二つ目の町
魔法陣を作った。リーシャとミラが着てるドレスの魔法陣。
もう一着作るのではない、それの素材であるあのサソリにようがある。
魔法陣から出てる矢印が町の外を指す。
「リーシャ、ミラ。ついて来い。念の為に万能薬を多くもっとけ」
「はい」
「とってきます」
ミラがとってくるのを待って、おれ達は出発した。
一行三人、荒野を進む。
「しかし、ただ歩くのはしんどいな」
「おぶりますか? ご主人様」
リーシャが提案する。
提案した彼女もミラもワクワク顔してる。……おぶりたいのか。
「やめとく、様にならん」
「そうですか」
「残念です」
二人は台詞通り、とても残念がった。
だがそこは譲れない。おれも台詞通り、様にならないって思ってるからだ。
ご主人様が奴隷におんぶされるのは見た目が最悪過ぎる。
「神輿とかなら考えないでもないんだが」
「神輿ですか?」
「こんな感じでな」
立ち止まって、地面につま先で簡単な絵を描く。
四人の人間が神輿を担いで、上に一人の人間が乗ってる。
言うまでもなく上に乗ってるのがおれで、これなら多少は格好がつく。
「わああ」
ミラの口からため息が漏れた。目のキラキラが今までで最大級のものになった。
やりたいのか、これ。
「出来るようになったら作ってやる」
「「はい!」」
ミラだけじゃなくてリーシャも大声で答えた。
ま、できる様になったらな。
「でもまあただ歩くってのはしんどいな。乗り物とか作れるようになったらつくっとこ」
「ご主人様ならきっとすぐですよ!」
奴隷の二人と雑談しながら進む。
朝出て、昼を過ぎて、夕方になる。
夕焼けの中町が見える。矢印が指す先に外壁を持った町が。
この世界にやってきてからはじめてみた町である。
「人が住んでるのでしょうか」
「行ってみましょう!」
頷き、奴隷の二人と一緒に向かっていく。
途中で足を止めた。
「助けて! 誰か助けてー」
助けを求める声が聞こえた。
奴隷達とアイコンタクトをかわして、おれは町の中に向かって駆け出したのだった。
☆
ビースク。
住民は約1000人、邪神が倒れた後の世界では最大級の町である。
イリヤの泉に守られ、この荒廃した世界の中で、苦しいながらも何とかやってこれた。
それなりの平和と安穏があった。
それが一気に壊れた。
イリヤの泉が急に機能を停止したのがきっかけでモンスターが襲ってきた。
モンスターは――一匹だった。
最初はこんなものたいしたことないと武器を取って果敢に挑んでいった町人が次々と傷付き倒れていった。
女子供は逃げ惑い、町の教会の中に追い詰められる。
「みんな大丈夫?」
中年の女、イーヤの問いに全員が頷く。
ここにはイーヤを含めて五人の人間がいる、全員が女だ。
「なんなのあれは? あんの見た事ない?」
「あれに……みんなやられたの?」
「お父さん……お母さん……」
全員が浮かない顔をしている。
「ねえ、だれかあのモンスターに人がやられたところを見てない?」
「あたし見てる」
女の一人、十代半ばくらいの少女が手をあげた。
「やられた後どうだった?」
「うん、サルになった」
「やっぱり」
女二人がうなずき合った。
「あのモンスターにやられた人間がモンスターになってた」
「じゃあ、わたし達も?」
「そうだろうね」
「そんな……」
絶望が教会の中に広がる。
殺されるだけではない、殺された後もモンスターにされて生きていくのだという現実がより深い絶望を突きつけた。
「もうこの街はダメかもしれないね。ここから出た方がいい――」
イーヤが喋り終わらないうちに、それがやってきた。
教会の扉を破って入ってきた。
「あああ……」
「来たわ」
「あの悪魔よ……」
絶望とあきらめが広がる。
女達の前にそれが現われた。一匹でビースクの町を壊滅させた小さな悪魔。
夕焼けの中、うっすらと緑色の光を放つサソリ。
それが、町を壊滅させた張本人だ。
「あたしが食い止める、あんたらは裏から逃げな」
イーヤは長いすを持ち上げて、構えた。
「でも」
「いいから」
そんなイーヤにサソリが飛びかかった。
イーヤは反撃しようとした――が、ただの町人である彼女は何もできなかった。サソリに刺され、そこが一瞬にして腫れ上がり、溶けていく。
完全に溶けた後、それがうごめき、粘土のように形を変えていく。
凶悪な顔、長い爪のサル。
シュレービジュ、というモンスターにイーヤは変わった。
「あああ……イーヤさんまで」
残った女たちは逃げる気力すら奪われた。
その場にへたり込んで、絶望の顔で、その時をまつ。
悪魔は、悪魔だった。
死刑宣告された女達にすぐに飛びかからず、ゆっくり近づいていく。
ビースクを単身で壊滅させたサソリは、まるで絶望を楽しんでいるかのようだった。
