住民の数
マラートの本拠だった、リベックという名の町。
長らくマラートの武力によって支配されてきたが、それが今終焉を迎えようとしている。
「アキトさん!」
おれの名を呼ぶのはゲラシムだった。
後ろからやってきたそいつは、マガタンの住民を引き連れ、武装した姿で登場した。
「ゲラシム。お前も来てたのか」
「はい!」
「じゃああっちはアガフォンが?」
「そうです。それにアキト……アキトさんのところの人も応援に駆けつけてくれてます」
「え? あそこの人もきたのか」
「はい、どうやらアキトさんを探してビースクに向かったらしいです。それで一緒に」
「そうなのか」
ビックリした。
リベックのあっちこっちから戦闘の音が聞こえてくる。
ビースク、マガタン、……それとアキト(仮)。
三つの町からの襲撃、そして頭であるマラートを失ったことで、リベックは大混乱に陥っていた。
マラートの死が広まって、その手下が完全降伏するまでさほどの時間はかからなかった。
☆
一晩明けて、マラートの屋敷。
金ぴかに光る屋敷の中にある一番立派な部屋、その中におれ達が集まっていた。
おれ、マドウェイ、アガフォン、ゲラシム。
三つの町の代表格の人間がここに集まっていた。
最初にマドウェイが口を開く。
「マラートとやらの部下は全員投降してきた。どうやらそいつはかなり力任せに部下を従えてたみたいで、そいつが死んだのを知って半分がほっとして、もう半分が『だったらおれたちじゃどうしようもない』って言ってた」
次にアガフォンが言ってきた。
「この街・リベックの住民はアキトさんに感謝してる。マラートはこの街でも同じような事をしてるらしく、みんながその暴虐に耐えかねてたらしい。村長はあとでお礼をしたいと言ってきてる」
最後にゲラシムが言った。
「ただ、この先どうするのか、という懸念を抱えているみたいです。町そのものはイリヤの泉があるからモンスターに襲われる事はあまりないけど、ずっと町にこもっているわけにも行かないですしね」
「そりゃそうだ」
「狩りとかもしなきゃな」
「誰かマラートの代わりになる人がいればいいのですけど」
三人は口々にそう言って、チラチラとおれを見た。
つまり……おれにマラートのような事をやれってのか。
「……巡回して護衛をやればいいのか?」
丁度シルバーカードになった時に見つけたものもあって、それを作れば巡回に護衛くらいはいいかなと思った。
が、帰って来た答えは予想の斜め上だった。
「四つの町を治めてくれないか」
どうやら、おれに統治者を求めているみたいだった。
☆
黄金屋敷の中、おれは別の部屋でくつろいでいた。
そばにリーシャとミラ、奴隷の二人を侍らしてくつろいでる。
その二人に現状を、世間話に紛れ込ませて伝えた。
「ご主人様はどうなさるおつもりですか?」
「受けるつもり」
おれはあっさり答えた。
「もともと、いずれは町を広げて最終的に国を作るつもりだったろ?」
言うと、同じ女神のところにいたリーシャが頷いた。
「はい」
「だったら受けるしかないだろ」
「はい、そうですね!」
「じゃあご主人様、えっと……何になるんですか?」
ミラが小首をちょこんと傾げた。
「もう王様を名のっていいと思います!」
「さすがにまだだろ。四つの町の人口を合わせて1000人行くか行かないかくらいだぞ。それで国として王って名乗るのはなあ。せめて1万はほしい」
「そうですか」
「じゃあ早く1万にしましょう!」
「そのうちな」
そう答えて、改めて二人を見た。
金髪に尖った耳のエルフっぽい種族。エターナルスレイブ、おれの奴隷。
おれは二人をねぎらった。
「二人とも、昨日はよくやってくれた」
「もったいないお言葉」
「ご主人様の奴隷ですから、当たり前のことしただけです」
「そうか。だったらこれからもその当たり前の事を続けてくれ」
「はい!」
「わかりました」
満面の笑顔を浮かべる二人。
――魔力を5000チャージしました。
――魔力を5000チャージしました。
