みどりですぞ
「ご主人様、今日は何から作りましょうか」
朝、リーシャが聞いてきた。ミラが横に立って同じようにおれを見てる。
なんだかなれてきたやりとりだ。
「今日は町の人を増やそうと思う」
「ではあのサル――シュレービジュを探しに行くのですね」
「ああ」
「あの、ご主人様!」
ミラが身を乗り出す程の勢いで言ってきた。
「わたしも一緒に行っていいですか」
「ついてきたいのか?」
「はい」
おれは考えた、そしてリーシャを見た。
そっと顔を伏せられた。一緒に行きたいけどおねだりするのは恥ずかしいって顔だ。
「リーシャも来たいのか?」
「ご主人様が許して下さるのなら」
「ふむ。まあシュレービジュくらいならいいけど」
あのサルは本当弱いからな。
どこまで弱いのか検証してみたくなるくらい弱い。おれの予想だとデコピン――普通の人のデコピンでも倒せるくらい弱い。
なので戦いだけど、二人を連れてっても危険とかはない。
「よし、ならものを作るのからはじめようか」
「ものを?」
首をかしげるリーシャ。
「リーシャ、それにミラ。お前らはどんな武器が一番得意だ?」
「わたしは弓です」
ミラが先に答えた。
「わたしも、弓です」
なるほど。見た目エルフだもんな。
「メニューオープン……うん、弓も矢もある」
DORECAを持って家の外に出た。
弓も矢も一種類しかなかった。将来増えていくんだろうが、今はまだ一つだけ。
地面にたくさんの矢と、弓のを二つ、魔法陣にする。
「リーシャ、ミラ。お前達の武器だ、作ってみろ」
「「はい!!」」
二人は声を揃えて、倉庫に向かっていった。
素材を次々に持ち出して、魔法陣に放り込む。
矢が山のようにできた。
弓が片方できたところで、最後の素材を持ってきたミラがつまづいた。
素材がすっとび、顔から魔法陣に突っ込んでいく。
「おい、大丈夫か」
「あたたた、大丈夫です――」
ミラが起き上がろうとした瞬間、ミラの髪が光って――魔法陣が光った。
次の瞬間、ミラの髪の一部が持って行かれて、代わりに弓が――リーシャが先に作った弓とは違うものができた。
弦が、ミラの髪の色――金色の弦になっていた。
「こ、これは……」
「どういうことなの?」
おれはメニューを開いて、作れるもののリストを探した。
弓が二種類になっていた。前からあったただの弓で、さっきまではなかったアクセルシューターという名前の弓だ。
おれは考えた、すぐに理解した。
「でかしたぞ、ミラ」
「え?」
「前からこういうパターンもあるんじゃないかって思ってたんだ。要求される基本の素材じゃなくて、別のものをいれてカスタマイズして違うものができる事もあるんじゃないかって思ってた。それをミラがある、って実証してくれた」
「ご、ご主人様のお役に立ったんですか!?」
「ああ」
「……嬉しい」
――魔力を3000チャージしました。
「でもミラ。失敗は失敗よ」
「……はい」
「失敗から偶然お役に立つのではなく、ちゃんと命令されたことをこなしてお役に立つのが一番。わかってるわよね」
リーシャが先輩奴隷としてミラに説教した、ミラもそう思ってるのか、粛々と受け入れた。
それが終わるのを待って、おれは二人に言った。
「リーシャ、ミラ。シュレービジュの狩りは二人に任せる」
魔法陣を出して、シュレービジュ探しのレーダーにした。
「ご主人様は?」
「今ので色々試したくなることができた」
「お、お手伝いします」
前のめりで言ってくるミラ。失敗を説教された直後だから、失点を取り戻したいんだろう。
「いや、これはおれがやる。町の人間を増やす方が重要な仕事だから、二人に任せたい」
嘘じゃない。
「「はい!」」
おれにそう言われた二人は、喜んで弓矢を持ってシュレービジュを探しに行った。
残ったおれは、まったく仕事じゃない事をはじめた。
メニューを開いて、毛皮のドレスの魔法陣を作る。
リーシャが着ているドレス。メニューの中でパッと見て、一番いいドレス。
