ミラ
崩落した大岩に塞がれた山道、ミラはその岩の前に立っていた。
塞がっているのはここだけではなく、あっちこっちが岩で塞がれたり、道そのものがふさがれてたりしている。
ミラの背後にいる若い男――イーゴルが彼女にすがるような目をして、訪ねた。
「どうにかなりませんか? 奴隷様」
「大丈夫、あたしに任せて」
「本当ですか!? ああ……よかった、これで村のみんなが助かります」
「前の雨で崩落して道がふさがったんだよね。それじゃあもう三、四……」
「五日になります」
指を折って数えるミラに、イーゴルが答えた。
「おれが助けを求めて山を下りた時にはもう食糧がそこをつきかけてました。大人は我慢して、子供にまず食べさせてる状況です」
「そっか。じゃあ急がなきゃね」
ミラはブラックの奴隷カードを取り出して、無限の魔力で黒い玉を生成した。
サイズも色合いもほぼボーリングの玉と同じ、黒光りするボディに白いドクロのマークがペイントされている。
見るからに爆弾な一品だ。
「危ないから下がってて」
「は、はい」
イーゴルが待避したのを確認してから、ミラは持っている爆弾を大岩に押しつけて、そのまま起爆させた。
轟音と共に大岩が吹っ飛ばされ、あたりに煙が巻き起こる。
「奴隷様!?」
「大丈夫。この爆発はご主人様の力で、あたし達には効かないから」
ミラが悠然と返事をした。
イゴールがホッとしたあと、煙がゆっくり晴れて、道が通行可能になった。
「さ、早くみんなを助けにいくよ」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
イゴールは文字通り救いの神にするかの如く、何度も何度もミラを拝んだ。
☆
大雨で何カ所も通行止めになった山道だが、神の使徒であるミラにとっては何ら障害にはならなかった。
岩は爆弾で吹っ飛ばし、崩落した道は魔力で修復する。
そうして山道を登っていって、あっという間に大雨で孤立した山奥の村にたどりついたのだった。
☆
「食べものはこれだね、こっちが薬、あの木の家の中に服とかも作っといたよ」
「はい!」
「家もどうにかしなきゃね。どうする、立て直した方が早いけど愛着あるんならなおしてもいいよ」
村に到着したミラは、早速奴隷カードで必要な物資を大量に生産して、立て直しを開始させた。
数百人の住民がいる災害に遭った村を一人で救助から再建を同時にこなす勢いだ。
「奴隷様の噂を聞くけど、本当にすごいな。お一人で全部なさっている」
「そりゃあこの世に十二人しかいない神様の奴隷様なんだからな」
「ありがたやありがたや」
村の住民に遠巻きに感謝される中、ミラはひたすら救助と再建に奔走した。
到着してから半日もしないうちにほとんど終わって、村の住民からは神の奇跡だと称えられた。
☆
夕焼けの中、ミラは村を回った。
何か足りないものはないか、やり残したはないか。
それを確認して回った。
災害救助ははじめてだが、やってる事は主とともに世界を再生したのとほぼ同じ。
二番目の奴隷である彼女は相当の経験をつんでいて、何か見落としすることなく全てをなしとげた。
あとは物資を多めに置いていけば大丈夫――と思っていると。
「あれって……」
離れた先、視界の先に小さなな姿を捕らえた。
補修したばかりの山道から、崖によじ登っていく男の子。
ヤンチャ盛りの小さな男の子だ。
男の子は一心不乱に崖を登っていて、手を伸ばして何かをとろうとしている。
「危ない!」
ミラは叫んで、さっと駆け出した。
男の子の頭上から崩れた岩が転がってきた。
男の子は一心不乱で何かをとろうとしてて、それに気づいていない。
ミラは全力で走って、崖を登っていく。
同時に奴隷カードを使って爆弾を生成。
「つかまって」
「え――」
きょとんとする男の子の手を引いて、とっさに体を入れ替える。
同時に爆弾を岩に向かって投げつけた。
爆風が岩を吹き飛ばす、ミラは体を呈して爆風から男の子を守った。
その勢いのまま崖から降りて、着地した。
「ふう」
息を吐いて、抱きかかえてかばった男の子を下ろす。
そして、聞く。
「大丈夫?」
「う、うん」
「そっか、よかったね。でも危ないよあんなところに登っちゃ」
「ごめんなさい……」
男の子はシュンとうなだれた。
よく見ると両手で大事そうに何かを包むように持っている。
花だった。
握り締めたからか、それとも爆風にやられたのか。
花びらは半分ほど散っている。
「それがとりたかったの?」
「うん」
「じゃあ同じものを――」
「これを天使様にプレゼントしたかったんだけど」
「え?」
きょとんとするミラ、奴隷カードに伸ばしかけた手が止まった。
「あたしに?」
「うん、村を助けてくれた天使様に。この花、すごく似合いそうだったから……」
でも、とつぶやきながらシュンと頷く男の子。
もっている花は半分ほど散っている、お世辞にももう綺麗な花とは言えなかった。
ミラ男の子の頭を撫でた。
「ありがとう。それもらってもいい?」
「え? でも」
「頂戴?」
「う、うん」
男の子がおずおずと差し出す花を受け取って、ミラは、自分の耳の上につけた。
「ありがとうね」
夕焼けを背に、半分ほど散った花をつけた第二奴隷は、男の子ににこやかと笑ったのだった。