「だ、誰か助けて……」
助けを求める声も弱々しかった。
サソリの顔がちょっと変わった。まるで、女をあざ笑うかのようなに。
そして、飛びかかっていく。
死が――訪れなかった。
金属音が響く、サソリの小さな体がはじき飛ばされる。
見ると、地面に一振りの剣が突き刺さっていた。
二つの宝石をはめ込んだ、珍しい剣。
「間に合ったか」
教会の入り口に男の姿が見える。
夕焼けの中、逆光を背負うそれは、女達には救世主にみえた。
☆
地面に突き刺さったエターナルスレイブをゆっくり引き抜く。
はじき飛ばされたサソリがこっちを見てる、じりじり動いて警戒してる様子。
こいつを探しに来たけど、まさかこんな現場に出くわすとは。
「あ、あなたは?」
生存者らしき少女が聞いてきた。
「名乗る程のもんじゃない、それよりも逃げろ、ここはおれが何とかする」
「で、でも」
少女が何かを言おうとする。サソリが飛びついてきたのでエターナルスレイブではじいた。
サソリの体が壁にぶつかって止まる。
「早く行け」
「で、でも」
「イーヤさんが」
「イーヤ?」
「それ」
女達が揃って指を指した。
そこにサルがいた。シュレービジュ、人間に戻るサル。
「……それ、お前達の知りあいか?」
「はい、モンスターにやられてそうなったけど……」
「イーヤさんなんです、本当なんです!」
「そうか。あのサソリにやられてサルになったのか。町の人間が少ない上に死体も見当たらないと思ったらこういうことか」
きっと全員、殺されて片っ端からサルにされたんだろう。
「リーシャ」
「はい」
おれの号令でリーシャが矢をつがえてサルを狙った。
「やめて!」
少女が止めようとするが、おれの命令に忠実なリーシャはためらわず矢を放った。
矢がサルの脳天を貫く。
サルは後ろ向きに倒れた。
「ああああ」
「イーヤさん」
女達が嘆く。直後、変化が出た。
おれにはすっかりおなじみになった変化。
なんと、サルが人間に、中年の女に戻ったのだ。
「イーヤさん!」
女達がイーヤに駆け寄る。
「それでいいだろ? 早く逃げろ」
「はい!」
女達が逃げ出した。
「リーシャ、お前はあっちこっち見てこい。サルを任せる」
「はい!」
「ミラはこっちだ」
「はい」
エターナルスレイブの水色の宝石に触る。ミラが剣に吸い込まれて、刀身が変化する。
魔法の刀身になったエターナルスレイブ・改を構えて、サソリに向かっていく。
サソリがじりじり下がった。まるで怯えてるみたいだ。
そして横っ飛び――出口に向かって突進。
逃げ出した!
「逃がさん!」
追いつき、上段から剣を振り下ろす。
直後、おれも驚いた。
まるでバターをきるかのようにサソリのハサミが両断された。
あれほど苦戦したサソリがゴミのように感じた。
(ご主人様すごい!)
剣になったミラが大興奮していった。
すごいのはお前だけどな。そんな事をおもいながら、サソリにトドメを刺すために剣を振り下ろした。
☆
夜、ビースクの町、壊れたイリヤの泉の前。
DORECAを使って修復すると、町全体に「安心感」が戻った。
後ろから歓声が聞こえる。
そこにいる数百人の住民が一気に歓声をあげた。
振り向く、盛大に湧いてる彼らを見る。
「ありがとうございます!」
一人の中年男がおれの前にやってきていった。
「お前は?」
「町長の息子のアガフォンと言います」
「そうか、町長は?」
「父の姿は見えません……父だけではなく、他にもいないものがかなり」
「まあ、どっかにはいるだろ。話は聞いてるな?」
「はい、モンスターにやられるとあのサルになるのですね」
「ああ、で、倒したら人間に戻る。これからはあのサルを見かけたらどんどん倒していくといいだろう」
「わかりました。ありがとうございます」
アガフォンはもう一度頭を下げて、その後更に言ってきた。
「それでアキトさん、ご相談があるのですが」
「なんだ」
「この町の町長になってもらえませんか?」
「町長、おれが?」
ちょっと驚いた。
「みんなと相談した決めた事です。モンスターを倒したその力、イリヤの泉を事もなげに直すその力。是非町長になって、わたし達を導いてほしいと……もちろん、アキトさんがよければですが」
「別に構わないが……おれはもう別の町の町長だぞ、それでもいいのか?」
「はい」
「「「「「お願いします」」」」」
男の背後にいる町人が声を揃えていった。
どうしても、おれになってもらいたいという気持ちが伝わってきた。
そういうことなら、断る必要はない。
「わかった、なってやる」
答えた瞬間、町人たちから歓声が上がった。
そして。
――レベルアップ! フロンズカードがシルバーカードに進化します。
 




