そのもの、周回遅れ
朝、家の前でDORECAを手にとった。
「メニューオープン」
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アキト
種別:フロンズカード
魔力値:999999
アイテム作成数:1099
奴隷数:2
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「やっぱり見間違いじゃないか」
メニューに表示されてる魔力が9が6個並んでる、つまり百万未満だ。
昨日、エターナルスレイブ改を作ったことでチャージされた魔力は一人当たり百万を越えてる。前のと会わせて二百万以上あるはず。
なのに今あるのはそれよりもすくない。しかもあきらかに上限に引っかかったって感じの表示だ。
試しにプシニーの魔法陣を一個作った。
魔力が999998になった。
999999のままじゃなくて、999998。
それはつまり、カンストした分は無駄になったってことだ。表示が上限にひっかかって、実質もっとある、ってパターンじゃない。
本当にそれだけしかないんだ。
もったいないけど、仕方ない。
この問題はひとまず棚上げにした。
この先きっと上限が上がる事もあるはずだと思うから。
カードのランクが上がるとか、奴隷の数が増えるとか。
確証はないけど、確信はある。
どこかであがるはずだ、と。
だから今は放っておくことにした。
家の中からリーシャとミラが出てきた。
二人は昨日作った緑色のドレスを着て、ニコニコ顔でおれの前に立った。
「ご主人様、今日は何から作りましょうか」
リーシャがいい、ミラがおれを見つめる。
すっかり慣れてきたやりとりだ。
「そうだな。魔力がもったいないから、一気に家を人数分つくっちゃうか」
「もったいないのに作るのですか?」
リーシャが首をかしげる。
魔力カンストを知らない側だとそういう反応が当たり前だ。
それを説明しようと思った時。
「なんだここは!」
声が聞こえた、聞き覚えのある男の声だ。
見ると、そこに聖夜がいた。
聖夜は相変わらずの格好で、腰に鉄の剣を下げている。
連れてる奴隷も、おれたちが召喚された時の奴隷の服のままだ。
まるで成長していない……という格言が頭をよぎった。
驚く聖夜に近づいていった。
おれと聖夜が向き合って、それぞれの背後に奴隷が立って向き合う。
ご主人様同士だから、奴隷はキツく口を閉ざした。
「よう」
「なんだこれは」
「なんだこれはって?」
「おまえ、この街をよく見つけたな。地上にまだこんなところが残ってたのか」
「うん? ああ、おれが作ったんじゃなくて、地上に残ってた町をそのまま使ったって意味か」
「当たり前だろ」
聖夜はあきれ顔をした。
「こんなに色々作れるはずがないだろ。こんなにたくさんの家……これだけでも普通につくったら魔力五万近く必要だ。ほかのものをあわせたら……十万は下らないはずだ」
聖夜はあっちこっち見回して、見積もりをだした。
同じDORECAを持ってるだけあって、計算はあたらずとも遠からじってところだ。
「ま、そんなところだろうな」
「ふん。まあお前にはこれくらいの運でのハンデがあってもいいだろ。そうじゃなかったらおれにかなわないからな。聞いて驚け、おれの魔力が一万を越えた。もうちょっとで必要量がたまる、そしたらドカーンとすごいものを作る予定だ」
「……そうか」
「こういうのはな、アイテムをつくって、そのアイテムを活用して効率的な事をやるのが定石だ。みろよ、おれの飛躍がもうすぐ始まるぜ?」
一万の予定を得意げに話す聖夜が不憫だった。
同時に、その後ろにいる奴隷がもっと不憫に感じた。
奴隷服のまま、悲しそうな表情で、体中に生傷がある。
どういう扱いで、どうやって魔力を一万も集めたのかは聞くまでもないこと。
「そうだ、今日はいいことを教えに来た」
「いいこと?」
「そうだ」
聖夜は得意げな顔をした。
「DORECAでメニューを開いてみろ、エターナルスレイブってのがあるはずだ」
「ああ、あったな」
「さすがにしってたか。鉄の剣を素材に使うらしいが、おれはそれがものすごい武器だとにらんでる。名前が名前だからな」
「ああ、同感だ」
というより既に知ってる。
おれの腰にそれの「改」があるんだからな。
「鉄の剣はもうある、あとは奴隷の贈り物なんてふざけたものだが、それを見つけるだけだ」
「見つからないのか?」
おれは聖夜の奴隷を見た。
見た目エルフのエターナルスレイブ。
彼女もかつてのリーシャと同じように長い髪をしてる。
髪の量は足りてるはずだが。
「見つからん、まあこいつの何かだろうとは思うが」
聖夜はそう言って、まるで息を吸うように奴隷をビンタした。
乾いた音が響き、奴隷の顔が赤く腫れ、涙が出る。
「おっ、涙がでた。涙も結構な魔力になるんだよな。今ので400くらいだ」
「……そうか」
「そういえばお前のその武器見なれない外見してるな。なんて武器だ?」
「エターナルスレイブ……改」
おれは淡々と答えた
「……は?」
聖夜はキョトンとなった。
「エターナルスレイブだと?」
「の、改だ。エターナルスレイブを使って作ったヤツだ」
「な、ななななな、なんだと!?」
それまで余裕綽々だった聖夜の顔が一気に崩れた。
「どういう事だ、なんでそんなものを作れる」
「なんでって」
さて、どう答えるべきかと考えた。
「……そうか、お前、奴隷を二人も」
「え?」
「それでか。おい教えろ、もう一人の奴隷はどうやって手に入れた」
「……」
どうやら勘違いしてるみたいだ。
エターナルスレイブを二人もったから作れたと勘違いしたみたいだ。
別にそうじゃないんだが。
「教えろ」
「いいけど、サルみたいなモンスターにあったことはあるか?」
「あの爪の長いヤツか?」
「ああ、アレをたおしたらサルが人間になるんだ。その中から見つけた」
「なるほど、サルを倒せばいいんだな」
「ああ」
「わかった。見てろ、奴隷をあっという間にふやしてやる」
「……」
「おい間抜け、ついて来い」
聖夜は自分の奴隷を連れて去っていった。
さり際、奴隷の顔が悲しそうなのが切なかった。
……。
「リーシャ」
「はい」
「万能薬をいまから作る、それをあの奴隷に渡してくれ」
「彼女にですか?」
「ああ。奴隷は元気にしてるのが一番だ。笑うにしろ――悲しむにしろ」
「はい!」
急いで魔力を払って、万能薬を緊急生産した。
それで出来たものをリーシャに持たせて、聖夜達を追いかける。
「そうだ、シュレービジュから戻った人間が行き場ないんならこっちに来るようにって教えとけ」
「わかりました!」
リーシャが万能薬を持って追いかけるのを見送る。
その横で、ミラがおれをじっと見つめる。
「どうした。そんな顔でみて」
「ご主人様って、器の大きい方だなって」
「そうか?」
「だってあの子だけじゃなくて、他の人間さんの事も心配してましたから」
それはまあ、聖夜がシュレービジュから戻った人間を養いきれるとは思えないから。
「それに……奴隷の事をよく分かって下さってます」
「そうだな」
「わたし、ご主人様の奴隷で良かったです」
ミラはガッツポーズして、笑顔で言った。
「わたし、元気で頑丈な奴隷を目指しますね!」
その笑顔は素敵で。
やっぱり奴隷はこの世で一番健気で、可愛らしい生き物だとおれは改めて思ったのだった。