おれのためにずっと働け。そんな言葉なのに、二人はあわせて1万も魔力がチャージされたのだった。
☆
四つの町をおれの統治下にする話はあっという間に進んだ。
三つの町はおれが色々作って、直したから、文句を言う人はいなかった。
このリベックという町も、マラートを倒した人間が統治者になるって事で、よくもわるくも受け入れるって事になったようだ。
こうして、おれは四つの町を統べる事になったが。
「急ですけど、もう一つの村を加える事ってできませんか?」
ゲラシムがやってきて、おれに言った。
「もう一つ」
「そうです、このリベックの南東にある小さな村で、住民は20人。イリスの泉もなくて自衛の手段もありませんから、こっちの庇護を求めてきてます」
「なるほど」
おれはすこし考えて、うなずいた。
この際だ。20人増えた所でいっしょだろ。
「わかりました」
頷くゲラシム。
おれは考えた。
20人って言うと、最初にたどりついたあの場所、マドウェイの家を中心に作りあげたあの町と同じ感じかなとおもった。
ならやる事は色々似てくる。
衣食住、全部を最低限整えて、その上で自活出来る様に道具も与える。
やる事は一緒。
せっかくこっちの傘下に入るからには、色々と環境を整備しなきゃと思った。
「そこの代表が今きてるんですが、アキトさん会いますか?」
「会おう」
おれは立ち上がって、ゲラシムと一緒に部屋を出た。
「で、そいつはどんな人間なんだ?」
「若い男です。結構顔が良くて、女性にもてそうな感じがします」
「イケメンか」
「ただ、表情がちょっと……頼みごとをしてきたのに、どことなく高圧的で」
「へえ」
なんか似たようなヤツを知ってるな。
「そうだ、奴隷を一人連れてます。アキトさんが連れてるのと同じ、エターナルスレイブを」
「……へえ」
心当たりが一人しかないぞ。
まさかと思いながらゲラシムについていく。
応接間にやってきて、中に入る。
すると。
「聖夜……」
「お前は――っ」
座っていたが、おれをみてパッと立ち上がる聖夜。
おれと同時期に異世界に召喚され、女神に同じようにエターナルスレイブを一人と、ものを作る能力をもらった男。
しかしものを作るために必要な魔力をチャージする方法が決定的に違って、多分苦戦してるっておれは思ってる。
「なんでお前がここに!」
「それはこっちの台詞だ。聖夜なのか? こっちの傘下に入りたいっていってきたのは」
「お前の? おいまさか」
聖夜は驚愕して、ゲラシムをみた。
「そうですよ。アキトさんはぼくらの盟主。これから四つの町の長になる人です」
「おまえ、何をした」
「別に何も」
説明するのが面倒臭かったから、本題にはいった。
「どうするんだ、聖夜はこっちにつくのか?」
「だれがお前の下につくか!」
予想通りだった。
前回会ったときから、聖夜はおれの事を敵視しはじめてる。
いや元からおれの事を見下していた。
どっちにしろ、おれの下につくような男じゃない。
「いいのですか? あなたのところは――」
「うるさい! そんなのお前には関係ない!」
聖夜はゲラシムを怒鳴った。ゲラシムは眉をひそめた。
「ちっ! こんなところにいられるか。帰るぞ間抜け!」
聖夜はそう言って、自分の奴隷を蹴っ飛ばして、一人でさっさと部屋から出て行ってしまった。
蹴っ飛ばされて頭をぶつけた奴隷はのそのそと立ち上がって、聖夜のあとを追った。
「アキトさん、あれって……?」
「ちょっと色々あってな。まあ気にするな」
「はい……でも」
「でも?」
「あんな人の下だと、向こうの村の20人の住民達がかわいそうです」
「……」
おれは答えなかった。言葉が見つからなかった。
20人の住民か……。
「そういえば、こっちの住民はどれくらいになるんだ?」
「えっと、今日の時点で1037人です。ほとんどがこのリベックの住民で、アキトさんのところの新しい町が一番すくないです」
「そうか」
1037人か。
こっちでも、大分差がついてしまったな。




