なのよ。奴隷がご主人様に迷惑をかけるような事、ご主人様の名を汚すようなこと……あっていいと思ってる?」
リーシャの言葉にミラはますます青ざめた。しまいにはがくがく震えだした。
まるで、明日にも世界の終わりを迎えてしまうかってくらい怯えだした。
「ご、ごめんなさいご主人様! わたし悪気はなかったんです」
ま、ミラの事だし、純粋にいいなといっただけだろうな。それを向こうがこのタイミングだから勝手に配慮しただけの話だ。
それだけの話だろうから、おれは別に気にしなかった。ちゃんとものも返して来たしな。
「べつにいいよ」
「……」
なぜかミラは泣き出しそうな顔をした。
許したはずなのに、なんだその顔だ。
「ご主人様」
リーシャが横から口を出してきた。
「お手を煩わせてすみません。しかしこれほど大きなミスを犯した奴隷ですから、ご主人様から罰をいただけませんか」
罰をいただく。結構すごい言葉だ。
しかしそれをリーシャが言った瞬間、ミラはこくこくこくと大きく頷いた。
お願いしますご主人様、って絶叫が聞こえてくるような反応だ。
これは――なにかした方がいいのか?
でもなあ、奴隷は愛でるのがおれのポリシーだし、痛くするのはいやだな。
「……じゃあその首輪をはずして」
「え? は、はい」
ミラは首輪をはずした。
リーシャと同じもの、宝石がついた首輪だ。たしかこれをあげたときはかなり喜んでたっけ。
「今のミラはこれにふさわしくないから、没収する」
と、あえてキツい台詞を言った。
まあ罰だし、多少キツいくらいの方がいいだろう。
首輪は……まあほとぼりが冷めたら返してやろう。
そう思って、改めて黄金屋敷を解体しようと向き直ったのだが。
――魔力を3000チャージしました。
「はっ?」
唐突な魔力チャージに動きが止まった。
奴隷が喜ぶたびに大量に魔力がDORECAにチャージされる。
聖夜の事もあって、3000というのは間違いなく「喜んでる」からチャージされる量だ。
リーシャとミラを見た。
もしかして、とおもった。
リーシャを見つめて、言った。
「リーシャ、お前も首輪をはずせ」
「えっ?」
「連帯責任だ。後輩が奴隷としてなってないのはお前にも責任がある。罰としてしばらく首輪を没収する」
「はい……」
リーシャは首輪をはずして、おれに差し出した。
――魔力を6000チャージしました。
ミラ以上に魔力がチャージされた。
どうやら、「失敗したから罰を」というのに喜びを感じてるみたいだ。
二人の顔からうっすらとそれを感じる。
エターナルスレイブ、永遠の奴隷。
多分、そういうのが「いい」んだな。
これはこれでおれにも「いい」けど、やり過ぎてわざと失敗されるようにならないように気を付けないとな。
そんな事を思いながら、黄金屋敷に解体の魔法陣をかけた。
黄金屋敷が魔力に包まれて、徐々に解体されていく。
それを見た町の人々が集まってきた。
マラートの暴虐の象徴だったそれの解体を、全員が感動して見つめてる。
やがて、黄金屋敷がなくなって、まっさらな更地になると。
町の人々が一斉にその場で跪き、おれに頭を下げた。
「ありがとうございます、アキト様!」
誰かがそう言ったのを皮切りに、全員が「アキト様」を連呼しだした。
ちょっとだけ、領主になった気分になる。
そして、DORECAが見覚えのある光り方をしだした。




