表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
153/172

最強のサル

 次の日。


 朝まで色々考えたけど、結局良いアイデアは出なかった。


 夜明けまで付き合ってくれたリリヤはうとうとして船をこぎ出したから、ロフトのベッドに運んでちゃんと寝かせた。


 母親が近くに戻ってきたのを本能で察知したからか、寝ているアリサはエンジェル・スマイルを浮かべた。


 リリヤもムニャムニャしながら幸せそうな顔で寝てる。


 母娘奴隷の笑顔は素晴しく、ずっと見つめていたいって思うほどだ。


 が、邪魔するのも悪いから、おれはそっとそこから離れて、ロフトからおりた。


 音を立てないようにして、家の外に出る。


 朝のひんやりとして、新鮮な空気が肺を満たす。


 一つ深呼吸してから、ゆっくり歩き出す。


「武器かあ」


 おれはまだ悩んでいた。


 この世界にきてから色々作ったが、ほとんどがDORECAの作れる物か、それをベースにしたものばかりだ。


 それじゃいけないと思って完全オリジナルの物を作ろうとしたが、ピンとこない。


「うーん、もうDORECAで作れる物をそのまま作った方がいいのかな。それかニーナに頼んで、エターナルスレイブの発展系でやってもらうか」


 なんかそっちの方が早い気がしてきた。


 というかここまで悩む必要ってあるのか?


 いやそもそも、武器なんて必要なのか?


 DORECAを取り出す、まじまじと見る。


 おれの力はこれだ、なんでも作れるこれがおれの最大の力。


「ああ、ちょっと違うな」


 最大の力は――奴隷の笑顔だ。それは間違えちゃいけない。


 まあそれはともかく。物を作るのがおれの力、それに比べれば武器だのなんだのはあんまり悩んでも仕方ない部分なんじゃないのか?


