ダークエルフの神
トゥエルブスレイブ。
目の前にいる彼女達をみてそんな造語が頭に浮かんだが、大して語呂が良いわけじゃないから、思いついてすぐに忘れることにした。
魔王城の中、玉座の間。
前の宮殿風屋敷と違って、今回は完全に城として作った。
だから玉座の間も広くて、荘厳な作りになった。
その玉座に座るおれ、そして集結した十二人の奴隷。
左はリーシャ、ミラ、ユーリア、リリヤ、ライサ、スベトラーナの六人が順に。
右はシャスリ、イリーナ、ヴェラ、アリサ、ベラ、オリガの六人が順に。
奴隷になった順で、母娘向き合って。
玉座に続く赤絨毯の両横にわかれて整列している。
その光景はいい感じで何か似合う言葉はないかって思ってたら、さっきのあの言葉が出てきたわけだ。
まあいい、言葉はこの際どうでも。
「おめでとうございますご主人様。これで世界にご主人様の敵はいなくなりましたね」
第一奴隷で、一番付き合いの長いリーシャが言った。
「それは悪役のセリフですの、お兄ちゃんにいうのはふさわしくありませんの」
第四奴隷リリヤが指摘する。確かに悪役側っぽいセリフかもな。
「別にいいんじゃないかな、敵がいなくなったのはその通りなんだしさ」
「油断大敵。人間でも、敵はいる」
第二奴隷ミラが性格通りポジティブにフォローして、第三奴隷ユーリアがこれまた性格通り引き締めにかかった。
そうして、おれの前に立っている十二人の奴隷が口々に言い始めた。
女三人集まればかしましいって言葉を思い出した。ここにいるのはその四倍、かしましいところの騒ぎじゃない。
だけどいやな気分じゃない。
愛らしい健気な奴隷達がおれのためにいろいろ言ってるんだ、嫌な気分になるはずがない。
それを、おれは玉座にいたまま眺め続けた。
☆
魔王城と各街は魔法の扉で繋がっている。おれと、作った奴隷本人だけ通れる魔法の扉だ。
それを使ってほとんどの奴隷が仕事に戻っていく中、おれはスベトラーナだけを呼び止めた。
「何か命令か?」
第六奴隷スベトラーナ。
凜々しくて、いかにも武人然した顔つきに言葉使い。
彼女はかつて、リグレットという種族の一員だった。
リグレットとは、一定の年齢までご主人様を得られなかったエターナルスレイブが変化した姿だ。ご主人様に仕えたい、しかし見つからなかった奴隷。
ある意味、悲しみの化身とも言うべき種族。
そんな彼女は、とある巡り合わせからエターナルスレイブに戻って、おれの奴隷になった。
「命令というか、教えて欲しい事がある」
「なんだろうか」
「リグレットの国。場所を教えてくれ」
「――っ」
スベトラーナは息を飲んだ。
「なぜ……それを……」
「……リグレットからエターナルスレイブに戻す手段がなくなった」
それができたのは邪神だった。
邪神に殺されたリグレットがシュレービジュになって、そのシュレービジュを殺して元に戻すとエターナルスレイブになる。
スベトラーナがそうだった。
しかし、邪神の力は封じられた。つまり今後、リグレットがエターナルスレイブに戻る方法はなくなったと言うこと。
その事に気づいた時、罪悪感ともったいなさを半々に感じた。
「せめてリグレットが快適に過ごせるために、あっちにいって力になってやりたい」
「……ありがとう」
スベトラーナは涙ぐんだ。
――魔力を100,000チャージしました。
だけどすごく笑顔だった。
☆
スベトラーナからリグレットたちの居場所を教えてもらった。
久しぶりに完全な単独行動だ。
リグレットの国はその性質上、エターナルスレイブの立ち入りを禁じる。
これまで手出し出来なかったのは、奴隷の誰も連れて行けなかったという理由もあってのもの。
それをおして、リグレットのところに行こうとした。
場所は魔王城から近かったから、ここから行く事にした。
城をでて、人工で作った坂道をおりる。
そこに、邪神がいた。
木に背をもたせかけて、おれを待ち構えていた。
「どうした」
「一緒にいってあげる」
「一緒に?」
「リグレットのところでしょう。わたしがいた方が便利よ」
「なんで? 力を封じられたあんたがいて便利になる理由は?」
「不思議な子、思い至らないの?」
「ん?」
「ルシャヤはあなたにエターナルスレイブを与えた。もし、同じような状況であなたを呼び出したのがわたしなら?」
「ルシャヤ……? 女神のことか」
頷く邪神。
それはいいけど、どういう事だ?
……。
――っ!
まさか!
「リグレットなのか?」
「聡い子」
邪神はそういって、意味深な笑顔を浮かべた。
「わたしがリグレットの産みの親で、神なのよ」