それを改良しようとした、フロンズカードでは解禁されてない、上のものを作ろうとした。
毛皮ものドレスの素材はあのウサギの毛だ。
それじゃなくて、別のものを入れた。
倉庫の中から素材を持ってきて、片っ端から入れた。
まずはアブノイ草を入れた。入れた瞬間、魔法陣がはじけ飛んだ。
「失敗だとこうなるのか」
おれは懲りず、更に魔法陣を出して、違う素材を入れた。
ブシノ石からシュレービジュの爪、とにかくありとあらゆる素材で試した。
失敗、失敗、また失敗。
入れるたびに魔法陣がはじけ飛んで、魔力だけが無駄に消費される。
倉庫にある全部の素材を一通り試したけど、上手くいかなかった。
二人の奴隷の笑顔を想像する。
「だめだったか」
できる事ならそうしたかったけど、だめだったらしょうがない。
おれは倉庫から出ようとした。
「うん? これは」
倉庫の端っこに捨て置かれた、サソリの死体を見つけた。
あのメチャクチャ強いサソリ、万能薬が足りなくて、魔力もつきかけた戦いの果てにようやく倒せたサソリ。
その死体。
「……メニューオープン」
魔力950を払って、毛皮のドレスの魔法陣を作る。
そこにサソリの死体を入れる。
魔法陣は……光になった。
光がサソリを包んで……やがてドレスになる。
緑に光るドレス、いかにもエルフにあいそうなドレス。
「キター!」
声が出た、ガッツポーズも出た。
メニューを確認する、毛皮のドレスとはちがう、光のドレスが増えていた。
紛れもない成功だ。
「……よし」
光のドレスを家の中にいったん置いて、おれはエターナルスレイブを強く握り締めて、町から出た。
☆
「ただいまご主人様」
「ただいま!」
夕方、戻ってきた二人の奴隷。
「お帰り、どうだった?」
「三人みつけました」
「あそこにいるよ」
「そうか、わかった、あとで会いに行く」
「ミラ、そのケガを早く直してらっしゃい。倉庫にご主人様が作り置きした万能薬があるから」
「うん!」
倉庫にかけていくミラ。その頬にちょっと擦り傷があった。
なんかでケガしたんだろう。
ミラはすぐに戻ってきた。
「万能薬なかったよ?」
「え? そんなはずは――」
「ああ、おれが使ったから気にするな、今作る」
「そうだったんですか」
メニューを開いて、万能薬の魔法陣を出す。
すっかり慣れたミラは素材を持ってきて、入れて、できた万能薬を自分に使った。
それを確認してから、おれはいったん家の中に戻って、ドレスを持ってきた。
光のドレスを、二着。
それを二人に渡した。
「ご主人様、これは?」
「二人にプレゼントだ。緑は似合うと思って」
「わたし達に!?」
「着てみろ」
「はい!」
ミラは早速着ようとした。
リーシャはドレスとおれの顔を交互に見比べた。
「ご主人様、もしかして万能や――」
「いいから」
それを止めて、着るのを促す。
リーシャは察しが良かった。万能薬がなくなったのとドレスの事がすぐに結びついた。
そう、おれは二着目のドレスを作るために、サソリを探して、ストックの万能薬を全部使い切る戦いをして、それで作った。
リーシャとミラ、二人はドレスに着替えた。
似合っていた。
二人はエターナルスレイブという、まるっきりエルフの外見の種族。
その見た目は、緑のドレスとよく似合っていた。
「思った通り似合ってるぞ」
「はい、なんだかしっくりきます」
「ありがとうございますご主人様!」
リーシャははにかんで、ミラはおおいによろこんでくれた。
――魔力を50000チャージしました。
――魔力を50000チャージしました。
二人とも、喜んでくれたようだ。
ならばよし。
喜んでくれた二人。
おれはチャージされたあと、魔力がどれくらいになったかを一応確認しようと思った。
メニューを開くと、そこに新しいものを見つけた。
エターナルスレイブ改。
それをみて、二人をみた。
期待が高まっていく。




