リーシャ
『笑うあげは』というマンガをみてみんなの笑顔かきたくなりました。
不定期にキャラ一巡するまで書きます。
リーシャは単身でアキトの街にやってきた。
長い金髪、草色のドレス、存在を強く主張する大きな首輪。
再生された新世界で、二番目に偉くて有名なエターナルスレイブは、街に入るなり注目を浴びて、人々から話しかけられた。
子供たちは、
「お姉ちゃん、こんにちは!」
と親しげに。
大人達は、
「みて下さいリーシャ様、あの三階建ての建物、我々だけの手で建てたんですよ」
と尊敬を込めて。
一部の特殊なもの達は、
「ど、どどど奴隷様、このブタめと罵って下さい」
といささか倒錯しきった尊崇の念を込めて。
街の住人は、誰一人として例外なく、笑顔でリーシャを迎えいれた。
一人一人としっかり会話をかわしつつ、リーシャは街の大通りを進んだ。
アキトは発展した、かつての荒野からは想像つかないほどに。
結局「アキト」の街と名前が固定されたここでは、住民はその名前にふさわしい街にするために懸命に働き、今や数万人の住民を擁し、都・リベックに次ぐ大都市になった。
また新世界でもっとも、創造的な街でもある。
「なにかものを作るところはありますか?」
「大丈夫ですよ、ねえ」
「おう、リーシャ様のお手を煩わせるまでもねえ」
「この街は神様の名前をもらってるんだ、それに見合うようにおれ達も自力で色々作っていかねえとな!」
そうだそうだ、とリーシャを囲む住人達の声が上がった。
街の名前に「アキト」を使っている事が自負となって、彼らはDORECAや奴隷カードの力に頼らないという意識が極めて高い。
それはいいことだが、まったくやる事がない、という事にリーシャは困って、苦笑いした。
そんな住民達に囲まれて歩いてると、ふと、進行方向の先に人だかりが出来てる事にリーシャは気づいた。
尋常じゃない雰囲気、ざわついてる。
リーシャは相変わらず話しかけてくる住民を押しのけて走り出した。
長い金髪をなびかせて走って行き、人だかりを割って中に入る。
十歳くらいの男の子がいた。
男の子は地面に倒れて、足を抱えている。
その足から大量の鮮血がどくどくと流れ出ている。
「どうしたの? 大丈夫!?」
男の子はわんわんと泣いていた。
リーシャの質問には答えない、痛みでそれところじゃないようだ。
代わりにまわりの人間が答えた。
「犬にかまれたんですよ、鬼ごっこで走り回ってたら犬の尻尾を踏んづけちまってね」
「犬……」
リーシャは男の子の足を見た。
血だらけになっているが、確かに微かにかまれた痕が見える。
しかもそれはかなり深く、うっすらと白いもの――骨のようなものが見える。
「今なおします」
凜然とした表情で言って、リーシャは黒いカードを取り出した。
神のほぼ全ての力を使える、全権限を任されたブラックの奴隷カード。
それをつかって、万能薬を無限の魔力から生産した。
万能薬の瓶をもって、男の子を抱き起こす。
「リーシャ様、血がっ」
リーシャは血がつくのも構わずに、痛がる男の子を抱き起こして、万能薬を口の中に流し込んでやった。
瓶の中身を全部飲み干させると、血がぴたりと止まった。
「ぐすっ……」
「もう大丈夫よ、まだ痛い?」
「まだ、ちょっと……」
「うん、もうすぐ痛いのも消えるから、もうちょっと我慢してね」
リーシャは男の子を抱き留めたまま、頭を撫でてやった。
その姿はまるで慈母のように見えた。
まわりのもの達はその神々しさに思わず息を飲んだのだった。
☆
「ありがとうございます!」
すっかり元気になった男の子はリーシャにお礼を言った。
「これからは気をつけてね、また犬の尻尾を踏んだらだめよ」
「うん! ありがとう天使様」
「天使様?」
リーシャはキョトンとして、首をかしげた。
「違うの?」
「違うと思うけど? どうして?」
「だって、王様は神様になったんだよね」
「うん」
「神様の奴隷なんだから天使なんだって、みんなそういってるよ」
「そうなんだ。でも、わたしは天使じゃないの」
「えー、じゃあなんなの?」
無邪気に聞き返す子供に見められたまま、敬愛する主の姿をおもい。
「奴隷は奴隷なの」
第一奴隷は、恋する少女のように、笑った。




