神の創世
女神(仮)をつれて、リリヤ達のところに戻ってきた。
家の中に入ると、母娘の奴隷がおれを出迎えた。
「お帰りなさいですのおにいちゃん。どこに行ってたんですの?」
「ちょっと朝の散歩にな。お? 部屋の掃除をしたのか」
「はいですの。綺麗な家は綺麗なまま使うと気持ちいいですの」
「そうか。よくやった」
リリヤの頭を撫でてやった。綺麗な髪を指でといて、尖ってるエルフ耳もくすぐる感じで撫でてやった。
「えへへ……」
――魔力を3,000チャージしました。
「パパ様、そこの人は何者なんだの?」
「ああ、さっきそこでサルがいたから、倒して人間にもどした」
アリサの質問をとりあえず軽くごまかした。
状況証拠的にあの女神なのを確信してるけど、確実じゃないからとりあえずはごまかした。
「そうなんだの」
「リベックに送りますの?」
「後でな。この島でやること終わったら連れて帰る」
「分かりましたですの」
「パパ様の大事な民、アリサがちゃんと守るだの」
「はいですの、民は国の大事な礎ですの」
意気込む母娘奴隷に、女神(仮)はきょとんとしていた。
☆
一晩過ごした家を解体で引き払って、四人で島の中心部に向かって移動する。
先頭におれ、ちょっと離れて斜め後ろに女神(仮)、その後ろにちょっと離れて改造弓グラディックを持ったリリヤとアリサ。
そうして進んでいく、昨日とは違って、大分慣れてきて、そして分かってきたから、ゾンビの相手は奴隷の二人に任せた。
「あの……」
女神(仮)がおずおず話しかけてきた。
「どうした」
「あの二人……奥さんと娘さんですか?」
「奥さんじゃないな、娘は娘だけど」
「え?」
「二人ともおれの奴隷だ。母娘揃っておれの奴隷だ」
「……え? あっ、そか。娘って言うのはあの人の娘って事ですね」
「いや、おれの娘でもある」
一応な。
「えええええ?」
盛大にびっくりして、叫び声を上げてしまう女神(仮)。それに引き寄せられたかのようにゾンビ鳥が飛んで来て、警戒してるリリヤがグラディックで打ち落とした。
「えと、その……あの、それってつまり……えええええ?」
頭を抱えて混乱する女神(仮)。
そうだな、一回おれの主観を抜きにして事実だけ説明した方が分かるだろうな。
「まずリリヤ、大人の方。あいつはおれの奴隷だ。それはいいな?」
「あ、はい」
頷く女神(仮)、どうやらそっちは納得出来るみたいだ。
「彼女は見ての通りエターナルスレイブっていう種族で、ご主人様を見つけて奴隷になりたい種族」
「はい」
「で、いいご主人様がいたら、娘も同じご主人様に仕える奴隷になれると嬉しいと思っちゃう」
「そうなんですね」
「そこでおれが協力して、子供を作ってやって、奴隷にした。それがあっちのちっちゃいの、アリサって子だ」
「……えええええ?」
「ああ、そこが引っかかるんだ」
「そ、それって自分の娘も奴隷にしちゃったって事ですか」
「まあ、そういうことだな」
実の所あまり「自分の娘」って感覚がない。
いや自分の娘なのはそうなんだが、はっきりと覚えてるし、忘れたことは一度もない。ただそれよりも、アリサ達六人の子供は娘ってより奴隷って感覚が強いだけだ。
多分だけど、「甘酒は酒ってわかるけど酒って感覚があまりない」ってのと似てるんだと思う。
娘だって分かってるけど、それ以前にエターナルスレイブで、おれの奴隷だ。
「パパ様? アリサの事呼んだだの?」
「あっ、本当だ。そういえばさっきもパパ様って呼んでた」
女神(仮)が一人で納得していた。
それをスルーして、アリサに言う。
「アリサはおれの奴隷だって話をしてたんだ」
