奴隷の健気
「その……」
「うん?」
リーシャはもじもじして、それから言った。
「ご主人様と一緒に狩りに行きたいです」
「狩りに? ああ、これの事か」
エターナルスレイブ改を掲げて見せた。
リーシャが頷く。
剣になっておれに振るわれたいってことか。
それが望みなのか、いじらしいな。
「いいぞ。じゃあトローイ以外の何かで」
おれは魔法陣のレーダーで探せるモンスターを頭の中で考えた。
トローイは無理だから、ここはシュレービジュでも探すか。
あれは弱い分、数を重ねられる。いわゆる「無双」がやりやすい。
剣にしたリーシャをより多く振るうためには格好の相手だ。
「あの、ご主人様」
「なんだ、今度は」
「わたし、と、トローイでも」
おずおずと話すリーシャ。
怯えてるけど、それでも望むならやりたいってガマンできるって顔だ。
「……」
おれは迷った。
どっちの方がよりリーシャが喜ぶのか迷った。
弱い相手を探して無双するのか、それともさっき彼女が怯えてた相手にあえてつれていくのか。
どっちの方がより喜ぶだろう。
「じゃあ……トローイの方行くか」
「――はい!」
――魔力を5000チャージしました。
正解だったのかな、これ。
そんな事を思いながらミラの方を向く。
「ミラ、お前はここで待ってろ」
「はい!」
ミラは背筋を伸ばして「気をつけ」のポーズをした。
その横に魔法陣を張った。
ニートカを作る魔法陣だ。
素材を指し示す魔法陣、それがトローイを探すレーダーになる。
「いくぞ」
「はい」
リーシャをエターナルスレイブ改に取り込んで、出発した。
☆
地面にトローイの死体が転がっている。
遭遇するなり、問答無用で切り捨てたから。
「怖くないか」
(はい)
聞こえてくるリーシャの声は本当に怖がってないみたいだ。
ちらっとエターナルスレイブ改を見る。
燃え盛る炎の刀身。
恐怖よりも戦意が高まっているようなイメージ。
「……お前」
(はい、なんでしょう)
「出発したときよりも炎が強くなってないか?」
エターナルスレイブ改を掲げた。
今度は目の前でまじまじと観察した。
やっぱり気のせいじゃない。リーシャを取り込んだ炎の刀身は出発直後よりも強く燃えている。
(そうなんでしょうか、わたしにはよく分かりませんが)
「ふむ」
けろっとリーシャが答えた。
何か隠してる様子でもなし、本当にわからないって感じだ。
何がいい?
そんなリーシャを連れて、更にトローイを探して回った。
魔法陣のレーダーがあるから、すぐにまたエンカウントした。
「いくぞ」
(はい!)
トローイに向かって駆け出す。
巨大なモンスターはこっちに気づいて、雄叫びを上げて立ち向かってきた。
人間の数倍――バスケットボールよりも一回り大きい拳で殴りつけてくる。
それをあえて避けず、受け止めず、真っ向から切り結ぶ。
巨人の拳と炎の剣。
衝撃波が辺りを走る。
「はあああああ!」
気合と、魔力を込めた。
柄を握ったまま振り抜く――拳が真ん中から切り裂かれ、腕を縦にさいた。
絶叫を上げるトローイ。そのまま飛びかかって首をはねた。
エターナルスレイブ改を持ったまま着地、炎の刀身が更に燃え盛る、ごうごうと渦巻いている。
(さすがご主人様です)
感動した言葉が聞こえてきた。
その言葉で、おれはある推測をたてた。
それを試したくて、更にトローイを探す。
数分歩いて、エンカウントする。
どう猛な性格のトローイは向こうから襲いかかってきた。
おれは動かない、その場に立ちつくす。
(ご、ご主人様? モンスターが襲ってきます)
怯えるリーシャ、刀身の炎の勢いが弱まる。
トローイが豪腕を振るってくる。
ぶおおおおん、という音が耳をつんざく。
右手でエターナルスレイブ改を握ったまま、魔力を込める。
そして、左手を突き出す。
どぉーん!
轟音が響く、トローイの拳を左手で受け止めた。
みしっ、という音が体の中から響いた。
ずしりとした感触、だが魔力を多めに練り上げたおかげで大した事はない。
それよりも。
(すごい……すごい……すごい……)
リーシャが壊れたラジオのように同じ言葉を繰り返した。
「どうだ?」
(素手でもとめるなんて、さすがご主人様です!)
感動して、興奮気味にいった。
瞬間、炎の刀身が輝きだした。
炎の勢いが大きくなった。
さっき以上に、今日一番に。
炎が、燃え盛っていた。
どうやらおれの事をすごいって感じると勢いがますみたいだ。
可愛いな。
そうでなくても興奮してるのはあきらかだ。
「リーシャ」
(はい)
「もっと行くぞ、ついて来い」
(はい!)
リーシャは大興奮した様子で答えた。
☆
リーシャを奴隷の姿に戻して、一緒に歩いてビースクの街に戻る。
DORECAを持って、メニューを開く。
結局、彼女と一緒に数十体のトローイを倒した結果、得られた魔力は7万位だった。
内訳は戦闘中のあれこれで約2万、終わった後元の姿に戻ったときに「ご苦労」とねぎらったら5万だった。
その内訳がますます健気だから、おれは歩きながら折り紙を折って、メダルを作ってリーシャに渡した。
「ほら、これをやる。今日はよく働いてくれて、ご褒美だ」
「あっ――ありがとうございます!」
――魔力を10000チャージしました。
リーシャは紙のメダルを大事そうに抱えた。
「ちゃんと保管しとけよ。十個集めたら更にご褒美でいいことしてやる」
「はい! ご主人様のためにがんばります!」
そう話すリーシャとゆっくり歩く。
ビースクの町に戻ってくる。
町の人が日常の生活にもどりつつあるビースク。
その中で、ミラが「気をつけ」をしている。
ビースクを出た時とまったく同じところで、同じ格好で「気をつけ」してる。
「ミラ?」
「あっ、ご主人様」
ミラの前に立つと、目をきらきらされた。
何かを期待する目。おれの目にはイヌがしっぽを振ってるように見えた。
すぐにわかった。
ここしばらくの事で、奴隷達が何を求めてるのか理解した。
「言いつけ通りよく待ってたな、楽にしていいぞ」
「はい!」
――魔力が100000チャージされました。
ミラは目を輝かせて、リーシャは羨ましそうな目で後輩奴隷を見つめていた。




