魔法のキッチン
「メニューオープン……え?」
朝の自宅、今日は何から作ろうかなとDORECA持ってメニュー開いたら驚いた。
--------------------------
アキト
種別:フロンズカード
魔力値:186006
アイテム作成数:1060
奴隷数:2
--------------------------
魔力がかなり増えてる。
昨夜寝る前は十万ちょっとだったはずなんだが、何故か八万も増えてる。
さすがにこれはおかしい、記憶違いの域を超えてる。
とはいえ原因はごくごく限られてるから、おれは可能性のある二人に聞いた。
「リーシャ、ミラ。何かいいことあった?」
「いいことですか?」
「えっと……」
二人は考える。ミラが先に答えた。
「ご主人様ができました!」
――魔力を100チャージしました。
手を合わせて、笑顔で答えるミラ。
何もしてないのに微妙に魔力がチャージされたのが本心っぽかった。
「リーシャは?」
「えっと、わたしも……あっ」
言いかけて、顔を赤らめて口をつぐんでしまう。
「どうした」
「い、いえ、なんでもありません!」
更に顔を赤くして、手をぶんぶん振る。
じっと見つめた、目をそらされた。
いやな感じではなさそう、恥ずかしいだけって感じだ。
意味不明だけど、原因はわかった。
昨夜から今朝にかけて、おれが寝てる間にリーシャに何か嬉しい事があったんだな。
そのリーシャはおれをちらっちら見た。更に原因はおれにあるみたいだ。
……寝顔が可愛かった、とか?
☆
「あっ、アキトさんおはよう」
家を出るとマドウェイがいて、話しかけてきた。
「おはよう。なんかばたばたしてるな」
マドウェイの後ろに男連中が集まってて、何か準備している。
「これからみんなで狩りにいくところなんだ」
「狩りに? 食べ物はあるんだろ?」
おれは倉庫の方をみた。
あの中に、昨日まとめて作った1000個近くのプシニーがある。
現在の住民は27人だ、一日三食計算でもとりあえず12日分はある。
「それはすごくありがたい」
マドウェイは頭を下げた。
「プシニー……だっけ。あれ一つでお腹ふくれるし、大量にあるから生活の心配がなくて、みんな感謝してる」
ならなんで? と思った。
「しかし……これは言いにくいんだけど、あれはまずい」
「違う、まずすぎる」
おれが言った、申し訳なさそうな表情をしたマドウェイが吹き出した。
「そう、まずすぎる。腹はふくれるんだけどあのまずさは……ってことで、ちゃんと食べられるものもほしいなって事で、やっぱり狩りはしようって話になった」
「そうか」
最低限の保障はあるけど、上のランクの生活を目指すって事か。
「男衆は狩りに、女達は植物で食べられるものを探す。そんな風に手分けする事になった」
そう話すマドウェイ達を送り出した。街の中に奴隷の二人と残った。
「ご主人様、今日は何から作りましょうか」
リーシャが言ってきた。
おれは考える。
色々とやりたいことはある。
家をもっと作ったり。
ミラに引かせたラインで町の壁みたいなのを作ったり。
シュレービジュを探しに行って、更に住民を増やしたり。
やりたいことは山ほどある。
が、それは全部あと回しにした。
「台所を作ろう」
「台所ですか?」
リーシャは首をかしげた。
「ああ、正確には共同の炊事場、ってヤツかな。みんなは美味しいものを食べたくて狩りに行ってるんだから、それを料理にする場所をな」
「なるほど」
「そういうのも作れるんですか?」
ミラが聞いてきた。
「メニューオープン」
DORECAを持って作成リストを見る。
それっぽいものはなかった。
なかったけど――別のものの魔法陣を地面にだした。
「リーシャ、ミラ」
「「はい!」」
二人はにこにこ顔で倉庫に駆け込んだ。
戻ってくると、リーシャは不思議そうな顔をしていた。