「そうだったんだの。うん、アリサはパパ様の奴隷なんだの」
「アリサは奴隷と娘、どっちがいい?」
「アリサはママ様の奴隷なんだの」
小首をちょこんと傾げて、不思議そうにおれを見あげるアリサ。
「そうじゃない、おれの奴隷とおれの娘、どっちがいいって質問だ」
「アリサは奴隷なんだの。生まれた時からパパ様の奴隷なんだの」
「そうか」
そんなアリサの頭を撫でてやった、耳もくすぐってやった。
――魔力が5,000チャージされました。
アリサは目を細めて、くすぐったそうに笑顔を浮かべた。
可愛いな、やっぱり奴隷はこうしてめでて笑顔にするのが一番いい。
「あっ、ゾンビが現われただの」
横からゾンビが出てきて、アリサはグラディックを構えて迎撃しにいった。
「――って感じで」
女神(仮)に振り向き、さっきの質問に答えてやった。
「ちゃんと奴隷として扱ってる訳だ」
「なんか……すごい世界ですね」
「うん?」
「自分の娘なのに奴隷だって言い切るのと、娘も奴隷がいいっていっちゃうのって」
「母親もっていうか、母親の方から『娘も奴隷にしてくれ』っていってたんだからな」
「ますますすごい世界です。それに……」
「それに?」
「う、ううん。なんでもないです」
「? そうか」
手を振って慌てる女神(仮)。
なんだかよく分からないが、とりあえず流すことにした。
「よく分からないけど、すごい器の人、なのかも?」
蚊の鳴くような声でつぶやいた女神(仮)のセリフは、奴隷とゾンビの戦闘音にかき消されて、おれの耳に届く事はなかった。
☆
「ここら辺が中央部になるのかな」
「そうだと思いますの」
「ここにお城を建てるんだの?」
そばに寄ってきた母娘奴隷。ちなみに女神(仮)はちょっと離れた場所にいる。
「ああ、中心に建てた方がいいだろう」
「それじゃあ早速建てるですの。リリヤは何をすればいいんですの?」
「アリサにもお仕事させてほしいだの」
「まあ待て。城を建てる前にやることがある」
「やることって、何ですの?」
おれはDORECAを取り出した。
「リーシャと森を作った時にちょこっとやったヤツ……それの大がかりなものをやる」
「なんですの?」
「名前はないが……そうだな、土地造成とでも名付けるか」
「とちぞーせい?」
小首を傾げるアリサ。可愛らしい頭を撫でて、DORECAのメニューを確認。
魔力は足りてる。前にギリギリまで使い果たしたが、十二人の奴隷であっという間に回復した。
今からやろうとしてることが足りるくらいには回復してる。
だから、おれはそれをやった。
「いくぞ!」
DORECAが光る、一つの魔法陣が出来て、無数の矢印乱れ飛ぶ。
「こんなに素材が必要なんですの?」
「なんだかものすごそうなんだの」
驚く母娘奴隷をよそに、素材を必要としない魔力のみの緊急生産。
魔法陣がものに変わる。
地面がゆれて、どんどん盛り上がっていく。
あっという間に、平地だったそこが小山になった。
高さで言えば五十メートルほど、地上二十階を越える高さの小山になった。
盛り上がった小山の上にたってると、島が一望出来る。
うん、やっぱり中央にあるようだな、ここ。
「さすがお兄ちゃんですの」
「山も作ってしまうなんて、パパ様世界一、最強のご主人様なんだの!」
奴隷の二人がおれを称えた。
自然環境を作り替えたのはこれが最初じゃない、リーシャとも森を作ってるんだ。
だから褒められても大して気にはしなかったが。
「す、すごい……まるで神の創世みたい……」
尻餅ついて半ば呆然してる女神(仮)の言葉は、なんというかちょっとうれしかった。




