謎の光
間違いない、あの時一回会ったきりだけど、あの女神だ。
おれと聖夜をこの世界に召喚して、それぞれにDORECAを、そしてリーシャとライサをあてがった女神。
全ての始まり、元凶ともいうべき相手。
サルから戻った人間はどこからどう見ても彼女だった。
だが待て、本物……なのか?
見た目はそっくりだけど、単なるそっくりさんって可能性は。
「それにしちゃ……やけに強かったな、サル」
おれがあの女神に間違いないって思ったのは、戻る前のサルがとんでもなく強かったからだ。
おれを圧倒して、対応が遅れたり間違えたりしてたらやられてたかもしれない。
というか本気の本気を出させられた。それほどのサル。
最弱だと思ってたのが最強だった。それが中身女神だと信じる大きな原因だ。
さて、どうしたもんか。
「う……ん」
うめき声を上げて、ゆっくりと目がさめた。
やがて目が完全に開き、パチ、パチと瞬きをして、あたりをきょろきょろした。
起き上がって、またきょろきょろ。
「気がついたか」
「……」
「とりあえず話が聞きたい。おれの事がわかるか?」
「……」
「おい、話を」
「あの……ちょっと良いですか?」
「質問からか。まあいい、なんだ」
「ここはどこですか?」
「うん?」
「わたしは、誰ですか?」
「……へ?」
予想外の展開だった。
ここはどこ? わたしはだれ?
おきまりのセリフ、これじゃまるで。
「記憶喪失……だというのか?」
「わかりません、何も思い出せません」
「何もか?」
「はい……」
「おれの事もか?」
「えっと……はい、すみません」
「むぅ……」
なんてこった、話が余計にややこしくなった。
本当にあの女神なのかどうか聞こうとしたのに、まさかの記憶喪失。
そりゃあサルから戻った人間の中には、いままでも記憶の混乱の人は多くいた。
ほとんどが魔物に殺されて、それでサルにさせられたんだからな。直前のトラウマで記憶が混乱してる人間はよくいる。
それにしたって名前すら思い出せない人間は聞いたことがない。
「ひゃん!」
女が尻餅ついて、地面を這って後ずさろうとする。
「どうした!」
「あ、あああああれ!」
指さす先を見る、森の奥からゾンビが三体でてきた。
「ゾンビを怖がってるのか」
DORECAで魔法陣を使って、ゾンビの体内から鉄の剣を一本ずつ緊急生産。
一撃で串刺しにされたゾンビがゆっくり崩れ落ちる。
「すごい……」
「怯えることはない、おれがいる」
「はい」
「というか……別人、だな。こりゃ」
流石にもう女神とは思えなくなった。
記憶がないのがあれだが、あの女神がこんな風にゾンビごときに怯えるのはいかにも似合わない。そういうキャラじゃない。
記憶がなくなったって、人格まで変わるもんじゃないだろ。
そもそも、シュレービジュになるのはモンスターに殺された人間ばかりだ。
あの女神がどうやったらモンスターに殺されるんだ? よく考えたらあり得ないことだ。
「ふっ」
シニカルな笑みを浮かべる。バカだなおれは、と自嘲する。
「とりあえず行こうか」
「行くってどこに?」
「おれが泊まってるところだ。ここにいるとゾンビが次々と現われるからな。落ち着けるところに行こう」
「はい!」
女神じゃないと分かれば、後は単なる保護すべき対象、民の一人だ。
おれは彼女を保護して、街まで連れて帰ろうとおもった。
そうして振り向いて、歩き出す。
「あっ、これ、落ちましたよ」
「うん?」
立ち止まって振り向く。
彼女の前に一枚のカードが落ちていた。
魔法のカード、かつて聖夜のDORECAだったカード。
懐をまさぐる、いつの間にか落としてしまったらしい。
自分のDORECAに比べて普段使わないから、気づかなかった。
「よいっしょっと、はい、これどうぞ――」
拾い上げて、おれに手渡そうとする。
彼女が差し出したカードを受け取った、瞬間。
おれと彼女、二人で同時に触ったカードが光り出した。
「え、えええ?」
「なっ、何だこれは!」
驚くおれ、うろたえる彼女。
目の前の光景に二人して慌てた。
なんで? なんでカードが光り出すんだ?
彼女が慌てて手を離した。カードの光が途切れた。
「ほっ」
「……もう一回触ってみてくれないか」
彼女に頼んだ。
「え? で、でも」
「頼む」
「わかりました……ひゃ」
さっきに比べると大分小さかったが、それでも驚く彼女。
同時に持ったカードがまだ光り出した。
今度はおれの方から手を離した。光が消えた。
もう一回つかむ、光り出す。
「どうやら……二人同時にカードに触ってると光るみたいだな」
「はい。これって何ですか?」
どこから説明したら良いのやら。
そもそも、なんで光る。
やっぱりこいつ、あの女神なのか?
謎は、ますます深まるばかりだ。