 ……うん、そうかも。本当にそうかもしれない。


 もうしばらく武器無しでやって、これからは武器無しでいくって意識してやってみようか。


 そう思うと目の前の光景が広がったような気がした。気がしただけかも知れないが。


 気分を切り替えて、島を歩き回った。


 しばらく歩いた先に、おどろおどろしい森があった。


 森か、ちょっと探検してみるか。


 もし危険な森ならこのまま手をつけないで放置しよう。


 何しろこの島はこれから、魔王の島に改造していくんだ。


 侵入者を防ぐという観点からも、危険なまま放置した方がいい。


 そうして森の中に入った。


 人型のゾンビが出て、それを素手で引き裂く。


 犬だか狼だかのゾンビもでた。あばら骨が見えてて目玉がだらーんと垂れてた。


 かみついてくるのを避けて腹パンしたら真っ二つになった。


 鳥のゾンビもでた、めが赤くてくちばしの中の歯がやたらと発達しててビジュアル的に怖かった。


 そいつらを次々に倒して、進んでいく。


 うん、ここはこのままの方がいいだろうな。手をつけないで、放置した方がいい。


 ゾンビの島、ゾンビの森。


 魔王城の足元のダンジョンとしては合格点だ。


「おっ」


 今度はサルが現われた。


 凶暴な顔つき、鋭利な爪。シュレービジュ。


 倒したら人間に戻る、もはや一番なじみのあるモンスター。


 そしてゾンビだらけのこの島ではじめてあったゾンビ以外のモンスター。


 ちょっと新鮮な気がする。


 新鮮だがこのままにしとくのも忍びない。倒して、人間に戻して――。


「がはっ!」


 一瞬、なにが起きたのか分からなかった。


 強い衝撃を感じて、体ごとすっ飛ばされる。


 木に背中が当たって、ミシミシミシって何本かへし折って、ようやくとまった。


 地面に手をついて起き上がろうとする、甘いものが喉の奥から込み上がってきて血を吐いた。


「くっ」


 呻きながら、常備してる万能薬を取り出して飲む。


 体力が全開して、回るようになった頭でなにがあったのか現状把握。


 すっ飛ばされてきた方角を見た。


 サルがいた、うっきうっきと飛び跳ねて、喜びを表している。


「こいつにやられたのか?」


 まさか、と思った。


 シュレービジュと言えば最弱のモンスター、普通の人間でも――下手したら子供でも倒せるほどの弱さだ。


 凶暴な見た目に鋭い爪を持ってるが、正直見かけ倒しだ。


 それにやられたなんて、正直信じられ――。


「――っ!」


 今度は距離があったから反応出来た。


 サルがものすごい勢いで突っ込んできて、右腕の爪を振るった。


 距離があったが一瞬で目の前に迫まられた。避けられない。


 腕をクロスさせてガード。


 焼けつく痛みを覚え、またすっ飛ばされる。


 空中で万能薬を取り出して、飲む。常備分がきれた。


 着地、またうっきうっきするサルの姿が見える。


 間違いない、こいつにやられたんだ、

 こいつ……強いぞ。


 おれが丸腰な点を差し引いても強い。というか。


「いままでの相手で一番強いんじゃないかおい」


 サソリよりもエルーカーよりも、マクシムよりもドラゴンよりも。


 邪神……聖夜よりも。


 体感、このサルの方が強かった。


「なら遠慮無しだ」


 口元の血を親指の腹で拭って、DORECAを取り出す。


 いろんな意味で、こいつは放置出来ない、退治する事にした。


「鉄の剣を二十本」


 魔法陣がでて、サルをまわりをびっしり取り囲んだ。


 そして魔力で緊急生産。


 シャキーン。魔法の光が煌めき、剣が作られた。


 そこにある空間――サルの肉体を押しのけて作成される。


 つまり、突き刺さった状態で作成された。回避不能の遠距離攻撃だ!


 DORECA作成の応用技の一つで、サルはハリネズミになった。


「ウッキー!」


 サルが怒った。次の瞬間、剣がバキバキと折れて、地面に転がった。


「おいおい、効いてないのかよ」


「ウキキー!」


 いや効いてるのか。サルがあきらかに激怒してるから、効いてはいるのか。


 ならもっと――って思ってると。


「――!」


 視界がぶれた、前に向かってすっ飛んだ。


 背後から攻撃された。最後にみたサルの姿がぶれて、消えていなくなってた。


 超高速で背後に回っての攻撃。速度は完全におれよりも上だ。


「ば、万能薬……」


 魔法陣がおれに乗っかってる(、、、、、、)事を確認して、魔力緊急生産。


 体の中に直接万能薬を作成。一瞬で体力が回復するのを確認。


 空中で体勢を整えて、更にDORECAをかざす。


「鉄の剣」


「うきっ」


 魔法陣が取り囲んだ瞬間、さっちしたサルが超高速で避けた。


 作成前に避けられた、空中に魔法陣がむなしく残る。


「くっ」


 着地して、サルの方を向く。


 気のせいか、そいつは勝ち誇った顔をしていた。


 いや、気のせいじゃなかった。


「おしりぺんぺんしやがって……」


 青筋がヒクヒクしてるのが自分でも分かった。


 おれは、キレた。


 久しぶりにキレちまった。


「いいぜ……そこまでいうんなら……」


 ゆらりと立ち上がる、眇めた目でサルを見る。


「見せてやるよ、これが――おれの力だ」


 DORECAを構えて、深呼吸を一つ。


 魔法陣を大量に出した。


 一つや二つじゃない。百とか二百とかじゃ効かない。


 森、それ全体をびっしり覆い尽くす大量の魔法陣。


 万近くある大量の魔法陣だ。


 魔法の光があちこっちできらめき、矢印が乱れ飛ぶ。


 森がざわめき、ゾンビ達があっちこっちで呻きだした。


 サルがうろたえた。まわりをきょろきょろした。


 そして逃げた。相変わらずの超高速で逃げ出した。


「あまい!」


 逃げだ先もびっしりの魔法陣。そこに魔力を注入して鉄の剣を生成。


 勢いは止らない、更に進むサル。


 その先にも魔法陣。


 生成、生成、さらに生成。


 やがて、全身に数十本という数の鉄の剣が突き刺さって、サルは地面に転がって、動かなくなった。


 まったく、手こずらせやがって。


 残った魔法陣を全て消して、元に戻す。


 一応警戒しつつ、考える。


 なんだったんだこのサルは。この島の固有種か?


 こういうのがもしごろごろしてるとなると……魔王の島としては有望だが、ちと手をやくな。


 どうしようか、っておれが思っていると。


 サルがいよいよ絶命して、体が光に包まれた。


「ああ、ちゃんと人間に戻るのか――って」


 おれは驚いた、盛大に驚いてしまった。


 なんて、サルから戻ったのは人間じゃない。


 あの――女神だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