ご主人様の見栄
ビースクで大量にプシニーを生産していた。
シルバーカードになって、魔力11消費で10個をまとめて作れるようになって、それをひたすら作った。
ビースクの住民はあっちの町に比べて桁違いで、一個一個作ってたら大変な事になるからな。
今も、おれが片っ端から魔法陣を張って、リーシャとミラが片っ端から素材を放り込むことで何とか生産が追いついている。
「うん?」
「どうしたんですかご主人様」
おれの手が止まる、リーシャが不思議そうに見つめてくる。
「ここの町の名前ってビースクだよな」
「はい、そう聞きました」
「あっちの町は?」
「あっち?」
「ほら、マドウェイたちがいるあっちの町だよ」
「そういえば……なんでしょう」
「わたし知ってる」
ミラが言う。
「知ってるのか?」
「うん、マドウェイとヨシフが相談してるの聞いたの。アキト、って名前にするらしい」
「おれの名前を?」
「素晴しいです」
リーシャは手を合わせて目を輝かせた。
「いやいや目をきらきらさせない。ってかなんでおれの名前にしようとしてるんだ?」
「えっと、ご主人様が一から作った町だから、ご主人様の名前にするのが当たり前だって」
「そうですよね!」
リーシャが強く同調した。
話はわかるが、だからって町に自分の名前がつくのは恥ずかしい。
「……」
恥ずかしいけど、悪い気分ではない。
複雑だ。
「アキトさん」
アガフォンがやってきた。
「どうした」
「ゲラシム……あっ、隣のマガタンっていう町から知りあいが来たんだ。村長に話があるっていってるけど、どうする」
「会おう」
なんだかわからないけど、とりあえずあおうと思った。
アガフォンと一緒に、この街でのおれの家、村長の家にやってきた。
まだ一度も住んでない家の前に一人の男がいた。
若くて、線が細い華奢な男だ。
「ゲラシム、村長のアキトさんを連れてきたぞ」
「あれ? 村長はアガフォンのお父さんだったんじゃ?」
「いろいろあってな、今はこのアキトさんがビースクの村長だ」
「いろいろ、ですか」
「いろいろだ」
それだけでなんか伝わったらしい。
ゲラシムはおれを向いて、真顔でいきなり頭を下げた。
「お願いします、食料を分けて――貸してもらえませんか!」
「食料を? どういうことだ」
「はい、実はここ最近我が町の狩りの成果が思わしくなくて。それで生活がどんどん苦しくなっていって――その上マラートに支払う守り料で……いよいよ立ちゆかなくなって」
「ああ」
なるほど、と頷くおれ。
というか、それって農民一揆のパターンじゃないのか? よくこいつらガマンしてるよな。
普通はもう、マラートとやらに対して反乱を起こしてるところだ。
民衆の反乱って大抵、食えなくなった最後の最後におこるものだからな。
「お願いします!」
ゲラシムがもう一度頭を下げて、強く頼んで来た。
おれの間を難色と捉えたんだろう。
「わかった、食料を分けよう」
「本当ですか!」
「腹が膨らむが味は保証できないものでよければな」
「あれをですか」
プシニーの事をしってるアガフォンがはっとした。
「ああ。その事は任せたアガフォン。こっちは生産を続けるから、お前は必要分を向こうの町に運んでくれ」
「わかった! ……ありがとう」
ゲラシムだけじゃなくて、アガフォンにまで礼を言われた。
☆
次にアガフォンを見たのは、ケガで逃げ帰ってきた姿だった。
町の入り口で騒ぎになってるのを駆けつけると、彼が血まみれになって倒れてるのが見えた。
まわりを町の人が取り囲んでいる。そいつらをかき分けて、真ん中に進む。
「リーシャ!」
「あります!」
リーシャは懐から万能薬を取り出した。最近のことで、彼女達に常にもたせることにしてる。
万能薬を受け取って、アガフォンに使う。
みるみるうちにケガが治っていった。
