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天空と城

「お兄ちゃん、言われた通り穴を掘って沼にしましたの。毒もちゃんと撒いたですの」


「パパ様、下に続く道をならしてきたんだの」


「よくやった」


 言い付けられた仕事を終わらせて、ほぼ同時に小走りで戻ってくるリリヤとアリサ。


 二人には簡単な仕事を任せていた。アリサには丘の麓に続く道を、リリヤには毒沼を作らせた。


「道はわかりますの、でも沼はなんですの? しかも毒を入れるなんて意味が分かりませんの」


「魔王の城だからな、毒沼は必要だ」


「そうなんですの?」


「ああ。中級者魔王なら玉座のまわりも毒沼でぐるっと取り囲むぞ」


「どうしてそんなことをするんですの?」


「玉座のまわりが毒沼じゃどこにもいけないんだの。それはおかしいんだの」


「それが魔王ってものだ」


 母娘奴隷は揃って首をかしげた。理解できてないみたいだけど、様式美は大事だ。


「さて、次はいよいよ本ちゃん、魔王城作りだな」


「何をすればいいんだの?」


「なんでも命令してほしいですの」


「そうだな……」


 DORECAを取り出しつつ、頭の中で描いてる城の事を思い浮かべて、次の行動を考える。


「あの……」


 横からおずおずと女神(仮)が話しかけてきた。


「どうした」


「さっきから聞いてるんですけど、あなたは魔王さん……なんですか?」


「いや違うけど」


「でも、魔王の城を作るってさっきから」


「そこは話すと長いんだ。とにかく魔王じゃないけど魔王の城を作るって事で納得してくれ」


「えっと、はい」


 なんだかよく分からないけど、とりあえずは納得した様子の女神(仮)。


「というか、その質問もおかしくないか?」


「え?」


「魔王の城を作るのが魔王ってのもさ。普通魔王の手下とか使いっ走りって聞かない?」


「でも……」


「でも?」


「こんなにすごい事ができる人なんですから、使いっ走りって事はないかなって」


 女神(仮)は地面を、丘を見回しながら言った。


「なるほど」


「むしろ神様かな、って思った位で」


 神はお前だろう、そしておれはある意味お前の使いっ走りだぜ。


 って思ったけど、口には出さないでおいた。


「それよりもパパ様」


「次は何をすればいいんですの?」


 女神(仮)と話してたら、二人がおれをせっついてきた。


 というかやって欲しい事はもうない。あとはおれがポンとここに城を建てるだけだ。


 そう思ってDORECAのメニューを開いたが。


「あっ」


「どうしたんですの?」


「いや、二人にやって欲しい事ができた」


「本当ですの!?」


 食い気味で言うリリヤ、目をきらきらさせるアリサ。


 やって欲しい事があると言った途端、二人は俄然張り切りだした。


「メシにしよう」


     ☆


 城の建設予定地にテーブルと椅子を出して、そこに女神(仮)と一緒に座った。


 意味が分からない母娘に向かって、言う。


「今まで黙ってたけど、この人はおれに取って……うーん、大事な、そう大事な客だ」


「そうだったんですの?」


「ああ、かなり大事な客だ」


「かなり……」


「……大事な客」


 リリヤとアリサ、二人の女神(仮)を見る目があきらかに変わった。


 奴隷として、ご主人様のおれが「かなり大事な客」だと紹介する相手はやはり特別な対象になるんだろう。


「ってことで今から彼女をもてなしたい。魔力は使って良いから、全力でもてなせ」


「分かったですの」


「アリサ達に任せるだの」


 母娘奴隷は張り切って、自分達の奴隷カードを取り出した。


 メニューを開いて、あれでもないこれでもないとあれこれ見ている。


「あの……どういうことなんですか? わたしが、その……だ、大事なお客さんって」


「悪いが少し協力してくれ。話を合わせてもてなされるだけでいいんだ」


「えっと……それくらいなら構いませんけど」


 でもどうして? って不思議そうな顔でおれを見る。


 おれはにこりと微笑み返して、何もいわなかった。


 しばらくして、リリヤとアリサが料理を作りはじめた。


 奴隷カードの緊急生産で作られたそれらは次々とテーブルの上に並べられる。ちょっとしたフルコース……いやそれを飛び越えて満漢全席状態だ。


 全部食べようとすれば、この人数なら日付を跨ぐだろうってくらいの量だ。


「さあ」


「どうぞ召し上がれですの」


「ってことだ、食べてくれ」


「え? でもこんなに多くは」


「一種類につき一口ずつでもいい」


「う、うん。わかった……」


 女神(仮)は料理に手をつけた。流石に量が多すぎて、おれがアドバイスしたとおり一種類に一口ずつという、贅沢きわまりない食べ方をした。


「こんな食事はじめて」


「そうか?」


「うん、ものすごく……なんだろう、女王様になった気分」


「そうか」


 プラスの言葉を引き出したおれ、リリヤとアリサの二人に向かって。


「よくやった二人とも」


「……」


「……」


 二人は口をあんぐりと開けて呆然とした、その後リリヤ、そしてアリサの順ににやけだした。


「お兄ちゃんに褒められたですの……」


「アリサ、幸せなんだの……」


「リリヤ、アリサ」


「はいですの」


「次の命令なんだの?」


 二人はわくわく顔でおれを見つめる。


 きょとんとして、にやけて、そして今はわくわく顔。


 そんな二人は可愛かった。しかけたこっちが予想外ってくらい可愛かった。


 だからおれは言った、今、心の底から思ってることを。


「本当によくやった二人とも。おれはお前達の様な奴隷を持てて鼻が高いぞ」


「……」


「……」


 ――魔力が5,000,000チャージされました。


 ――魔力が5,000,000チャージされました。


 目を見開かせた二人だが、心の中でまれに見るくらい大喜びしていた。


     ☆


 もてなしが終わって、おれは改めてDORECAをもってメニューを開いた。


 1000万の魔力チャージ、それで大幅に(、、、)足りるようになった。


 丘を作るのが意外に魔力かかって、城を作る分が不足した。それで急遽二人に仕事を与えて、褒めて、魔力を増やした。


 使った分と差し引いて百万くらいあれば足りたんだが、二人があまりに可愛くて、つい強めの言葉をかけて、それが大量の魔力になった。


 まあ、その二人が今離れたところでニヤニヤしてる姿をみれば、言葉自体かけて良かったとは思う。


 ともかくこれで足りた、後はやるだけだ。


「さて、いくか」


 DORECAを持ち直す、深呼吸して、作るものを選ぶ。


 地面に魔法陣がでる、丘の大半を占める巨大な魔法陣だ。


「お兄ちゃん!?」


「パパ様!?」


 驚くふたりに微笑みかけて、最後の仕上げ。


 魔力のほとんどを使って、緊急生産。


 魔力を取り込んで、魔法陣の光が収束していく。


 その間、わずか数秒。


 光が収まった後に現われたのは、ものすごい威容を誇る城だった。


 魔王城って名にふさわしい、巨大で、ダークな感じの城。


「……」


 その城を前にして、女神(仮)は口をあんぐりと開いた。


 言葉も出ない、って様子だ。


 女神(仮)から感嘆の言葉すら奪い去った巨大な城は。


 次の瞬間、空からの雷によって半分を撃ち抜かれたのだった。

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