まちの武力
さて、マラートからこの街を守ると言ったが、具体的にどうしたもんかな。
「メニューオープン」
作成リストの中から魔法陣を作る。リーシャとミラが早速動き出して、あっちこっちから素材を集めてくる。
そうしてできあがっていくのが鉄の剣と、弓と矢だ。
「こういうものならすぐにできるんだけど……」
アガフォン達を見た。
出来たてほやほやの武器を見ても、町の人々は浮かない顔をしてる。
これじゃ武力として足りない、と言ってる様なものだ。
となるともっと何かがいるな。
もう一回メニューを開いて、シルバーカードになってから解禁されたものを見た。
その中に「ニートカ」というものがあった。
試しに触ってみた。横に動画のようなものが流れ出した。
「お、新しい機能か?」
動画を見た。どうやらニートカというのは投石機みたいなものだ。
ピッチングマシーンの様なもので、高速で石を投げ出す機械。
投げ出された石は目標の岩を粉砕している。
サンプル動画(?)をみて、これがいいと思った。
地面に魔法陣を設置して、素材を確認する。
「何々、トローイの腕一個に――」
「トローイの腕だって?」
アガフォンが声を上げた、他の町民達もザワザワし出した。
何人かは血相を変えるほど怯えている。
「そのトローイってなんだ?」
「巨人のようなモンスターだ。体は普通の人間の三倍、腕力は軽く見積もっても十倍ある」
「なるほど、その腕力を使うから素材がトローイの腕か」
「あれは……危険すぎる。マラートの傘下に入ったのも、マラートの私兵がトローイから守ってくれるからだ」
「へえ」
みかじめ料取るだけじゃなくて、ちゃんとある程度は働いてたんだ。
「とにかくトローイは危険すぎる、我々ではどうにもならない」
「そうか」
おれは魔法陣、その矢印の先をみた。
☆
荒野を奴隷の二人と歩いた。
もちろん、矢印に沿ってトローイを探しに行ってる。
どうやらトローイはかなりの強敵だ。今までこういう時は奴隷の二人をおいてくるんだけど、今回は連れてきた。
もちろん、エターナルスレイブ改として使うためだ。
「トローイって、実際どれくらい強いのかな」
背後でミラがリーシャに聞いた。世間話のトーンだ。
「大分強いみたいだけど」
「だけど?」
「ご主人様が勝つに決まってるわ」
おいおい、無条件でおれが勝つって言い切るのかよ。
「それはそうだけど」
ミラまでそれに同調した。
「だったら問題ないでしょ」
「うーん、そうかも」
リーシャとミラの世間話を聞き流しつつ、先に進む。
「ご主人様、あれ」
リーシャが真剣なトーンで言った。
魔法陣の矢印の先にそれがいた。
トローイ。
人間三人分……ざっと見積もって身長五メートルはあるだろうという巨人。
緑の体で、腰布を巻いている。
体全体が筋肉そのもので、いかにも強そうって感じだ。
「ねえご主人様、あのまわりに倒れてるのって……」
ミラが怯えた様子で言う。
「ああ、人間だな」
おれは頷いた。
トローイのまわりに何人かの人間が倒れていた。
びくりとも動かなかったり、体がバラバラになってたり。
全員、息がないのは確かだ。
「二十人くらいはいるわ」
「つまりそういう相手だってことだ」
「ご主人様……」
ミラが怯える、おれの服の裾を掴んでくる。
「リーシャ、ミラ」
「はい」
「な、なんですか」
「どっちがより怖いの我慢出来る?」
おれの質問に二人は顔を見合わせて、きょとんとなった。
おれは二人が答えるのをまった。
しばらくして、リーシャがおずおず手をあげて言う。
「怖いだけなら……わたし、我慢出来ると思います」
「そうか、じゃあガマンしてろ」
おれはそう言って、エターナルスレイブ改を抜きはなって、青い方の宝石に触れた。
我慢出来るリーシャを残して、ミラを剣にして踏み込んでいく。
「あっ……」
リーシャの口から声が漏れる。
複雑そうな感情が混じった声だが、その中に「羨ましい」のが確実にあるのを聞き取った。
「ガマンしてろ、後で代わりに何かをしてやる」
「――はい!」
リーシャは喜んで、大きく頷いた。
おれはミラのエターナルスレイブ改を持ったままトローイに向かっていく。
向こうもこっちに気づいた、ドスン、ドスンと大地を踏みならしてこっちに向かってくる。
間近で改めて見ると迫力があるな。
(こ、こわい……)
剣になってもミラはちょっと怯えていた。
何も言わずに、代わりに柄を握る手に力を込めてやる。
(あっ……)
それだけで安心したのが伝わってきた。
さて。
「グオオオオオ!!!」
雄叫びと共にトローイが腕を振り下ろしてきた。
エターナルスレイブ改を水平に頭の上に掲げて、受け止める。
「むっ」
体にずしりきた。
衝撃が体を通って地面に突き抜ける。
両足を中心に、地面が放射線状にひび割れた。
「さすがにパワーはすごいな」
改めて倒れた人間どもを見る。
中には一部、ペチャンコになって原型を留めてないのもいる。
さすがのパワーだ。人間が豆腐やバターをつぶそうとしたってあそこまで綺麗にはつぶれない。
「グオオオオオオオ!!!」
トローイは両腕を振り上げた。
手を合わせたハンマーパンチを振り下ろす。片手がダメなら両手で、ってことだ。
単純、それ故明快。
同時に、それがこいつの限界だと理解した。
魔力をエターナルスレイブ改に込めた。
(あっ……んっ……)
刀身が輝きだす。
ミラを振って真っ向からトローイの腕とぶつかる。
二本の腕が――空高く舞い上がった。
☆
ビースクの町、その外周。
一列に並べられたニートカ10機を、同じく十人の町民が操作していた。
「じゃあ、アキトさん」
アガフォンがおれを見る、おれは頷く。
「てぇ――――!」
号令の直後、ニートカが火を噴いた。
十機のそれから一斉に発射されたこぶし大の石がマト用に作った木の家に一斉に当たり、粉々にした。
「すげええ!」
町民から歓声が上がった。
「これならマラートの連中が来てももう怖くねえぜ」
「いや、トローイでも大丈夫だ」
「ここに人を常駐させようぜ」
皆が盛り上がった。手にした「兵器」に大興奮してるみたいだ。
「これでとりあえず防衛は何とかなるだろ。もう何機か作る予定だ、配置する場所は探しておいてくれ」
「わかりました」
アガフォンが大きく頷く。
アガフォンも、他の町民も。
感謝の目と、また作ってくれるのかという尊敬の目でおれを見た。
それを背に受けて、おれは奴隷達の元に戻った。
「よく働いた、ミラ」
「えへへ」
――魔力を10000チャージしました。
ミラの頭を撫でつつ、リーシャを見る。
「リーシャもよく我慢したな。さっきの約束だ、何かしてやる」
リーシャは驚き、それからはにかむ。
「何をしてほしい?」
言いつけを守ってガマンした奴隷に、何かご褒美を与えたかった。
 




