復興と防御
ビースクの町で、DORECAのシルバーカードを使った。
カードの能力の一つ「修復」を壊れた教会にかけて、奴隷の二人に素材を集めてきたもらった。
そうして元通り――いや元以上に、新品同様に戻った教会を見て、町の人々が歓声をあげた。
「こ、これは?」
驚くアガフォンに答える。
「おれの能力、ちょっとした魔法ってところだ。ものを作ったり、壊れたものを直したりする事ができる魔法だな」
「他のものも直せますか?」
「直せる……片っ端から魔法をかけていく、それに必要な材料は魔法の光が導いてくれるから、お前が指揮をとってみんなにやらせてくれ」
アガフォンは元村長の息子、ここは任せた方がいいと思った。
おれは街中を回って、モンスターに壊されたものに片っ端から修復をかけた。
魔力がごりごり減ったが、まあチャージされるから問題ない。
一通りかけ終わってから、アガフォンに聞く。
「そういえば食べ物はどうしてる。一通り回ってみたけどそう言うものが少ないように感じたが」
「そうなんです……この荒廃した世界、満足に食料を確保するのも難しくて」
「そうか、こういうのもあるんだ」
メニューの中からプニシーを出して、作った。
「これは?」
「食べてみろ」
「はい……うげっ、なんだこれは、ものすごくまずい」
「味はそうだ。腹は?」
「腹? あっ、腹が膨らんで……」
目を見開かせて驚くアガフォン。
「そう言うものだ、味は悪いがとりあえず腹はふくれる。これも大量につくろうか」
「お願いします!」
アガフォンは腰を直角に曲げて頭を下げた。
衣食住。やはり食で一番苦労してるみたいだ。
そこにプシニーの魔法陣を作った。
シルバーカードになって増えたリストの中に消費魔力11の「プシニー×10」がある。
消費魔力一割増で、まとめて作る事ができる。
それを大量に魔法陣にして、後は任せた。
家の修復、そして食料の確保。
魔法陣を出した後はアガフォンの指揮に任せた。
「ご主人様」
「わたし達も手伝った方がいいですか?」
リーシャとミラが聞いてきた。
表情からして手伝いたいらしい。
「適当にどっか手伝ってこい」
「「はい!」」
二人は喜んで手伝いに走った。
おれは動き回る人々を見た。
町の人達は動き回りながらも、おれの前を通るときは会釈したり、目でお礼を言ってきたりする。
ほぼほぼ全員に感謝、それか尊敬の目で見られてる。
悪くない気分だ。
そういうことなら、もっと何か作ってやろう――と思ったその時。
「なんだぁ? これは」
突然聞き慣れない声が聞こえた。
チャラい感じがする男の声、まるでチンピラのような声。
振り向くと、声だけじゃなくて格好までチャラい男がいた。
「ルキーチ様」
様?
アガフォンが下手に出て、ルキーチという男の前にたった。
「おう、なんだこれは? こんなにバタバタして何があったよ」
「じつは……モンスターに襲われて」
「モンスターだぁ? どうなった」
「はい、協力を得てなんとか撃退しました。それで今町の修復を――」
「ならどうでもいいわ」
ルキーチはアガフォンの言葉を途中で遮った。
アガフォンは一瞬不愉快な顔をしたけど、すぐにまだ元の表情に戻った。
というか、なんだあれは。
「あれはね」
横からイーヤが説明してくれた。
「この辺にあるいくつかの町を束ねてるマラートってヤツの弟だ。マラートは……そうだね、十の町を支配してる領主みたいなもんさ」
「なるほど」
領主の弟で、配下の町に来て威張り散らしてるって事か。
イーヤが説明してくれる間も、アガフォンとルキーチの話が続く。
「今日はよう、通達にきたんだ」
「通達、ですか」
「お前はたしか村長の息子だったよな。だったら丁度いい。守り代を一割上げる事になったから、そこんとこよろしくな」
「なっ――」
アガフォンが言葉を失う。集まってきた町の人々がざわざわする。
「守り代って?」
今度はおれの方からイーヤに聞いた。
「マラートの傘下に入る代わりに、月々守り代を払ってるんだ。それで何かあったときに守ってもらう事になってるんだけど……」
だけど、の先は聞かなくてもわかった。
おれが来てなかったら町が全滅してたかもしれない、守り代なんて意味ないだろ、とイーヤが言いたい事を読み取った。
というか、まんまヤクザのみかじめ料じゃないか。
「待ってくださいルキーチ様。これ以上上げられると払えません。そもそもモンスターの襲撃で町の人が減ってるんです。今まで通りでも払えるかどうか……」
「はらえねえのか」
「はい」
「じゃあ代わりに何人か連れて行く。一、二、三……三人だ、若い女で、処女を連れてこい」
わかりやすい要求を突きつけてきたルキーチ。
アガフォンは押し黙った。
拳を強く握って、ぷるぷる震えてる。
腹立つが、逆らえないって感じか。
「お? なんだそれは、文句あんのか?」
「い、いえ」
「だったらさっさとつれて来いや。それか普通に守り代を払うか。どっちでもいいぜ、おれはよお」
「……くっ」
ますます悔しがるアガフォン。
さてどうするかな、介入したいけど、もっと詳しい状況がわからないうちにそれもなあ。
と、おれが悩んでる所に。
「ご主人様、あっちの家が――あれ」
それまでどこから手伝っていたリーシャが戻ってきた。
おれに用があったようだが、場の空気を察して固まった。
「へえ、いいのがいるじゃねえか」
……は?
「お前、名前は」
「え?」
「名前はって聞いてんだ!」
「り、リーシャです、けど」
「リーシャか。よし、お前が来い。お前一人で三人分にしといてやる」
「え、え、え?」
「エターナルリトルなんだろ? だったら力のある男に――」
ルキーチはそう言って、リーシャに手を伸ばした。
おれは無言で進み、エターナルスレイブ改を抜き放つ。
下から切り上げて――ルキーチの腕を飛ばした。
「……はっ?」
何が起きたのかわからないって顔をするルキーチ。
わからせるつもりもない。
返す刀で首をはねる。
魔力を込めたエターナルスレイブ改、ルキーチの首が音もなく跳ねられた。
最後まで何が起ったのかわからないまま、ルキーチの体が崩れ去る。
「ご主人様……」
――魔力を50000チャージしました。
リーシャは喜んだ。
「触られてないな」
「はい! 触られてません!」
「ならいい」
一方で町の人の間に動揺が走った。
ルキーチの死体を見て、動揺が走った。
……カッとなってやった、反省はしてないけどフォローは必要だな。
赤い宝石に触れ、リーシャをエターナルスレイブ改に取り込む。
炎の刀身を振り下ろし、ルキーチの体をさらに刻む。
「やったのはおれだ、最後まで責任持つ」
ざわめきが鎮まる。
ミラが騒ぎを聞きつけてやってきた。エターナルスレイブ改の刀身を水にかえる。
軽い歓声が起った。
「おれがこの街を守って――発展させる」
歓声が爆発的に巻き起こった。
 




