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セルフNTR

「みなさーん、ならんでくださーい」


 マガタンの街外れ、入ったばかりの組合の人間と一緒に仕事にやってきたおれの前に、ヴェラが立っていた。。


 草色のドレスを着た幼いエターナルスレイブ。


 ユーリアの娘、ヴェラ。


 母親と同じ……いや母親の願いを叶えてやる形、母娘ともどもおれの奴隷にした子だ。


 もちろん、おれの子でもある。


 そのヴェラの前に、男たちが集まって、綺麗に並んでいた。


 いかにも肉体労働が得意そうな、ガテン系の男たち。


 一番ひょろっちいのは間違いなくおれだ。


「きょうは、いえをいっぱいつくる」


 ヴェラは母親譲りの落ち着いた喋り方でいった。


 ちょっと舌っ足らずな感じのその口調はみてて微笑ましい。


「しごとにつかうばしょ。それといっしょにごみしょりじょうもつくる」


 ゴミ処理か。


 ちょっと前に開発して以来、あっちこっちの町に設置した施設だ。


 人間がふえればゴミ問題が生まれる、それを解決した施設だ。


 それも作るって事か。


「あなたと、あなた」


 ヴェラはならんでる男たちを右端から指名していった。


「これがそざいりすと、これをまちのそうこからはこんできて」


「わかった!」


「任せろ!」


 指名された二人が走って行く。


 ヴェラは次々と男たちを指名しては、仕事を振り分けた。


 振り分けられた男たちはみんな喜び勇んで仕事に走った。


 やがて、おれの番になる。


 おれの前にやってきて、見あげるヴェラ。


「……」


「どうした?」


「……」


 聞いても、答えないヴェラ。


 可愛らしい顔とつぶらな瞳で、じっとおれを見あげてくるだけ。


 どうしたんだ。


「あなた、なまえは?」


「……サキモリだけど」


「ちがう。ご主人様じゃない……」


 首を振るヴェラ。


 一瞬だけどきっとした。


 おれは魔法で変装してる、ぶっちゃけ面影がまったくないってレベルで変わってる。


 変装ってよりは変身にちかい変わりようだ。


 それを、ヴェラはなにか感じ取った。


 つぶやきがまんまそれで、どきっとした。


「えと、おれ……ぼくは何をすればいい?」


 思わず一人称と口調を変えた。


「これをもってて」


 ヴェラはそう言って、一枚の紙を渡してきた。


 紙を開いて、中を見た。


「……設計図?」


「けんせつの、よてい」


「なるほど」


 図面はブロックにわかれてて、ブロックごと違う色で塗りつぶされてる。


「ここ、なにいろ?」


 ヴェラが聞いてきた。


 図面と実際の地形を見比べて、一番端っこの場所だと読み取った。


 ヴェラがたってるのは、赤く塗りつぶされてるところだった。


「赤色になってる」


「あかね」


 ヴェラは奴隷カードを取り出して、地面に魔法陣を張った。


 数歩すすんで、立ち止まって、また聞いてくる。


「ここはなにいろ?」


「ここも赤。その次が青」


「あかと、あおね」


 おれの案内通りに、ヴェラは魔法陣を張った。


 思わず気になった、この図面を書いたのは誰なんだろうって。


 ユーリアかな、それとも別の奴隷なのかな。


 どっちにしても。


 魔法陣を張り終えた後、一息ついたヴェラは可愛らしかった。


 一仕事をおえて、満足げに胸を張って鼻息を荒くする幼いエターナルリトルは可愛かった。


 思わず、頭をなでてやった。


「ふぇ……」


 ――魔力を5,000チャージしました。


 とろけそうな笑顔を浮かべるヴェラ。その顔も可愛い。


 が、ヴェラはすぐにはっとして、おれから飛び退いた。


 どうしたんだろ。


「だ、だめよ」


「だめ?」


「ヴェラはご主人様がいるから」


「……ああ、それはごめんな」


 そういうことか。


 おれという他人に頭を撫でられて喜ぶのは奴隷としてよくない、ってことか。


 飛び退いたヴェラはものすごく複雑な表情をした。


 あまり困らせてしまうのもなんだし、ぶっちゃけ自分で自分の奴隷を寝取った、という不思議な気分になった。


 それをやめるために、おれは気を引き締めて、町民Aに徹するようにした。


 その後、もどってきた男たちに混ざって、ヴェラの指示通り素材を魔法陣に運び入れたりした。


 途中で休憩を挟んだ、男たちが前もって準備してたお菓子を持ってきて、ヴェラに与えた。


 ヴェラはよろこんで、満面の笑顔でお菓子を食べた。


 やっぱり子供だな、って目尻が下がる光景だ。


「うん?」


 ふと、おれはある事に気づく。


 男たちからお菓子を受け取って、笑顔でそれを食べるヴェラは魔力チャージしなかった。


「もしや」


 ある仮説を立てて、おれはお菓子をとって、ヴェラに言った。


「ヴェラ様、こちらも美味しいですよ」


 といってお菓子を渡した。


「ありがとう」


 ヴェラはまぶしいくらいの笑顔で受け取った。


 ――魔力を15,000チャージしました。


 なんと魔力をチャージした。


 ヴェラの笑顔はさっきまでと変わらない、受け取って食べるという行動も変わらない。


 なのに他の男が与えたときはなにも起きなくて、おれがやったときだけ魔力のチャージがある。


 おれが与えてやった笑顔でしか、魔力チャージはしないみたいだ。


 まあ、おれの奴隷だし、それは当たり前なんだが。


「あの」


 ヴェラはやってきて、おれを見あげた。


 はにかんで、もじもじして、やがて意を決して切り出した。


「ごめんなさい。ありがとう」


 ――魔力を3,000チャージしました。


 申し訳なさそうなありがとう。


 おれはますます、自分で自分の奴隷を寝取った様な気分になった。


 結構たのしいけど、ヴェラは困ってるみたいだから、今後、変装してるときはあまり奴隷たちと関わらないようにしよう。


 そう決めると、遠くからユーリアが走ってくるのが見えた。


 変装してないユーリア。


 男たちがざわめき、ヴェラがかけよっていった。


 ふと、おれは思った。


 自分で自分の奴隷を寝取る。


 その事で、ヴェラはいつもと違う感じになってた。


 それを――ユーリアにもやったら?


 笑顔の下限が高いユーリアにやれば、笑顔をさせられるかもしれない。


 最悪無駄骨ってだけだし、うん、ためしてみよう。


 そう思い、さてどうしようかと思ったその時。


 ユーリアは一直線におれの前にやってきた。


「ごしゅ――サキモリ、だったね」


 深呼吸して、言い直すユーリア。


 そう、今のおれはマガタンの住人、サキモリだ。


「仕事がある、ついてきて」


「わかった」


 頷き、ユーリアの後ろについていく。


 ヴェラもついてきた。


 他の男たちは羨ましそうな目をして、「ユーリア様の命令をちゃんと聞けよ」と送り出してくれた。


 そうして、人気の無いところにやってきてから。


「大変ですご主人様」


 といった。


 切羽詰まってる顔。


 そういえば、と思い出す。


『緊急以外はお前が処理していい』


 おれはユーリアにそう言ってた事を。


「何か緊急事態なのか」


 ユーリアはこくりと頷いた。

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