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笑顔が産む無限の魔力(完)

 雲の上にいた。


 踏みしめているところが白い雲で、まわりも真っ白な雲な、見渡す限り一面の雲の上。

 前に来たときはまわりはごろごろと雷鳴が轟いていたけど、今はものすごく穏やかだ。


 そこに戻ってきた。

 奴隷達を連れて。


 はじめて来るもの――二度目のもの。


 リーシャとライサがおれの横にたった。

 星夜と一緒に召喚されたとき、女神から用意されたエターナルスレイブ。

 最初の奴隷の二人だ。


「ここが始まりだったな」

「はい、ご主人様」

「今だからいうけど」


 ライサが恥じらいながらいった。


「あの時、あなたがご主人様だったらいいな、って思ってた」

「そうだったのか」

「うん。もちろん誰がご主人様でも嬉しいけど!」


 ライサは静かに、しかし強く主張する。

 このあたり、やっぱりエターナルスレイブだなあ、って思った。


「でも、二人のうちどっちがいい、っていったらあなた。それはほんと」

「そうか、嬉しいよ」

「わたしも! わたしだってそう」

「分かってる」


 リーシャの頭を撫でてやった。


 十二人の奴隷をそこに置いて、雲の上を歩き回った。


 世界は再生された。

 DORECAと十二枚の奴隷カードの力を駆使して、邪神に破壊されたあらゆる場所を再生していった。


 人もふやした、ものもふやした。


 現代知識を駆使して、あれこれ作った。


 世界は再生され――前以上の世界になった。

 話を聞くと中世くらいの技術水準だったのが、全体的にばらつきはあるけど近代、蒸気機関が発明された頃にものになった。


 そうして世界は栄えたある日、魔王城に知らない扉が現われた。

 その扉を奴隷達と一緒にくくると、この雲の上にやってこれた。


 感慨深かった。

 世界再生にかかった時間と、その間の出来事。

 それを思い出しながら、雲の上を歩いて回った。


「あっ」


 ふと、女神と邪神が見えた。

 いつの間に来たのか、二人は雲の上にいて、向き合って座っていた。


「二人ともいたのか」

「いたのよ」

「もしかして力は戻った?」

「わたしは戻ってない」

「愚かな子。戻るはずないじゃない」


 二人とも否定した。

 もしかしたら二人に力が戻ったのか? って思ったがそんな事はないみたいだ。


「じゃあなんでここに?」

「世界が再生されたらここに集まるようにしてたの」


 女神が答えてくれた。


「秋人と、秋人の奴隷達。そしてわたしとシストラー。あっ、聖夜が再生したらそこは聖夜と聖夜の奴隷達になってた。関係者が全員集まるようにしておいたの」

「そうか」

「ありがとう秋人、世界を再生してくれて」


 女神に感謝をされた。


「で、この後はどうなる? あんたはまた世界を破壊しにもどるのか? もし力がもどれば」

「その事なんだけど」


 女神がいった。


「シストラーにきいたら、どうやら秋人が生きてるうちはしないっていうの。秋人を見てる方が面白いからって」

「そこまでは言ってない」

「えー、言ったよ」

「いってない」

「言った」

「言ってない」

「言った」


 女神と邪神、二人は水掛け論を展開した。

 なんというか……前から思ってたけどこの二人って似てるよな。

 なんというか、なんとなく。


「とにかく言ったの! それでね秋人」

「うん?」

「秋人が死んで、シストラーの力が解放されたらわたしじゃ止められないの。元の木阿弥なの」

「それは困る」

「だから提案」


 女神は笑った。

 今までに見てきた中で、一番意地の悪い笑顔だ。


「秋人、この世界の神になってくれる?」

「……え?」


 なに言ってんだこいつ。

 と、声に出して突っ込みそうになった。


「秋人が神になるの。神になったらとりあえずわたしやシストラーよりも長生きするから、問題は解決するのよ」

「……なるほど」

「ね、だからなって、ね。神様に」

「……」

「人の子よ、さあどうでる?」

「……」


 なんというか、なんというかだった。

 ここに来ていきなりの展開。


 今のおれは十二人の奴隷を持っているが、とくに何でもない存在だった。

 最後まで世界再生していたけど、王――帝国になった国の皇帝の座はもう息子に譲った。


 マイラが生んだ、人の子の、おれの息子。


 それで普通の人間なんだが、いきなり皇帝よりもでっかいものになれって言われて、ちょっとばっかり困惑した。


 が、やるしかないようだ。l

 邪神はキッとやる。

 おれが死んで力を取り戻したらまた世界を滅ぼす。


 もはや長くなった付き合いでわかる。

 こいつはそういう女だ、暇になったらやっちまうか、的なノリでまた世界を滅ぼしに走る女だ。


 おれが止めるしかない。

 おれが死んだ後の事はどうでもいいかもしれないが、だからといって確定で滅亡ルートを放置するのは寝覚めが悪い。


「わかった、神になる」

「本当に?」


 女神が念押ししてきた。

 おれは頷いた。ここまで来たらもうなるしかないだろ。


「そか、ありがとう。えっとね、実は一つ謝らなきゃならない事があるんだ?」

「なに?」

「じつは、あのもんをくぐったご主人様の方が神になるって最初から決めてたんだ」

「……え?」

「ほら、世界再生したじゃない? で、大体の人は権力に満足出来なくて不老不死とか考え出す頃だから、じゃあしょうがない世界再生した人を神にするか、っておもってあらかじめやったの」

「……ってことはなに? 今の質問、おれがはいっていってもいいえっていっても」

「というかもう神様」

「……うおーい!」


 なんてこった、やられた。

 いやなにも損はしてないけど、すごくやられた、って気分になった。


「ごめんね秋人」

「面白い子、だから見ていて飽きない」


 二人は悪びれない様子で言った。

 なんというか、やっぱり似てるよな。


「あっでも、いいこともあるよ、秋人的に」

「いいこと?」

「神様は不老不死なんだ」

「ああ」


 で?


「神様の奴隷は天使って事になるから、不老不死――神様は殺せるけどそれ以外は殺せないから、実質不老不死になるんだよ」

「……ってことは?」

「これからもずっと奴隷ちゃんだちと一緒だよやったね」


 女神は親指をたててウインクした。

 邪神はやれやれとため息を吐いた。


「ご主人様」


 誰かの声が聞こえた。

 エターナルスレイブ、奴隷の誰か。


 振り向くと、十二人の奴隷達がいた。

 おれを見つめて、揃ったように微笑んだ。


 愛らしい生き物、どれだけ可愛がっても足りない生き物たち。


 六組の母娘、十二人の奴隷は一斉に笑った。

 新しい、再生された世界の上で。


――魔力は無限にチャージされました。

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