「「「おおおおお」」」
まわりから歓声と、安堵の声が漏れた。
「こ、これは……?」
アガフォンは起き上がって、自分の手をじっと見つめる。
「それより何があった、なんでケガをして帰って来た」
「そうだ! マラートだ!」
「マラート?」
「ああ。食料をゲラシムの町に運ぶ途中、マラートの部下に襲われたんだ。食料は焼き払われて、おれは何とか逃げてきた」
「マラート……」
「あれから何度かビースクにせめてこようとしたけどお前の作ってくれたニートカで追い返した。それで油断してしまった」
「……」
既に襲ってきてたのか。
まあ、マラートの弟のルキーチってヤツを殺したんだ、何もない方がおかしいか。
「どうしよう」
「マラートが攻め込んで来れないのはいいけど、こっちも町の外に出られないんじゃそのうち町そのものが干上がっちまうぞ」
「なんとかしないと」
「なんとかってどうするんだよ」
町の人達が口々に言い合った。
全員、顔に焦りがある。
「アガフォン」
「な、なんだ」
「倉庫にいって、もう一回プシニーを運び出してこい。ゲラシムのところに運ぶ分をだ」
「だ、だが」
「おれが護衛する」
エターナルスレイブ改を掲げて見せた。
アガフォンははっとして、すぐに動き出した。
☆
夜、ビースクを出た荒野。
プシニーを満載した手押し車(リヤカー的な物)と一緒になって進んだ。
アガフォンほか数人の男がそれを押している。
「で、出た!」
アガフォンの怯える声が聞こえる。
目線を追いかける、そっちから十人くらいの集団がこっちに向かってきてるのが見えた。
集団は何かに乗っている。パッと見二足歩行の何かだが、よく見ると馬のような生き物だ。
二足歩行の馬。それにのってこっちに向かって突進してきた。
「うっひゃああ!」
「また懲りずにやってきたのかあ!」
「燃やせ燃やせ燃やせぇええ」
なんか世紀末な集団だった。
そいつらは馬(?)に乗ってるせいか全員が長い槍を持ってて、一部はたいまつを持ってる。
襲って、焼き払うつもりだ。
「ど、どどど、どうすれば」
一度襲われてるアガフォンがひどくうろたえた様子でおれにきく。
「そのまま進め、何もしなくていい」
「だ、だが」
「そのままだ」
おれはいって、世紀末集団に向かっていった。
――こんな奴らが。
「ご主人様」
「どっちにしますか?」
「跡形もなくもやす。だからリーシャだ」
「わかりました」
エターナルスレイブ改リーシャを取り込む。
――こんな奴らに。
集団の先頭と激突する。
「どけどけどけ、さもなくば轢き殺すぞ」
男はそういった、が最後の言葉を発したとき、体が既に真っ二つになっていた。
交錯した瞬間に、横薙ぎ一閃。
炎の刀身が男を両断した。
「――は?」
驚く男、次の瞬間、泣き別れした上半身と下半身が同時に燃えだした。
「うぎゃあああああぁぁぁ……」
悲鳴、しかし尻すぼみに消える。
一瞬だけ大きかった悲鳴がすぐに炎に包まれて消えていった。
男は灰になった。他の男が馬を引いて、おれを驚愕した顔でじっと見つめる。
「な、なんだおまえ――」
もう一人の男がいう、最後まで言わせなかった。
同じように一刀で切り伏せ、灰にした。
――こんな奴らのくせに。
(ご主人様……おこってらっしゃる?)
剣になっておれと繋がったリーシャが不思議そうにつぶやく。
おれは冷静になろうとした。感情が高ぶりすぎて、それを彼女に悟られないようにした。
さっきのプシニーが焼き払われた……彼女達の魔力がまったくの無駄になったことで怒ってることを知られるのが恥ずかしかった。
心をつとめて冷静に、おれは残った八人を全員跡形もなく燃やし尽くした。
しかし。
――魔力を20000チャージしました。
――魔力を20000チャージしました。
どうやらバレバレだったようだ。