「ご主人様、この素材って……木の家ですか?」
さすが何度も一緒に作ってるリーシャ。持ってきた素材で判断出来る様になっていた。
「ああ」
「炊事場をつくるのでは?」
「いいから」
「はあ」
リーシャとミラ、二人は素材を魔法陣入れて、木の家を作った。
「むっ、ちょっと場所がわるいな」
木の家をひょいっと持ち上げて、離れた場所におろす。
魔法陣の段階で位置調整は難しいんだよなあ。
ちなみに、おれが作ったものなら、その気になれば簡単に持ち上げられる。
他の人間には物理法則通りの重さだけど、おれだけがそうじゃなくて、重さ関係なく持ち上げられる。
じつはこれ、ある事に流用できそうなんだけど……機会があったら試してみようと思ってる。
場所を調整して、家の中に入る。
次々と魔法陣を作る。
テーブルとか棚とか、そう言った台所に必要なものを一通り魔法陣でだした。
そしてかまどを――。
「……」
「ご主人様?」
ミラが小首をちょこんとかしげて見上げてくる。
「こっちにしよう」
おれはあるものを見つけて、かまどの代わりにそれをだした。
☆
魔法陣の矢印が指す先、町からかなり離れた山の中にそれがいた。
それは穴から流れ出ていた。
穴のまわりを溶かし、燃やす溶岩。
それが全部流れ出てから、形を変えてうごめきだした。
溶岩のモンスター、その体が素材の光を放っていた。
「こいつか」
単身でここにやってきたおれは腰のエターナルスレイブを抜いた。
この距離でも熱さが伝わる、肌がじりじり灼ける。
剣を振って斬りかかった。
「硬い! けど!」
斬れないわけではない。力を込めて更に振り下ろすと、溶岩のモンスターを両断した。
「やっぱりそうなるか」
真っ二つにされた溶岩のモンスターは一つにくっついた。
スライムっぽい感じがしたからぶっちゃけ予想してた。
「……2000かな」
ちょっともったいないけど、けちって結局高くつくよりはいい。多めに払っても一撃でやったほうがいい。
おれは魔力をエターナルスレイブに込めた。
数字にすると2000、それを一撃で放つイメージで。
刀身が白く光り出し、膨張していく感じだ。
それを――一気に振り下ろす。
奴隷の剣と魔力の塊、それがハンマーのように溶岩の魔物を消し去った。
そのあとに残ったのは赤い光、魂のような赤い光だった。
☆
赤い光――ラーバの魂を町に持ち帰って、炊事場の中に持ち込んだ。
「ご主人様!」
「お帰りなさい!」
二人の奴隷に出迎えられる。
出した魔法陣が一つをのこして、全部完成している。
「ご苦労様」
二人の頭を撫でて、その魔法陣に向かう。
ラーバの魂を入れると、魔法陣がものに変わった。
台の上に、二つの穴が開いている。その穴の前につまみがある。
「ご主人様、なんですかこれは?」
「かまどみたいなもんだ。多分こうして……」
おれはつまみをひねった。直後、そこから火がでた。
もう片方のつまみもひねる、そこからも火が出た。
「すごい! どうやって火をつけたんですかこれ」
ミラが驚く。
「そういうものだ」
そういってつまみを回す。消えて、弱火で、強火に。
まるっきりガスコンロだ。
「こんなの見た事ないです!」
「うん! 普通はかまどで火をおこすから大変」
リーシャとミラがいう。
火を消して、テーブルとか棚、そしてコンロの位置を調整して、より台所にする。
「よし、完成だ」
台所をみて、おれはちょっと達成感を覚えた。
今までと違って、ある意味パーツ単位でつくって、それを組み合わせたものを作ったから、今までで一番達成感があった。
ちなみに、台所――魔法のコンロは町の住民達にものすごく喜んでもらえた。
それを使って作ったウサギの丸焼きをお礼にもらったくらいだ。
こっちの感謝は魔力増えないけど、悪い気はしなかった。




